投稿について

まず翻訳文を投稿するに当たって、私は中国語並びに中国においての習慣などについて知識がないことをご理解ください。

本文は翻訳アプリにて翻訳した内容を私の都合のいいように書いたものです。

これはこういう意味だよ、このキャラはこういう言い回しだよ、等ご指摘したくなる部分が沢山あるとは思いますが、上記を理解した上で寛大な心でお読みください。

繰り返しになりますが、本文はご都合主義、私が言わせたいように私の解釈で翻訳したものです。

自己満足の為に打ったものでも見たいと言う方のみが見るようにしてください。

 

また、自分が読みたいところのみを翻訳していくため、現段階で翻訳しているのは第161話以降です。

もしその前の話が気になる方がいらっしゃれば、とても素晴らしい翻訳者様が沢山いらっしゃるので、そちらの方をお読みください。

ミス等ありましたら、コメント又はリプにてご指摘頂けると大変助かります。

 

最後まで読んでくださり、ありがとうございました。

第23話 幸せ

顧海は眉をひそめ、資料ファイルを見ながらも意識は他に飛んでいた。

俺と白洛因って結局どうなったんだ?

理論的には一緒にいても、物理的には離れ離れのままだ。後から考えてみれば絡まっていた糸は解けたものの、どちらからも"付き合おう" "好きだ" とは言っていない。顧海は社長室を2周歩きながら、前までのようにならない為にはどう白洛因に話すかを考えていた。

顧海は今まで無謀な告白を繰り返してきたが、二度と同じ過ちを繰り返してはならない。去年の白洛因への失敗を思い出して居た。いつも自分は感情的になって全てを台無しにしてしまうと考えていたので、今回こそは注意して、慎重に告白をしなければならない。

歩きながら顧海は窓際にしばらく立っていると、白洛因の車が近づいてきた。

顧海の穏やかだった心が一気に荒れ、頭からつま先までの神経が震えた。過去の冷たい顧社長のイメージは無く、嬉しそうにエレベーターへと駆け込んだ。
女性社員はまるで幽霊でも見たような顔をしながら社長の姿を見ていた。
今日の社長は何があったの?
婚約者にだってあんな幸せそうな顔してなかったじゃない!

しかしまだ顧海は動揺していた。白洛因とどう話せば良いのかまだハッキリしていないが、それでも今日こそは歴史を変えてやる!と意気込みながら……

だが、エレベーターを降りると顧海は別人のように会社の前まで出ると、白洛因に気づいてないふりをしながら彼の車まで真っ直ぐと歩いて居た。顔はいつも通りを装っているが、頭の中ではどうすればいいのかと混乱している。

しかし、白洛因はロバのおもちゃと遊んでいて、顧海のことは全く見なかった。白洛因はまだ顧海の仕事が終わらないと思っていたので、まず車で前まで来て、後から連絡をしようと考えていた。

顧海は車のドアを開けても気づかないのを見て、心の中で文句を言った。
こんなのでパイロットになれるのか?

眉をひそめて歩きながら、ネクタイを正し、胸の高鳴りを抑えながら、白洛因の車のドアを強く叩いた。

白洛因が窓から顔を出した途端、顧海が話し出した。
「ここに何しに来たんだ?」

白洛因が車のドアを開けて降りた。シワひとつない軍服に身を包み、革のブーツを履き、英雄的な表情を見せながら、文句の付けようのない整った顔。白洛因の姿は地面を這うアリすらも驚かせた。

顧海の心は白洛因に向かって手を伸ばした。

「お前こそなんでここにいるんだ?もう終わったのか?」

白洛因が意図的に尋ねると、顧海は穏やかに答えた。
「外で会議があって戻ってきた所だ。そしたらお前がいたから顔を見せにな。」

顔を見せに……?
白洛因はこの言葉の意味を必死に考えていた。

顧海は白洛因が黙り込んだのを見て、前から決めていた質問を投げかけた。
「狄双を待ってるのか?待ってろ。今読んでくる。」

白洛因は顧海の腕を掴んで叫んだ。
「知らないフリすんなよ!狄双は2日前に辞めただろ?」

「そうなのか?」
顧海は片眉を上げた。
「毎年この時期は随分退職者が出るんだ。全部人事部が管轄してるから本当に知らなかったんだ。」

顧海の見えついた嘘を聞いている間、白洛因は冷たく笑った。

「だったらなんでここにいるんだ?」

顧海が聞くと白洛因は素直に答えた。

「お前に会いに。」

顧海の心は射抜かれ、冷静なフリをしようとしたがニヤケが抑え込めなかった。

「なんで会いに?」

「お前をレイプしに来た。」

白洛因がまっすぐそう言うと、顧海は1歩下がり白洛因の額を指さした。

「ここに変出者がいるぞ!」

白洛因は顧海の指を掴んで無理やり折り曲げた。
「何言ってんだよ!あの夜、沼で俺にキスしてきたのは誰だ?分かってんだろ。」

「警備さん!この人変な人だ!助けて!」

そう言うと、顧海の後ろに立っていた警備員は信じ込んで警棒を持って顧海の後ろから飛び交った。顧海が対応する前に白洛因の右肩に警棒が当たった。

顧海の顔が突然暗くなり、警備員を蹴った。すると警備員はしゃがみ込んだが、顧海は止めずにもう一度蹴った。

「誰がこいつを殴れって言った!?」

顧海が怒鳴ると、警備員は悲惨な顔つきで立ち上がった。
「助けてって言いましたよね?」

顧海は目を赤くして怒った。
「冗談に決まってるだろ!なんで殴ったんだ!?」

「そ、そんな……冗談には聞こえませんでしたよ……」

警備員は小さな声で弁解した。

顧海がもう一度殴ろうとしていると、白洛因が止めたのでここぞとばかりに警備員は逃げ出した。

顧海が振り返って白洛因を見ると、平手打ちをした。

「お前もあいつが来たのが見えなかったのか!?なんでよけなかったんだ?なんであいつに殴られたんだ!!?」

「わざとだよ。」

白洛因は顔色を変えずにそういうと、顧海は怒りを溢れさせた。

「お前……」

白洛因は顧海に近づき、その冷たい目は顧海を見つめた。

「俺が軍人だったこと忘れてんのか?そんな一々怒ってないで少しは落ち着けよ。ほら、笑えるだろ?」

顧海は悩んだ。
お前が傷ついたって言うのに笑えるか!?

「そんな怒んなって、社長なんだから寛大じゃなきゃダメだろ?」

そう言われていても、顧海の目は殴られた白洛因の肩を見つめていた。

白洛因はまるで全てを忘れたかのように話を変えた。

「そうだ!お前の息子を連れてきたぞ!」

「息子?」

白洛因は車の中に手を伸ばすと、ロバのおもちゃを持って顧海の顔の横に並べた。

「見ろよ!本当にそっくりだな。」

白洛因は笑いながら車の屋根にロバを乗せてスイッチを押すとロバは従順に頭を前後左右に揺らした。

顧海も笑ったが、ロバがおかしかったのではなく、白洛因の反応を面白がって笑った。

なんなんだよ!
俺がどんだけ頑張ったってこいつはカッコつけて微笑んですらくれなかったって言うのに、ロバにはこんなに笑うのか!?

「ほら、やるよ。」

白洛因は顧海の手にロバを乗せた。

顧海はロバの頭を撫でながら、嬉しそうに聞いた。
「俺が馬年生まれだって知ってたのか?」

「お前の雰囲気がロバそのものなんだよ。」

そう言うと、白洛因は顧海の肩を叩いた。

「隊長様からのプレゼントなんだから大切にしろよ!」

顧海はニヤケの収まらない口元を無理やり隠した。
「こんな子供じみたおもちゃ恥ずかしくってどこにも置けねぇよ。」

白洛因はロバを奪おうとしたが、顧海が急いで隠したので足を掴むだけで奪いきれなかった。

「わかった、わかったから!お前からプレゼント貰ったし、次は俺がもてなしてやるよ。社長室に来るか?」

白洛因は誇らしげに顧海を見た。
「いや時間無いから帰る。」

そう言うと白洛因は颯爽と去った。

顧海は密かに後悔した。
押しが強すぎたか……



白洛因が顧海から見えなくなると、顧海はすぐにロバのおもちゃを嬉しそうに抱きしめた。あぁは言ったがちっとも恥ずかしさはなく、社員全員に自慢したいほどだった。
社長室に着くと、顧海が息子を机の上に置いたのと同時に、財務部のマネージャーが資料を提出しに来た。

ドアを開けて顧海を見ると、目眩がするようだった。いつも冷たい顔をしている社長が、部下の前で笑顔を見せるのは初めてだった。
マネージャーが中に入ったのに気づくと顧海はロバから顔を上げて彼女を見て笑顔が消えた。しかし彼女はしっかりとその笑顔を見てしまっている。

「社長、そのロバのおもちゃとっても可愛いですね!」

そう言うと、顧海は嬉しそうに手を振った。
「そうだろ!お前にボーナスをやる!」

マネージャーは驚いて開いた口が塞がらない。
神様!今までどれだけ頑張ったってボーナスなんて貰えなかったのに、ロバを褒めただけで貰えるなんて!!


仕事が終わると、顧海はロバを抱えて家に帰った。



白洛因は帰っておらず、会社の周りをドライブしていた。会社の灯りが消えたのに気づくと、直ぐに顧海の車を見つけてついて行き、彼の家まで後を追った。

顧海はずっと白洛因の車に気づいていたが、知らないふりをしていた。玄関のドアを開ける時になって後ろに誰かいるのに気づき、不自然に驚いて見せた。

「ついてきたのか?」

本当の事を言えば今すぐ白洛因を家に連れ込んで、すぐにドアの鍵を閉めて、その後は……

「お前の飯食いに来た。」

白洛因は簡単にそう言った。

話し終わったら俯いて、顧海の手に収まるロバのおもちゃを見た。
「恥ずかしいんじゃなかったのか?恥ずかしいのに家には連れて帰るのか?」

顧海は一生懸命言い訳した。
「違う!会社に置いておくのが恥ずかしかったから持って帰ってきたんだ。」

「もういい。返せ!」

白洛因は暗い顔でロバを奪おうとしたが、顧海は逃げてそのまま彼を家の中に連れ込んだ。そして無理やりドアを閉め、幸せそうに白洛因を見つめた。

「白隊長がくれたのに、今になって返せって言うのか?帰りたければ帰れよ。まぁ家のセキュリティは厳重だからどんだけ開けようとしたって開かねぇけどな。……言いたいこと、わかるよな?」

白洛因は冷たく鼻で笑うと、手を組んで骨をボキボキと鳴らした。

「早く寄越せ!隊長命令だぞ!」

第22話 静かな日々

顧海は墓地を出発すると、真っ直ぐ家へ帰った。

顧威霆はリビングのソファに座り、姜圆はキッチンで料理を作っている。顧海が入った途端、顧威霆の顔は変わった。彼の顔は日に焼けて、体は泥まみれで、まるで人ではないようだった。

顧威霆は彼を眺めていると、顧海は玄関で靴からスリッパに履き替えていた。

「なんで報告もせず一人で探しに行ったんだ。お前が問題を起こすせいで軍の上官も兵士もお前まで探す羽目になったんだぞ。」

顧威霆は怒るように言ったが、その声には心配が混じっていた。
なので顧海も動揺せず、振り向いて静かに顧威霆に言った。

「俺が探しに行かなきゃ見つかってなかった。因子が居たのは沼に囲まれてて、誰も助けることが出来ない。一年中霧に囲まれていて飛行機を飛ばしたって分からないんだ。それにリスクを背負おうとする兵士もいなかっただろ?しかも俺は単独行動してたんじゃなくて、因子が見つかった時にたまたま俺もいたんだ。それのどこが問題なんだ?」

顧威霆は鼻を鳴らした。
「お前はいつも合理的すぎる。」

顧海はハッキリと、冷たく顧威霆に言い放った。
「俺はあなたの息子を探してたんだ。」

姜圆は声を聞いて急いでキッチンから出ると、たまたまこの話を聞いて固まったまましばらく口を開くのを躊躇った。

「小海、先にお風呂に入ってきなさい。」

姜圆は顧海に感謝して、顧威霆が言っていたことは聞いてないふりをした。

顧威霆は姜圆の複雑そうな目を見て、顧海に小言を言うのをやめて、顎を上げ好きなことをするように指示をした。

3人でご飯を食べている時、姜圆は顧海のお皿に料理を乗せ続けた。

「小海、もっと食べなさい。息子のことを助けてくれて本当に感謝してるの。」

顧海は乗せられた料理を食べるだけで、率先して話すことは無かった。

父と息子は黙って食事をすることを選んだ。

そのままご飯を食べ進めていると、突然顧威霆が箸を置いて、顧海に尋ねた。
「婚約者の御家族にはなんて説明するんだ?」

「ちゃんと説明するよ。本当のことを伝える。」
顧海が穏やかに答えると、顧威霆は安心した。

口にご飯を運びながら姜圆が話した。
「あの子はもう26なのにしていいことと悪いことも分からないのね……もうそろそろ腹を括って欲しいんだけど、今の若い人は考え方が違うのかしら……。」

顧威霆は顧海をちらっと見てから、鈍い声で言った。
「そうだな。」

ご飯を食べ終え、顧海は荷造りをして戻ろうとしていると、出発前に姜圆に声をかけられた。

「小海、結婚式のことは相手の御家族に失礼だったわ。結局は彼女だって大きな女の子なの。向こうに何か持って言って、ちゃんと謝るのよ?家族間に溝を作らないようにね?」

顧海は頷いた。
「分かってる。」



翌朝早く、顧海は病院に向かった。

闫雅静の母の状態は悪化しており、複数の医療スタッフが24時間体制で監視していた。顧海が声をかけると医者が病室へ連れていってくれた。

闫雅静はドアの前で深刻そうな顔で立っていた。

「あの日は本当に悪い事をした。」

顧海がそう言うと、闫雅静は微笑んだ。

「いいのよ。そんなことより戻ってきて大丈夫なの?お兄さんは大丈夫?ちゃんと見つかった?」

「沼で見つかったよ。あと1日でも遅れていればどうなってたか分からないけどな。」

「良かった……」
闫雅静は安堵のため息をついた。
「仲のいい兄弟がいていいわね。私には兄妹がいないから羨ましいわ……。」

顧海の口角が何故か上がった。
「いや、俺も同じだよ。」

「え?」
闫雅静は理解できていないようだった。

兄弟じゃなくて、恋人だからな。

顧海は心の中で密かに言った。

「なんでもない。それよりもお母さんは?」

闫雅静がため息をついた。
「あんまりね……お医者様はあと数日だろうって。」

「さっきお母さんに話しかけたけど、反応が無かったよ。」

闫雅静の目が苦しみで歪み、顧海を見て絶望的な気持ちになった。

「顧海、お母さんはもうあと少ししか生きられないから結婚式は無理だわ。だから格式張ったことはやめて、明日お互いの家族だけで食事をするのはどう?なんでもいいの。それだけでもお母さんはきっと安心するわ……」

「小闫」
顧海は口調を変えた。
「お前との婚約を解消したい。」

闫雅静の顔が変わり、憂鬱な視線が顧海を刺した。
「なんで……私何かした?」

「違う。」

「なんで、じゃあなんで最初に嫌だって言ってくれなかったの?どうして今になって言うの?」

「ごめん。」
顧海が謝るのは滅多にない事だ。
「俺はお前とずっと一緒にいて嫌だったことなんて何も無い。けど恋人ができたんだ。あいつを悲しませるようなことはしたくない。」

闫雅静はこれを聞いて、今にも逃げ出したくなった。しかし今はプライドを捨ててでも、母のために戦わなければならない。

「その人には絶対に言わないって約束するわ。あなた達の関係を壊すようなことは絶対にしない!だから……」

顧海はどうしようもなく微笑んで、優しく声をかけた。

「他の人の前でなら嘘をつけるけど、あいつの前では出来ないんだ。」

闫雅静は呼吸が苦しくなったが、それでももう縋るようなことは出来なかった。

「……そうね。わかった。私の家族のことだもの。あなたに頼るのが間違ってたわ。」

顧海は黙っていたが、しばらくして言った。
「きっとお母さんは全てわかってるよ。だから最後の日ぐらい、正直にならないか?」

闫雅静は驚いた目で顧海を見た。

顧海は何も言わず、闫雅静の肩を叩いて、病院を去った。

帰り道でも、顧海の心はまだ暗いままだった。

白洛因、お前は本当に悪いやつだよ。
あのキツネと別れてなかったら、お前の腹に飛行機ぶつけてやるからな!



実際は、白洛因は顧海よりも早く狄双に電話をして真実を伝えていた。

「顧社長と私の仲が良いから?」

「そんなの気にしてないよ。それに君のせいじゃない。」

狄双は悲しみに溢れていたので理解が出来なかった。

「本当に彼とは何も無いの。あなただって副社長に指輪を渡してるのを見てたでしょう?しかも社長はあなたの兄弟なんだから、私は信じなくても彼は信じて!」

「あいつのことは信じてるよ。」
白洛因がそう言うと、狄双は焦った。

「じゃあ、なんで別れるの?」

白洛因はここ数年軍から出ていなかったので、嘘のつきかたが分からなくなっていた。隠さず言うことこそが、軍人としての誠実さだった。

「俺は顧海が好きなんだ。」



正月の初十日、2人が戻ってから3日目、顧海の休日は終わり、出勤すると狄双は顧海を見つけて辞職届を提出した。

「どうした?」

顧海が聞くと、狄双は率直に答えた。
「私から彼氏を奪った社長の元では働けません。」

これは顧海を恥ずかしがらせるために言ったのだが、彼はそれほど弱くはなかった。

「半年分の退職金を与えてやるから安心して退職しろ!」



夜になり、顧海は闫雅静から彼女の母が亡くなったと聞いた。

「悲しみすぎるなよ。」

顧海がそう言うと、闫雅静は喉をつまらせながら答えた。
「ありがとう。昨日母に本当のことを全て話したの。母は私を責めるどころか賢い子だって褒めて、今日静かに旅立ったわ……。」

電話を切ると、顧海は心の中で3分間嘆き、その後は自分を落ち着かせた。

心のままに生きれば、静かな日々が訪れるという言葉があるが、その通りだった。人は生き残ったからこそ、未来がある。



白洛因の功績を称え、上官は彼に10日間の休みを与えたので、20日間の休みが30日間の休みに増えた。白洛因は突然の長期休暇で、何をすればいいのか分からなかった。
顧海は既に会社での今年の作業計画準備で忙しく、白洛因は通りを運転していた。

一年中戦闘機に乗っているせいか、地上だと東西南北の区別がつかず、道路が複雑になったように感じた。白洛因は道路脇に車を停めて、ナビが警報を鳴らしイライラしたので消した。

どれだけ街におりてなかったっけ?
こんな通りあったか?

考えていると誰かが車のドアを叩いた。白洛因が顔を向けると、年老いたおばあさんが立っていた?

「お若い人、このおもちゃはいりませんかね。ロバを見ててください。この子は頭を振って歌うっていうのに、わずか50元ですよ。」

最初のうち、白洛因の唇は紫だったが、徐々に表情も柔らかくなると、おばあさんにお金を渡した。

「よし、それをくれ!」

手に取ると、白洛因はロバをいじりながらスイッチを押すと、ロバは頭を振って幸せそうに、狂ったように踊っていた。
白洛因はそれを見て微笑んだ。彼は気づかなかったがここを通り過ぎる歩行者は、車に座っている顔の整った軍人がロバを見て微笑むのを見て、心が温まった。

白洛因はロバが面白かったから笑ったのではなく、このロバが顧海に見えていたので笑っていた。
だから白洛因は今すぐこのロバを父親の元へと届けなければならない。

第21話 与えられ続ける危険

2人はその硬い地面で3日間過ごし、その間、捜索用の2機のヘリコプターが飛んだが、低空で飛ぶだけで見つけてはくれなかった。リュックの中の食料も尽き、白洛因はここから離れることを決めた。多少のリスクはあるが、ここで座ったまま野垂れ死ぬよりはマシだ。

最初に沼を通ろうとした時、問題が生じたが幸いにも2人なので、なにかが起こったとしてもお互いを助けることが出来る。最も危険な場所を通過したので、状況は比較的マシになった。進むスピードは遅いが、基本的には上手くことが進み、それ以上辛くなることは無かった。

2人は引きずりあって、顧海は足を片足ずつ出した。

それから3日後、顧海の車が停まっていた場所に辿り着いた。しかし、タイヤの跡はあるのに車はない。

顧海は唇を噛み締めて、終わったと思った。これではあと2日はかかってしまう。

食料も底をつき、この2日は水だけで過ごした。運が良ければ動物も捕まえられたが、乾いた木が無いので殆ど生で食べていた。それ以外は雑草を食べて過ごしている。

「もう嫌だ。腹が減りすぎて胃が痛い。」

白洛因は振り向こうとしていたが、顧海が彼を掴んだ。
「戻っても周りには沼しかないだろ。危険な状況になったらどうするんだ?もうお前のことを助けらんねぇぞ。」

「お前の目の前に居るよりかは沼に埋まった方がマシだ。」

顧海は歯を見せて笑った。
「じゃあ俺が骨を拾ってやるよ。」

白洛因は姿を消した。



顧海が待っていると、5分にもならない時にそう遠くない場所から白洛因の助けを求める声を聞いた。

何かあったのか!?

顧海は走って声の聞こえた場所へ走った。周りを見ないで走ったので何度か沼に落ちそうになりながら、白洛因の方へ何度も叫んだ。
「焦るな!横なって沼に接する面積を増やせ!」

やっと白洛因の近くに辿り着くと、彼は悲しそうな顔で地面にしゃがんでいただけだった。

「どうしたんだ?」

顧海が額の汗を拭きながら聞くと、白洛因は顔を伏せて答えた。
「……出ないんだ。」

顧海はなにも言えなくなるほど笑った。
ただの便秘でこんなに悲しそうな顔をするのかよ。

「そりゃ3日間雑草と樹皮しか食べてないんだから出てくるわけねぇだろ。」

そう言うとしゃがんでいる白洛因の側へ寄った。
「手を離せ!」

「な、何をするんだ?」

顧海は胃のあたりに置いていた白洛因の手を離して、そこに自分の手を置いた。腸のあたりを強く揉みながら声をかけた。
「お前本当に上に立つ人間なのかよ!部下に自分の隊長がどれだけ弱虫なのか見してやれよ!」

白洛因は眉をひそめながら、突然顧海のことを押した。

「来る!はやくどっか行け!」

利用価値の無くなった顧海はすぐに離れた場所へ行かされた。

顧海は地面に座りながら白洛因を待っていると、突然空から音が聞こえて、瞼を開いて見上げると、ヘリコプターだった。ヘリコプターのパイロットが目に入ると、顧海の頭上から離れ、10メートル先へと着陸した。

顧洋はヘリコプターから降りると、顧海の元へ走った。

「どうやって来たんだ?」

顧洋の表情は穏やかだった。
「事故があったんだろ。」

白洛因は満足そうな顔で2本の木を通り過ぎると、そう遠くない場所に2人の姿を見た。幸せになるのもつかの間、1人の顔を見て上がりかけていた口角が途端に下がった。

顧洋は白洛因の顔を見た瞬間、目が凍った。

白洛因は2人のそばに寄り、じっと立っていたが急に口を開いた。
「……行こう!」

そう言うとヘリコプターに向かって歩き出した。

なぜだか分からないが、顧洋は白洛因が冷たい顔で隣を通り過ぎるのを見て、その顔が嫌そうで無いことにがっかりしていた。

白洛因はヘリコプターに乗ると、まずパイロットに尋ねた。
「どれくらい飛んでたんだ?」

「ほぼ一晩中は飛んでましたね……。」

パイロットがあくびを噛み殺しながらそう言うと、白洛因ら彼の肩を叩いた。

「じゃあ俺と変われ。」

そう言うと直ぐに操縦席へと座った。

顧海と顧洋がヘリコプターに辿り着くと、白洛因とパイロットの場所が変わっていた。もちろん2人は後ろに座っている。

誰もが黙り込んでいたが、突然白洛因が尋ねた。
「タバコあるか?」

顧洋はポケットからタバコを出すと、何も言わずに白洛因に渡すと、直ぐに1本とって口に咥えた。

ボッ!っとライターの音が鳴った。

白洛因は顔を向けて、顧洋の手首を掴み、彼の持つライターでタバコに火をつけた。

「ありがとう。」

白洛因は煙を吐き出しながら、窮屈そうに笑った。

突然の笑顔に顧洋の心は震えた。心を落ち着かせている間に、白洛因は前を向いた。白洛因の吐き出した煙が首にまとわりつき、機内全体に煙が充満した。

白洛因はヘリコプターを軍には戻さ無かったが、平らな地面へと着陸した。

隣のパイロットは驚いて白洛因を見た。
「どうしました?ヘリになにか問題が!?」

「そうじゃない。」
白洛因は軽く答えた。
「俺はここで降りる!」

「えっ……。」
当然パイロットは混乱した。
「あな、あなたは軍に報告をしに行かないんですか?」

白洛因は冷たい視線をパイロットに向けた。
「俺は今休暇期間中なんだ。なにを軍に報告するんだ?」

「そんな……す、少なくとも上官に安全を報告すべき……ですよ………。」

パイロットの声がどんどんと小さくなっていった。

「お喋りが好きみたいだな?」

白洛因の冷たく低い声を聞けば、訓練されたパイロットは反論が出来ない。

顧洋は顧海に視線を向けた。

「こっちを見るなよ。俺は軍の人間じゃないんだ。」

顧海がそう答えると、顧洋は不機嫌そうな視線を外した。

パイロットは顧洋に目を向けて助けを求めたが、顧洋は何も答えず出て行った。

パイロットは目を見開いた。
なんで出ていったんだ?
俺は捜索を依頼されたんだよな?
……人だよな?

隣の空っぽになった操縦席を見て、足と胸を叩いた。
俺は何をやってるんだ!
2人を持ち帰って三等に昇格しなきゃならいのに、ただ座ってくつろいでただけじゃないか!
くそっ、こんなんじゃ昇格どころか降格だ!!



2人は肩を並べながら歩いていると、白洛因は何かがおかしいと感じた。

「……なんでついてくるんだ?」

顧海は冷たく鼻を鳴らした。
「俺がついて行ってるって?こっちに用があるだけだ。」

「へぇ……どこに行くんだ?」

「お前の家。」

白洛因が黙り込むのを見て、顧海は急いで説明した。
「お前の今の家じゃなくて、前の家だよ!」

白洛因の顔色が変わった。
「前の家に行ったって誰もいないぞ?誰かに会うのか?」

「違う、見に行くだけだ。」

道を曲がる時、白洛因は躊躇って足を止めた。

「俺も一緒に行く。」

「お前は家に帰って安全を報告しないとダメだろ?」

「いい。どうせ父さんは何が起こったのか知らない。大きな任務がある事を軍は家族に隠すんだ。俺が本当に行方不明になっても半月は報告が行かない。」

顧海はそれを知っていたが、白漢旗はきっと気づいていると思っていた。



2人は一緒に家に帰ると、庭のナツメグの木は切られ、枯れた草だけが残っていた。窓とドアは鍵がかかっていて、木の柱は腐り、タイルは欠けていて、なぜだか悲しくなった。顧海はまだ初めてここに来た時のことを覚えたいた。あの日は白洛因が白漢旗とパンツの事で喧嘩した日だった。

顧海は白洛因の寝室のドアを開けて、全てが懐かしく感じた。床に掘った穴すらも恋しく感じる。無理やりくっつけた変なダブルベッドも、かつて彼の足に落ちた時計すらも……

白洛因は祖父母の部屋のドアを開けた。

小さな正方形のテーブルに置いてある漬物の皿、隅に置いてある松葉杖、2人が肩を寄せあって座っている姿……

顧海はドアの外に立ちながら、白洛因の真っ直ぐな背中が寂しく見えていた。白洛因が跪いて祖父の足を洗い、その後口を拭く姿は決して忘れることは無い。貧しくも暖かい心を持つ少年の姿を忘れられるわけが無い。

「2人の墓参りをしよう。」

顧海がそう言って白洛因が振り向くと、その顔は悲しげだった。

「いい。お前の家族じゃないだろ?俺の、おじいちゃんと俺の、おばあちゃんの墓参りだ。」

顧海は微笑んだ。
「俺はおばあちゃんの翻訳者を1年もしてただろ!」

白洛因は顧海に視線を向けて、そばに寄ると口角を上げた。きっと過去に起きたたくさんの事を思い出していた。

2人が外に向かって歩いていると、突然の白洛因の足が止まった。

顧海も足を止めると、ドアの隣に置かれていた杏の木は切り取られていないことに気づいた。

「なんでこの木は切られなかったんだ?」

顧海が尋ねると、白洛因は軽く言った。
「アランの木だ。」

「いつ死んだんだ?どうして?」

「何年前にな。原因は老死だよ。俺が戻って来た時には埋められてた。」

白洛因の声は悲しさに満ちていた。

顧海は安心させるように声をかけた。
「何年間もこいつは俺よりもお前とキスしてたんだ。十分生きたよ。」

白洛因は引いたように外へ出て行った。

2人は墓地に着くと、それぞれの花束を持って祖父母の墓石の前に置いた。

白洛因は顔を暗くしながら話した。それが顧海に向かってなのか、自分自身になのかはわからない。

「おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなった時、俺はそばに居てやれなかった。」

「それで良かったんだよ。家族が死ぬのを目の前で見たら一生忘れられないからな。」

白洛因は祖父母の墓の前に立っている間、常に心は重かったが、顧海が隣にいたからなのかそれほど痛くは無かった。

顧海は隣にいる白洛因に向かって声をかけた。
「じいさん、ばあさんごめんな。俺が2人の前からこいつを離したんだ。孫の顔がもっと見たかったよな……」

「おじいちゃんとおばあちゃんの前で何を言ってるんだ?」

白洛因は心配になって言葉を遮った。

「止めるなよ!まだ言い終わってないだろ!」
顧海はまた顔を向けた。
「墓の下で安心に過ごせないなら、孫を傷つけた俺を恨んでくれ。けど、どれだけ恨もうが俺はこいつと生きていく!」

第20話 顧家

空が瞬く間に暗くなり、白洛因は顔を向けて顧海を見た。

「なぁ、ここにずっと座って助けを待つのか?それとも夜明けに帰るのか?」

「帰る?」
顧海は冷たく鼻を鳴らした。
「こんな沼に囲まれてるのにどうやって帰るんだ?俺が来た時に、お前は俺を帰すことだって出来たのに俺はここにいるだろ。待ってれば誰か来るだろ。」

白洛因は軽く咳をした。
「ここまで来れたんだから戻れるだろ?」

「その時は気合とやる気があったからな。今はもう無いし横になってたい。」

顧海はリラックスしたように言ったが、実際は緊張していた。自分が危険に晒されるならまだしも、白洛因までも巻き込めない。
やっと白洛因に会えたって言うのに、帰り道に何かが起こったらどうするんだ!

白洛因はため息をつくと、仰向きになって腕を枕にした。一本の脚は曲げて、もう一本の脚は伸ばし、飛行服を身にまとっている。

「何見てるんだ?」

白洛因が傲慢な視線を投げた。

顧海の目は、白洛因の服の下まで見えていた。
「見られててわかんねぇのか?お前今の自分の顔みてみろよ。何日間顔洗ってないんだ?」

白洛因は目を細めて、静かに尋ねた。
「何日洗ってないんだって?お前の方が酷いだろ。今お前の顔を刺したって肉まで辿り着けねぇよ。」

顧海の体についた泥はほとんど乾いていて、大きな手で払えば周囲に砂煙が舞って、1メートル離れている白洛因すらも窒息しそうだった。
白洛因が戻ると、顧海が手に水を注いでいた。

「お前馬鹿なのか!?ここにそんな綺麗な水無いのに、それで手を洗うなよ!」

聞く耳を持たない顧海は白洛因の顔に手を伸ばして、泥を洗い流した。手が離れたと思うとまた水を注いで、また泥を撫でて落とした。

白洛因は、顧海が手を洗っているのでなく、顔を洗うために水を使っているのだと理解した。

「俺の顔はそんなに汚いか!?」

「やっとお前に触れた。」

白洛因は驚いて、落ち着くために木の下に座ってポケットからタバコを取り出し、火をつけるとゆっくりと煙を吐いた。

「会社の女性の綺麗な肌ばっか見てるから、俺の肌は目にもたくないだろ。」

顧海もタバコに火をつけながら、目を細めて白洛因の事を見た。

「因子、ずっと軍にいて辛くなかったか?」

白洛因の心が動いた。
今になってやっとその事について気にするのか!?

「最初の2年は辛かったけど、それを過ぎれば大丈夫だったよ。」

顧海はタバコの灰を落としながら、もう一度尋ねた。
「じゃあ体、強くなったのか?」

「少しはな。」
白洛因は謙虚に答えた。

「前の方が筋肉柔らかかったよな?」

何が聞きたいんだ?
白洛因が眉を少しあげた。

「なぁ、じゃあさ、体は柔らかくなってんのか?」

顧海の手が白洛因の足を撫でると、白洛因の視線が顧海に刺さった。

「何を言いたいんだ?」

顧海は白洛因の耳に唇を当てた。
「8年前から一度もシテないのか?」

白洛因の脚は逃げることなく、ただタバコの煙を顧海の顔に浴びせてやった。

「あぁ、だから10分以内にお前を犯してやりたいよ。」

顧海は虐めるように笑った。
「それで足りるか?来い、本当かどうか確かめてやるよ……」

まるで猿が桃を木から盗むように、そっと手を伸ばした。

白洛因は誰かの手に犯され、まるで稲妻が走ったようだった。その誰かの気持ちを感じる度に、彼の心が長年貯めていた感情を爆発させた。



暗闇が全てを隠すと、顧海はリュックからパラシュートを取りだし、下に引くと、2人分の寝袋を出して、2人はそこで眠った。

風が強くなると、白洛因は必死に首を縮めた。

「寒いか?」

「いや、服が暖かいから大丈夫だ。」
そう言うと白洛因は顧海をちらっと見た。
「俺よりもお前の方がよっぽど薄着だろ。」


「俺は泥を着てるから暖かいんだよ。」

これを聞いて白洛因は笑わずにはいられなかった。

久しぶりに見た白洛因の笑顔は、過去に何度も見ていた顧海にとっても息を呑むほどだった。

白洛因は顧海のことを抱き締めた。

「お前から離れて行ったくせに、社長にもなるとこんなこともしてくれるのかよ。俺の義母になんて説明するんだ?」

「義母が沼を見てるのか?」

白洛因が鼻を鳴らしてそう言うと、顧海は口角を上げて微笑んだ。
「きっと目を見開いてるよ。」

白洛因は口を開かず、ただ顧海のことをじっと見つめていた。その目は濡れていて、底が見えないほど深かった。顧海が彼の視線に気づいた時、内蔵を強い電流が流れた感覚がした。今まで彼のこんな姿は見たことがなく、一見強そうなのに、それでいて中身は弱く優しい人であることを知れば、誰も止められるわけが無い。

顧海の喉仏が動くと、白洛因は目を閉じた。

顧海の口は、突然白洛因の口を塞いだ。

こんなの誘ってんだろ!!
しかし1回では我慢できず、顧海はもう1回を強請りたかったが、耐えた。

2分もすれば、いびき声が聞こえだした。

顧海の呼吸は止まり、首を絞め殺したくなった。

くそっ、久しぶりに出来ると思ったのに!

夜遅くになっても顧海は眠くならず、白洛因の腕をとって、代わりに彼を抱き締めた。白洛因がぐっすりと眠るのを見て、心の中で哀れに感じた。こんな荒野で何度眠ったのも分からない。しかもこんな湿った場所で寝られるほどここに慣れている。

顧海は耐えきれず、白洛因の頬にキスをした。


因子、家が落ち着くまでいくらでも待ってるからな。
愛してる。

本当は、白洛因は顧海が眠った後に寝ていた。
12時が過ぎて、今日はもう元旦だ。彼のように軍隊に長年いると日付感覚がついてくるが、顧海は忘れていた。

白洛因も、顧海の汚い頬にキスをした。

大海、俺はもう何も怖くないよ。
お前のことだって、俺が守ってやれる。



顧威霆は8年後、こうなるなどとは考えていなかった。

顧海が白洛因を探すと聞いて、顧威霆の心は憎しみと思い通りに行かない悔しさで埋まっていた。彼は8年間の別れが、この関係をどれほど強くしたのか理解していなかった。
しかし、捜索を続けるにつれて、そういった感情は全て心配へと変わった。連絡が無いのは白洛因だけでなく、顧海もだ。

今日は新年を迎えて6日目で、白洛因が失踪してから8日、顧海が失踪してから6日目になる。

一般的に言えば、事故により7日間行方不明になれば、生存確率はほぼゼロになる。

8年前の事故を思い出せば、顧威霆が怖がるのも無理はなかった。白洛因が入隊すると彼に言った時、顧威霆は顧海を危険に晒させたくなかったので反論しなかった。会社を立ち上げ、平和に暮らしていたと思っていたのに、結局は彼は再び死に直面している。

10年前が20年前だったら顧威霆はすぐに「ただの息子じゃないだろ?放っておけ!」と言っていただろう。

しかし今は、こう言える勇気もなかった。顧海の交通事故から、顧威霆は他に子供を作っておらず、彼の血を引くのは顧海だけだからだ。

何千人もの兵士がいたとしても、この血が途絶えてしまえば、全てが壊れる。

「長官、顧海の車を見つけました。」

顧威霆は急いで尋ねた。
「人はいたか!?」

「人は……いませんでした。」

顧威霆の顔が変わり、椅子を掴んでいる手には青筋が浮き出て今にも破裂しそうだった。座ると椅子全体が揺れた。

孫警備兵は説得するために1歩前へ出た。
「長官、慌てないでください。小海の体格は優れてますし、長期間野原で暮らしていても問題は怒らないでしょう。その上、小海はここ数年慎重に動いてますし、きっと車を降りる前に準備をしているはずです。小白はほとんど見つかってますし、すぐ2人とも家に帰ってきますよ!」

「だからなんだ!慎重に動いてるやつはあんな危険な場所に出向くのか!?」

孫警備兵は心の中で言った。
息子の気持ちも分からないのか……?

部屋の雰囲気が緊迫していると、突然誰かが報告へ来た。

「長官、甥っ子が来てますよ。」

そう言い終わると、顧洋はサングラスを外しながら部屋に踏み入り、冷たい目で二人を見た。

「何かあったんですか?」

顧威霆は何も言わなかったので、孫警備兵が代わりに顧洋を部屋の隅に連れて行き、状況を説明した。

顧洋の顔が変わり、孫警備兵の肩を叩いた。

「俺が見つけてみせます。」

しばらくの間、雪の中へと顧洋の姿が消えた。

第19話 温もり

白洛因は食べ終わると、反対側に向かって叫んだ。

「こんな危険な所に、お前の嫁も連れてきたのか?」

俺の嫁
顧海は白洛因の言う嫁が誰なのか分からなかった。

「お前の言ってる嫁って誰だ?」

顧海が叫ぶと、また白洛因が叫んで返した。

「結婚したんだろ?」

「結婚だァ?」

顧海はやっと自分が既婚者だとこの男に思われていたんだと理解し、ドキドキした。
「婚約は嘘だぞ?俺は子供の時からお前が好きだから、こんな場所まで探しに来たんだぞ!?」

白洛因の心が急に破壊した。

「嘘だったのか……?嘘の招待状を寄越したのか?」

「あぁそうだよ!お前みたいな馬鹿を騙すためのな!」

白洛因は立ち上がって反対側に怒鳴った。
「お前本当に最低だな!!」

「最低だって?……じゃあこんな状態でも来ないお前の彼女なんなんだよ?」

白洛因は顔は怒っていたか、心の中では嬉しかった。

「あの子の親がこんな場所に来るのに許可する訳無いだろ?」

「お前のことを愛するならそれぐらいの覚悟が必要だろ!?俺はお前の為に泥まみれになったのに?お前の為にこんなことを出来るのはこの世で誰だ?軍の同僚か?お前の好きな餃子を作ってやれるのは?お前がベッドで安心できるのは誰の隣だ?」

白洛因は顧海が銃のように止まることなく反対側で叫ぶのを聞いて、馬鹿にすることも出来ず止める他無かった。

「もう分かったから休め!」

顧海は従って黙った。

二人を隔たる大きな沼は、泡を吹いて周りに霧が立っていた。二人はまるで修行僧のように胡座をかいて座っている。
落ち着くと、二人は長い間お互いを見つめながら、複雑な感情がゆっくりと流れた。

先に静寂を破ったのは白洛因だった。
「どうやってここに来たんだ?」

こんな大きな沼があり、しかも外にも出られない程寒い季節だ。

顧海はこれを聞いた時、落ち着きを失って反対側に叫んだ。

「簡単だったよ!」

白洛因は微笑んだが、涙が溢れた。

ここに来ることがどういうことか分かってないのか?

何年も経って、外見も、仕事も、役職も、世の中の流れも変わった……唯一変わらないのは自分の心だけで、いつも炭火で焼いてるみたいに八年間の寒さと退屈さを温めてくれた。

白洛因は横たわって灰色の空を見ていた。空の色に反して、彼の心は明るかった。

顧海は反対側で気持ちよさそうに横になっている人を見て、それから自分の座っている場所を見た。狭すぎて、横になったら足が沼についてしまう程しかない。

「やっぱ俺そっち行く!」

海の声を聞いて、白洛因は座り、冷たい声を叩きつけた。

「動くな!!」

「だって俺の方は狭くて足も伸ばせないんだぞ!居心地が悪ぃんだよ!」

顧海が文句を言うと、白洛因が手を振った。
「戻って広くて硬い地面があるか探してこいよ……」

戻れ?
顧海の顔が暗くなった。
やっとここまで来れたのに、戻れって言うのか?

「大丈夫だ。こんな沼たくさん通って来たんだ。寝ながらでも通れる。」

そう言うと、顧海は白洛因の引き止める声を無視して、反対側へと進んだ。しかし、泥が柔らかすぎて顧海が進んだ途端、体の半分が沼に埋まった。
白洛因は顔を青くして何度も怒鳴った。
顧海の体が安定するも、沈んでしまった。少しずつ白洛因のいる方へと進むと、人生が終わるんじゃないかと思うほど時間がかかってしまう。

顧海は草を掴んで元の場所に戻ることにした。

白洛因はその姿を見て安心した。彼の背中は冷や汗で湿っていた。

「お前はそこを動くなよ!俺が行くから!」

顧海の呼吸が楽になると、リュックに入っているものを思い出し、直ぐにそれを手に取った。

白洛因は顧海が空気で膨らますクッションを持っているのを見て目を見開いた。それを膨らますと、シングルベッドと同じ大きさになる。しかし、体が沼に触れる面積が大きすぎるので、ロープを取りだし自分に巻き付けて、反対側から引っ張ってもらう事にした。

白洛因は顧海に危険を背負って欲しくなかったので、反対側に向かって叫んだ。
「クッションを渡せ!俺がそっちに行く!」

顧海が暗い顔で答えた。
「一人座ってるだけでもギリギリなのに、お前がこっちに来てどうするんだ?」

「じゃあもうロープ投げろ!」

その後、一人がクッションに横になり、一人がロープで引っ張ると、10分もかからず顧海は反対側に着いた。

8年振りに、強くお互いを抱き締めた。

何の隔たりもないほど近くにいると、冷たい言葉を言う気にもならず、顧海は白洛因の頭の後ろに手を強く押し付けて、苦しそうに話した。

「寒くないか?」

「耐えられる。それよりお腹空いた。」

白洛因の声を聞きながら、顧海は皮をむいた木を見て自分の胃がかきむしられるような気持ちだった。

「リュックには食べ物があるから食えよ。」

白洛因は顧海の肩をしっかりと掴みながら、少し低く迷った声を出した。

「本当に3日間探してたのか?3日間何も食べなかったのか?そうじゃなきゃこんなに残ってないだろ。」

「大丈夫だ。探し始めた日から飛行機でお前のことは見つけてたんだ。もっとたくさん持ってきてたし、食べたよ。そうじゃなきゃ今頃飢えて死んでるだろ?」

本当のことを言えば、顧海は3日間、水すらも飲んでいなかった。

「嘘だ!」

白洛因は顧海の体を話して、疑うように彼を見た。

「お前の腹に触れば、何日間も食べてないことぐらい分かるんだよ。」

「そんな能力持ってるのか?」

顧海は馬鹿にするように言うと、白洛因は顧海のシャツの中に手を入れた。冷たい手が顧海の肌に触れ、顧海の筋肉が瞬時に縮小した。久しぶりにこんな冷たい手が自分の肌を這ってきたが、あまり気分のいいものじゃなかった。

「3日間何も食ってないだろ!」

決めつけるようにそう白洛因が言って、手をシャツの中から出そうとすると、その手が顧海によって止められた。

「冷たすぎるから、中に入れとけ。」

白洛因はこうして優しくされるのが久々で、そのまま温もりに触れていた。

二人は木に寄っかかって座り、顧海の後ろに白洛因が座って、顧海の背中で冷たい手を温めていた。触れれば直ぐにあの恐ろしい傷跡が分かり、脊椎に手を伸ばせば、腰の傷は前よりも薄くなっていた。

「怖いか?」

そう聞かれて、白洛因は顧海の背中を頭で殴った。

「まだ俺を憎んでるか?」

顧海は故意に憎しみを声に出しながら唸ると、白洛因がため息をついた。

「本当は行きたくなかったから仕方なく家を出たんだ。誰かが俺を痛めつけようとしたのに、ベッドで意識を失いながら横になってるのはお前だった。お前の意識がなかった時、お前ほど人生で大切なものはないってやっと分かった。お前に合わせる顔が無かったから病院にも行けなかった。本当は何年も、お前に謝りたかったのに……」

背中で白洛因の息が止まりそうなのを感じていた。未だにあの時の光景が心を痛めているようだった。

顧海は白洛因のこんな声を聞くのは初めてだった。

「大丈夫だ。もう気にしてない。あの事故がどれだけお前にとって辛かったのか分かってるよ。」

「……俺の事嫌いになったか?」

白洛因が鼻をすすりながらそう聞くと、顧海は直ぐに首を横に振った。

「ないな、なるわけない。お前に会うのがどれだけ大変だったか分かってんのか?」

白洛因は突然顧海の服から手を抜くと、彼の顔に手を添えて、無理やり自分の方に向かせた。暴力的な程の魅力のある目が、顧海の心に真っ直ぐ届いた。

「じゃあ彼女と別れろ!」

顧海は目の前の整った顔を見つめながら、静かに尋ねた。

「別れろ?」

「あぁ、だって彼女のこと好きじゃないんだろ。」

顧海の心が震えた。まるで血管に無理やり注射を打たれているような気持ちだったが、まだ溢れそうにもない。冷たい目が白洛因を刺した。

「誰があいつの事が好きじゃないって言った?」

白洛因は顔を使って心を簡単に表していた。彼の傲慢な性格からして、恐らく自信があったのだろう。反論を聞けば、不幸に思うのもしょうがない。

白洛因が顧海の尾てい骨を蹴ると、顧海の下半身が痺れた。

「命令だ!従え!」

「隊長の権限を俺に使うのか?従わなきゃいけない理由を教えてくれれば、ちゃんと、真面目に考えてやるよ。」

白洛因は顧海が自分に何を言わせたいのか分かっていたので、敢えて言わなかった。

「別に従わなくてもいいけど、弟の為だ!」

「夫婦って言うのは一生を共にするんだから、結婚する前にたくさん話して、気持ちを高めていくものだろ?」

白洛因の大きな手が、顧海の首を掴んだ。
「お前、馬鹿にしてんのか?」

顧海は白洛因の額に指を突き刺した。
「その指一本でも動かしてみろよ。俺は真面目なんだ!」

「よし分かった、お前を正気に戻してやる!」

白隊長はこの新規兵であるクソ社長を一から教育しなければならない……

第18話 自分の心

何かがおかしい……
白洛因が周りを見渡すと、周囲は荒野で、苔がカーペットの様に地面を覆っていた。彼が居たのは高原で、少し先は泥沼だったので、戦闘機内での判断は間違っていなかった。それにしても沼地ではなく、硬い地面に着地できたのは幸運だ。

白洛因が自分の体を見下ろすと、飛行服はそのままで、怪我もしていなかった。

命は助かった様だ。

白洛因は立ち上がって、野外生活訓練で蓄積された豊富な経験を元に、周辺を見回した。彼の立っている所を除いて、周辺は危険な沼地で、一歩入ってしまえば出る事は不可能だっただろう。自分の推測が正しいのか確認する為に、白洛因は後ろに生えていた木から枝を数本折り、束にして周辺の地面をつついてみると、枝は沼に吸い込まれた。

白洛因は目を見開いた。
こんなのから抜け出せたか?

この瞬間、彼は神を他の誰よりも愛した。しかし、実際には所詮は神のペットだった。神が一番好きなことは、最初に甘いものを与えておいて、その後、無慈悲にも殴ることだ。白洛因は沼に囲まれながら、狂ったように死が自分を迎えるまでの時間を静かに計算した。

白洛因は地面に座り、助けが来るようにと祈った。

疲れすぎていたのか、白洛因は座ったまま寝てしまっていた。暗くなると、凍える様な寒さに目を覚まし、周辺は重たい霧に包まれていて、まるで映画に出てくる幽霊になった気分だった。しかし、白洛因は恐怖を感じていない。幽霊でもいいから、誰かが現れて助けてくれるのを望んでいた。

唇が乾いたので、白洛因は周りを見回したが、沼の泥水しかなく、それも有毒で飲めなかった。最終的には木の根の下に穴を掘り始め、3時間掘ると土が濡れているのを感じた。白洛因はシャツを脱ぎ、土をしっかりと包むと、水が染み出した。

音を立てながら数口分取り、口を拭くと、白洛因は木の根の側で休んだ。

白洛因が目を細めて空を見上げると、突然赤く点滅する光を見つけた。輝くそれは、明らかに飛行機だった。
救助が来た!
白洛因は興奮し、空に向かって叫び続けながら、パラシュートを枝に結んで旗を作り、一生懸命振り続けた。

その光は常に低空に浮いたまま、白洛因に近づくことは無かった。

白洛因は自分が見つかることは難しいとわかっていたが、それでも希望は捨てたくなかった。しかし、一度ここから離れてしまえば、戻って来ることは出来ない。石を見つけると数回強く打ったが、周囲の植物が湿っていた為、火花が出るだけで火がつくことは無かった。

再び白洛因が顔を上げると、光はどんどん遠くへと行ってしまっていた。

白洛因はその飛行機に見つけられることを諦めて、元いた場所に座った。

幸いなことに飛行服は十分厚く、寒さに耐えられる程度だった為、白洛因は地面に横たわって眠った。パラシュートを半分に折り畳み、片方をクッションにし、残りは自分の体にかけた。しかし、眠っている間に習慣的に寝返りを打ってしまい、抑えが無くなったパラシュートは風邪で吹き飛ばされてしまった。

白洛因が突然目を覚まし、無意識にも布を引っ張ろうとするも、パラシュートは飛んで行ってしまっていた。白洛因が握っている手を広げても、あるはずの毛布もクッションは消えてしまった。



部隊は一夜目の捜索に失敗し、顧海も個人的に飛行機を飛ばして白洛因を捜索した。

空を見ると、夜が明けようとしていたので、パイロットは顧海に目を向けて意見を求めた。

「休憩を挟もうと思ってるのですが、何か食べますか?」

顧海は簡潔に答えた。
「続けろ。」

夜明けになると、突然周囲は霧に包まれ、低空を飛んでも地面が見えにくい状態だった。正午まで異常気象のままで、飛行機は通常飛行も困難な状態になり、捜索を中断した。

顧海は待っていられず、車を使って荒野を突き進んだ。

オフロード車が沼地に入り、失速しまった。しかし、顧海はこの瞬間を待ち望んでいた。この時の為に準備していた大きなリュックを持って背負うと、沼の奥に向かって進み続けた。

午後になると、暗くなり自分の目だけを頼ることが出来なくなり、顧海は木の棒を持って進めるのかを試しながら進んだ。一歩一歩慎重に進んでも、沼地に何度足を突っ込んでしまったのかはもう数えきれない。その度に粘り強く足を抜けさせた。
夜になると、より捜索が難しくなり、顧海の歩く速度はどんどんと遅くなった。通れない道も出てくると、顧海は体を転がしてすり抜けた。

顧海は眠ることも無く、リュックの中に入っている水も食べ物も取らなかった。

白洛因の事以外、顧海は考えていない。

生きていることの他に、何が最も大切なのかも分からなかった。

顧海にとって白洛因の心が何処にあるかなど関係ない。白洛因を見つけた瞬間、彼が結婚を決めたとしても、顧海は幸せだった。

生きていなければ意味が無い。

周囲が徐々に明るくなると、顧海の歩く速度も上がった。

大きな沼の前に立ち、どうやって通るかを考えていると、突然大きな布がそう遠くない木の枝に引っかかっているのを見つけた。彼は緊張しながら慎重に近寄って、手に取ってみるとパラシュートだった。パラシュートには結び目があり、それは風によって結ばれたのではなく、明らかに人の手で結ばれたものだった。

顧海の心が飛び跳ね、目が輝いた。

白洛因は絶対に生きてる。



3日目になり、白洛因が数えると、もう大晦日になっていた。

数日前に白漢旗に電話したことを思い出していた。白漢旗の嬉しそうな声が心を痛めた。やっと新年を家で過ごせると思っていたのに、両親を騙してしまった。きっと邹叔母さんはテーブルに料理を敷き詰めて待っていたはずだ。そのテーブルに並ぶ料理の数々を想像して、白洛因の心はもっと苦しくなった。振り返って木を見ても、樹皮は殆ど無くなってしまっている。

白洛因は片手で木を抱きしめながら、頭を預けて遠くを見つめた。

餃子……ズッキーニと卵の餃子が食べたい……

白洛因は空腹に耐えきれず、頭が麻痺し目がくらんでいると、遠くない場所に揺れる姿を見つけたが、幻覚だと思っていた。
こんな場所に人間がいるわけないだろ!?

顧海は白洛因を見つけて、足が動かなかった。

「因子!!」

声を聞いて白洛因が目を向けると、誰かが数十メートル先に立っていた。目を凝らして見ると、顧海だった。顧海は泥まみれで誰か分からなくなっていたが、それでも白洛因には顧海だとわかった。

心の中に巨大な波が生まれた。

白洛因は急いで立ち上がって、反対側に手を振った。

「大海!!大海!!ここだよ!!」

顧海は額の汗を拭いて、安心して微笑んだ。

「すぐ行く!すぐそこなんだからそんな大声で叫ばなくてもいいだろ!?俺は難聴じゃねぇよ!」

白洛因は大声を出すつもりはなかったが、感情を抑えきれなかった。この荒野で自分の周りを飛ぶ蚊すら家族のように感じていたのに、顧海を見つければ興奮するに決まっている。

「そこから動くなよ!俺が行くから!!」

顧海が大声でそう言うと、白洛因は突然顔色を変えて説得した。

「来るな!!危ない!!」

「大丈夫だ!すぐ行くぞ!!」

顧海が一歩踏み出そうとすると、反対側で叫ぶ白洛因の声を聞いた。

「脚が抜けなくなるぞ!俺が飛び込まないと信じられないのか!?」

顧海は白隊長の勇敢な姿を見て、急いで足を引っ込めた。とにかく白洛因は見つかったのだし、少し待つくらいどうってことない。彼も疲れていた上に、この大きな沼は恐ろしかったので、体力を温存するためにも、リスクを回避する方が良いと判断した。顧海はリュックを下ろして、唸りながら地面に座った。

白洛因は顧海が座ったのを見て、やっと安心できた。しかし顧海の隣にある膨らんだリュックを見て、目を輝かせながら叫んだ。

「リュックの中には何が入ってるんだ!?」

顧海はリュックの中から水を取り出して、2口飲んだ後に叫んだ。

「食べ物とか入ってるけど、お前もいるか?」

白洛因は先程よりも目を輝かせて叫んだ。

「ズッキーニと卵の餃子は!?」

それを聞いて顧海は怒った。

「ここまで来るのも大変だったのに、餃子を持って来いって言うのか!!?そしたらサンザシ飴も持ってこなきゃいけないのか!!?」

「氷砂糖、酢椒魚、春餅巻き、白身肉、釘肉、卤煮火焼……」

白洛因は反対側から食べたい物をあるだけ叫んだ。
それは隊長の姿ではなく、ただの腹を空かせた子供だった。

顧海は何を言うべきか分からず、こんな時でも自分の作った料理を食べたがる姿に、愛おしさを感じていた。

「早く投げろよ馬鹿!!」

白洛因が大声で催促したが、顧海は故意に白洛因を困らせようとした。

「投げるのか?沼に落ちたらどうするんだ?」

白洛因は暗い顔で怒った。

「なんで投げろって言ってるのに投げないんだ!?」

顧海に縋るのではなく、顧海の持ってきたリュックの中に縋るのを見て、つまらなく感じた。

「投げない!!」

白洛因は急いで振り返って、長い枝を見つけると、それを使って顧海からパンを受け取ろうとした。引っ張ると白洛因の足にパンが当たって、それを手に取ると、顧海がパンにロープを結んでくれていた。

食べ終わったらちゃんとお前に感謝するよ……
白洛因は数日ぶりに食べ物を食べると、有り得ないほどの美味しさを感じた。

「因子!!」

突然の怒鳴り声を聞いて、白洛因は喉にパンを詰まらせながら、急いで反対側に目を向けた。

「やっと見つけた!!」

この叫び声は空をも貫通する程だったので、数十メートルしか離れていない白洛因の鼓膜は破れそうだった。

「なんで急に大声を出すんだ!?」

顧海の暗かった顔に微笑みが浮かんだ。

「俺やっとわかったよ!!」

顧海の言葉は誇張しているわけでは無かった。
白洛因が反対側で手を振って叫んでいるのを見た時、どうしてこんなにも落ち着いたのかを、今になってやっと理解出来た。