第167話 大砲の投下

二人を追い払ったあと、白洛因はトップを走る選手と戦い始めた。

 

元々白洛因の方がレベルがたかかったが、二人を追い払うのに体力を使ってしまったため、追いかけるのに苦労した。トップランカーは白洛因か近づいていく度、意図的に妨害したり、リズムを崩したりして、体力を気にしないような自殺的な戦略を取った。

 

顧海は教師が思っていたよりもコートから離れたところにいたが、白洛因に向かって静かに「3m以内をキープしろ」といった。

 

海の声が聞こえると、白洛因の不安は少し安らいだ。

顧海は長い間、軍の訓練をこなしていて、その中でも長距離走は基本的な訓練だった。そもそも彼の呼吸やフォームを見る限り、白洛因が自分のペースで三周走るのには到底ついていけなそうだった。

 

実際、二周半を過ぎてくると彼はどんどん遅くなっていった。

 

白洛因がすぐに追い抜き、トップランカーになると、スタンドからは大きな拍手が湧いた。

 

顧海は白洛因の隣を走りながらフォローした。

 

白洛因は疲れていたが、それを耐えて顧海のことをちらっと見ると担任に腕を引かれていたのを思い出して「なんでいるんだ?」と聞いた。

 

顧海は幸せそうに言った。


「寂しかったから」

 

並んで走っている二人がこんなバカげた愛のやり取りをしているとは、誰も想像出来なかっただろう。こんなに苦しい長距離走の中で浮気をしていた誰かのことを叱っているだなんて。

 

最後の五週になり、白洛因が時計をチラッとみるとなにも問題は無かったが、記録を破るにはもう少し頑張らなければならなかった。

 

顧海が白洛因を見ると顔には汗が滝のように流れていたが、呼吸は最初ほど乱れておらず、きっと体力を消耗しているんだろうと思った。

 

しかしあと四周もあり、俺の妻はあと四周も耐えなければならないと考えると我慢ならなかった。

 

「もう歩かないか?」

 

白洛因は怒ったように「そんな人を応援したいと思うのか?」と答えた。

 

「でも、しんどいだろ?」

 

白洛因は無視して、自分の計画の通り、残り三周になるとスピードを上げ始めた。

 

顧海は焦って「なんでスピード上げるんだ?」と聞くと「記録を破る。」と答えられた。

 

「記録を破る?」


顧海はとてもびっくりしたようだったが、すぐに悪い顔になった。


「なんで記録を破んなきゃ行けないんだ?これ以上クラスに得点が加算されてもお前にいいことなんてないだろ?」

 

白洛因は嫌そうな顔をした。


「黙ってくれないか?」

 

もう疲れたし、なんでここに俺がいるんだ!?

 

あと二周になると、白洛因の呼吸はぐちゃぐちゃになっていて、横を走る顧海も白洛因が酸欠であることは明らかに分かっていた。白洛因か最後まで苦しまなければならない事を考えると、心が痛かった。

 

白洛因が自らと戦っている間、顧海は再び声をかけた。


「スピードを落とせ。もう無理だ。」

 

白洛因は顧海のことを空気かのように無視し続けた。

 

顧海は我慢できなくなって、白洛因を引っ張り、無理やり速度を下げた。

 

白洛因は最後の力を振り絞って「消えろ!」と叫んだ。

 

最後の1周になり、銃声が鳴った。

 

白洛因の体は限界を越え、走っている間に呼吸をしている感覚はなく、意識は無くなり、体は痺れていた……

 

この時、顧海はイライラしてるのを隠し、最優先事項は白洛因を早くゴールさせ、苦しみから解放させることだと理解した。

 

「がんばれ…がんばれ…因子、呼吸しろ、あとちょっとだ」

 

顧海の応援は走っているのを応援するものではなく、出産を応援してように聞こえた。

 

やっと、ゴールテープを切った。

 

頭の上を雲が通り過ぎると、遠くから歓声が聞こえた。

白洛因は口を開けて呼吸し、ゆっくりと歩き出した。

 

「新記録!」
審判はタイマーを白洛因に見せた。

 

白洛因は歩くのをやめて振り返ると、顧海は微笑んでいた。それから顧海に抱きつき、彼の首を噛むと、校庭には笑い声がひびき、長い幸せを残した。

 

 


仲間はまだ走っていた。

 

「あと何周?」


杨猛は尤其に聞いた。

 

尤其は杨猛と走っている間になんどこのセリフを聞いたか覚えていない。

 

「あと二周。最後の二周だ。」

 

杨猛は苦しそうな顔をして言った。
「あと二周もあるの?もう走れないよ…」

 

尤其は杨猛の尻を叩いた。

「はやくしろよ。あと2周だけだろ?」

 

杨猛は誰もが走るのを辞めているのを知っていて、走っているのは二人だけだった。杨猛は再び「僕達が最後?」と聞いた。

 

「そんなこと言ってる場合かよ。とりあえず二周だ。二周走んないと終わんないぞ。」

 

「やめたい!」

杨猛はまた駄々を捏ね始めた。

 

尤其は杨猛の背中を二回殴ったが、杨猛はもう何度尤其に殴られたのか覚えていなかった。杨猛はロバで、尤其は飼い主。飼い主がロバを鞭で打って走らせているようだった。

 

「杨猛、がんばれ!杨猛、がんばれ!」

 

杨猛が最後の一周になるとスタンドから歓声が聞こえてきて涙が出そうになった。

 

最後の半周になると、杨猛は死にかけていたからどうやって5000mを走りきったのか分からなかった。

 

ゴールすると杨猛は脱力しきっていたが、尤其は興奮しきって彼を抱きしめた。

 

杨猛は感動して泣いていたが、どうすればこの感情を伝えることが出来るのか分からず、尤其の髪を引っ張っていた。

 

五分後、尤其と杨猛は落ち着いた。

 

二人がお互いを見合うと、急いで離れた。

 

「なんで抱きしめたの?」


尤其は聞かれたくない質問をされた。

 

杨猛は爆発して叫んだ。

「なんで抱きしめたの!」

 

「抱きしめたか?」
尤其は嫌悪感を出した。


「最後を走るような恥ずかしいやつをなんで抱きしめなきゃ行けないんだ?」

 

「僕が最後…?なんで僕が最後なの!?」
杨猛は叫んだ。


「二分以内にどっか行って!さもないとお前を殺す!」

 

「なんでどっか行かなきゃ行けないんだ?」

 

「理由なんて考えないでよ!はやく!」

 

尤其は歯を見せて笑った。
「おいクソガキ、何をそんなに焦ってんだよ。」

 

「本当にいいんだな!お前は僕が走っている間に何回殴ったんだ!?心は覚えてるんだよ!!いいか、そこから動くなよ!」

 

「そんなことするやつに俺が見えるか?」
尤其は逃げた。

 

杨猛は足を引きずりながら叫んだ。
「戻ってこい!まだ話は終わってないぞ!」

 

 


三日間のスポーツ大会は終わった。27組は計八回も一位を取り、そのうちの四つは顧海と白洛因が取ったものだった。二人はリレーでも活躍し、三つの記録破りは27組を優勝に導いた。

 

長距離走で白洛因を囲っていた三人は翌日欠席していたため、その姿はなかった。

 

尤其と杨猛が最後に出場した400mハードルは、二人が根気強く戦っていたため、他の選手は負けてしまった。しかし、この試合は二人に事故をもたらした。二人のプレイ風景はインターネットで配信され、その中には尤其が杨猛を抱きしめ、杨猛が尤其の髪を引っ張っている姿も収まっていたし、その時の尤其の酔いしれたような表情も……

 

要するに、二人は友達になった。

 

 

 

日々がゆっくりと進むと、教師はまた顧海に構うようになったが、それに対して顧海は無視を貫いた。教師は何度も自分の準備室へ来るように促したが、顧海はそれを毎回断った。

 

教師が困っていると、白洛因を見つけた。

 

「あなたいつも顧海と一緒にいるわよね?彼、何か言ってた?」

 

白洛因は正直に「なにも」と伝えた。

 

「なんで…」

 

「何も言ってませんよ」

白洛因は付け加えた。

 

その一言について教師は深く考えた。白洛因は詳しく言わなかったが、その言葉の裏には幾千もの意味があるかもしれない。教師の勘違いによってこの話題は終わった。教師がこの意味をしっかりと理解していれば、誰もが彼女が教師としてどのような行動を取るべきなのか理解しているはず。

 

 

 

期末試験が終わり、夏休みも終わり、高校三年生になった。

 

二年生はそのまま三年生になり、ただその教師がいなくなっただけ。

 

白洛因は「あの先生は妊娠したから、早期産休中だ」と言った。

 

顧海は驚いて、「彼女の夫の子供は彼の両親の元に行ったのか?校長もそれがわかってて妊娠が分かった月から産休を取ったのか」と言った。

 

「妊娠してどれぐらいなんだ?」

 

顧海は大声で言った。
「三日じゃないか?」

 

「…彼女が検査した時に立ち会ったのか?」

 

顧海は眉をひねり腕を白洛因に押し付けて、大きな手で顎を掴んだ。


「お前も俺を疑うのか?」

白洛因は笑いながら言った。


「父が喜ぶよ。孫ができたって。」

顧海は顔をより険しくして、白洛因の下唇を噛んだ。