第171話 通話

その日、顧洋は疲れきった体を家に引きずり、重い服をハンガーに掛け、ネクタイを外し、お風呂に向かった。

 

部屋を通った時、部屋を見ると顧海はおらず、中に入ってみると、顧海の仕事は既に終わっていたため、恐らく寝室で寝ているのだろう。

 

顧洋はお風呂に向かった。

 

顧海がキッチンにいるとお風呂から水の流れる音が聞こえて来て、顧洋が入浴していることを知った。顧海は一日中歩き回って疲れている男の為に、美味しいご飯を作り、家庭の暖かさを感じてもらおうと思った。

 

顧洋がお風呂から出ると、長い間香ることのなかった母の作るご飯の香りがした。長い間海外出張をしていたし、中国料理を食べる機会は減っていて、材料が揃っていたとしても、いつも食べていたあの味にはならなかった。

 

「どうしたんだ?」

顧洋はバスローブを纏いながらキッチンのドアに寄りかかって顧海に声をかけた。

「洋食じゃだめか?お前作れないだろ。」

 

顧海は顧洋の話を聞きながら、冷静に真実を伝えた。
「家ではいつも俺が作ってるよ。」

 

これを聞いた時、顧洋は懐疑心を抱いた。ここに立ってみていると、料理に適していない大きな手で、長い間使っていないまな板を鳴らしながら包丁で遊んでいるかのように料理していた。

 

顧洋が一年前に会った顧海は手先が不器用だったはずで、この一年間でまるで主婦のようになったのを見て驚いた。

 

「タバコでも吸って待ってろよ」

顧海は声をかけると、顧洋は静かにキッチンから出ていった。

 

二十分後、リビングテーブルには二時間煮込んだチキンスープや鳥料理などたくさんの料理が並んだが、もしオリーブオイルではなくラードがあったなら、もっと元の中国料理に近づいただろう。

 

「悪くないな」

顧洋は一言だけ言った。

 

顧海は北の男のように大胆に食べていった。顧洋はと言うと、一年中洋食を食べている習慣が残っているからか、まるで食欲がないかのように静かに食べていた。

 

顧海が食べ終わり、顧洋を見ると箸を動かしてない為一皿取ると、まだ料理は残っており顧洋がまだ食べているんだと気づいた。

 

顧洋は顧海を見て、何を考えているかを聞いた。

「なんで今日は料理したんだ?」

 

「一日中油っこい料理は食べられないって言ってただろ?」

顧海は久しぶりにいつもの人懐っこい笑顔を見せた。

「けど、俺の料理を食っただろ?兄さんが疲れてると思って癒すために作ったんだ」

 

顧洋はまるで品定めのように顧海を見て、微笑んだ。
「俺に賄賂を渡したところで、スマホは渡さないぞ」

 

顧海はびっくりしたあと、さりげなく笑った。

「兄さんは弟を誰だと思ってるんだ?兄さんは一日中居ないし、いつだって電話は出来る。なのにまだ兄さんはスマホを持ってるのか?」

 

顧洋は強い口調で「最高だな」と言った。

 

 

 

ご飯を食べ終わると、2人は仕事場へ向かって各自の仕事をした。その間顧海が顧洋を見ると何度も欠伸をしていて眠そうだった。

 

「疲れたなら寝ろよ」

顧海は顧洋のパソコンを叩いた。

 

顧洋は目を擦ると机に置いてあったコーヒーを一口飲んでだるそうに「大丈夫だ」と答えた。

 

 

 

それから三十分後、顧洋は完全に意識がなかった。

 

顧海の作戦は完璧に成功した。顧洋の頬を叩いても反応はない。顧海は顧洋の寝室に行くとスマホを見つけた。その連絡履歴を見ると、ここ数日間、白洛因と連絡を取っていた。

 

どうして因子が?

くそ!この野郎!なんで俺に言わなかった!

 

顧海はとても怒り狂っていて、顧洋が起きるまで殴るのを待つことは出来なかった。

顧海は心の中で考えた。

きっと因子は俺を心配してるんだ…俺が恋しくて…俺なしでは生きて行けなくて…

 

顧海は様々なことを推測したが、いても経っても居られなくて一週間ぶりに震える手で連絡をした。

 

 

この時、北京は朝九時で、太陽が高く昇る天気のいい日だった。

 

白洛因は机の上にあるスマホを手に取ると、手の中でスマホが震えた。

 

白洛因が画面を見るとそれは顧洋からで、急いで連絡に出た。

 

「もしもし?」

白洛因は声を抑えた。

 

一週間ぶりに白洛因の声を聞いた顧海は胸が苦しくなった。

 

何も言えず黙っていると、白洛因はぎくしゃくした声で話し出した。

「もしかして…顧海?」

 

顧海は涙が出そうだったが堪えた。

 

白洛因は今教室にいて、ちょうど教師がいなかったため、電話に出ることが出来た。

 

「大丈夫か?」

 

顧海はいつもの調子で「あぁ、少し疲れた。」と答えた。

 

顧海のその言葉を聞くと心が痛くなった。疲れを感じると言うことは顧海の心も体もまだ生きているということだから。

 

「お兄さんは大丈夫か?お前のお兄さんなんだから弟であるお前が助けないと。お前が疲れてるってことはお兄さんはもっと疲れてるんだから。」

 

「俺はどうでもいいのか?」

顧海は悲しくなった。

 

「お前のことを助けたいけど、俺がどれだけ心配したところで、お前のことを助けてやることは出来ないだろ」

 

「お前が居るなら、どんだけ苦しくったって耐えられるよ。」

 

白洛因も同じように感じていたが、この気持ちをどう伝えるべきなのか分からなくて、話を変えた。

 

「いつ帰って来られる?」

 

顧海はしばらく黙っていたが、軽く話し出した。


「もうほとんど終わったから、二日後には因子を抱きしめて寝られる」

 

顧海は瞼を上げてドアの方を見たが、まだ顧洋は来ていなかった。

 

「元気か?」

顧海は再び尋ねた。

「あぁ。」

白洛因は答えた。

 

「そんな適当に言うなよ。具体的には?どこで何を食べた?誰かと寝たか?ちゃんと寝れてるか?風邪ひかないように毛布かけて寝たか?」

 

白洛因はうんざりして言った。

「お前はすぐそうやって色々聞くけど、どう答えて欲しいんだ?」

 

顧海は居心地良く、エアコンを付けた寝室の部屋のベッドで毛布をかけながら横になっていた。何日間も孤独だった顧海はこの会話がむず痒くて、なにか悪いことをしたくなった。

 

「最近は抜いたか?いつ?何回?どうやって?」

顧海は雰囲気を作り始めた。

 

白洛因は焦って周りを見回した。生徒たちはなんてことない会話をしていて、今こんなことを話すような時間ではない。

 

「答えないのか?」

顧海は尋ねた。

「そんなに抜いてんのか?」

 

「一度もしてない」

白洛因は小さい声で答えた。

 

顧海は鼻を鳴らした。

「やめろよ、一度もないって?信じらんねぇ。もう一回おっきい声で言ってみろよ。なにをそんなに恥ずかしがってんだ?」

 

白洛因は「教室にいるんだよ!」と叫びたくなった。

大声で言わなければいけないということは、教壇に立って「私、白洛因は一度も抜いていません!」と宣言しなければいけないのか?

 

顧海はそれに気づいておらず、未だ発情していた。

「ベイビー、お前が恋しいよ。シャオハイもお前に会えなくて恋しいらしいから、電話で愛し合おう。」


白洛因は唇からいくつかの言葉を絞り出した。

「ダーリン、俺は今教室にいるんだ。」

 

顧海はその言葉の意味を理解すると固まった。

「そうか、時差があるのか。今は昼か?」と突然言い出した。

 

「朝だよ。」

白洛因は辛抱強く答えた。

「今はまだ二時間目だ。」

 

顧海は話をやめて、黙ったが、もう一度話し始めた。


「だからどうした。あいつを騙してどうにかスマホを奪ったんだ。次いつ電話出来るかも分からない。」

 

「どうやって騙したんだ?」

白洛因は気になって聞くと、顧海は得意げに語り出した。

「今日兄さんに飯を作ってやったんだが、それに睡眠薬を混ぜた。兄さんは今ぐっすり眠ってるよ。」

 

「お前……」

 

白洛因はこんな兄に毒を盛るような弟を持ってしまったお兄さんを思うと絶句した。

 

「因子ァ……、シャオハイが元気になってる状態を想像できるか?……いや、できるに決まってるか。いつもお前を愛してるこいつの姿を忘れられるわけねぇもんな?」

 

白洛因は教室に居る中こんな話をされたら電話を切りたくてしかたなかった。

 

「顧海、よく聞け…」

 

「なぁ因子…お前の想像の俺はどんな感じだ…?」

顧海は掠れたくぐもった声で言った。

「お前のをどうやって舐めてるんだ?俺が恋しかっただろ?な?」

 

白洛因はもう何も言えなかった。

 

「お前の垂れ流すその美味しいのを下から舐めて……お前のそれが俺の口に出し入れする……どうだ?なぁ、ベイビー、教えてくれ。どうなんだ?」

 

白洛因は突然始まったそれを聞かないふりをして耐えた。

 

「ちょっと待ってろよ……」

海の声が突然聞こえなくなると、白洛因は安堵の息をはいた。

 

しばらくすると動画が送られて来ていて、その中にはシャオハイが映っていた。

「ベイビー、もう勃ちすぎてお前の中に入れたくてしかたねぇよ……」

 

白洛因がショックを受けていると、尤其が白洛因の方を振り返った。

 

「因子、この問題分かるか?」

 

白洛因が手を振って尤其に前を向かせようとすると、スマホが手から落ちそうになった。

 

「どうした?」

尤其は聞いた。

「お前、顔が曇ってるぞ?」

 

白洛因はスマホをポケットに隠して、何事も無かったかのように話を続けた。