第172話 兄弟の絆
顧海が薬を自分で使ったのはこれが初めてだった為、過剰摂取させてしまい、顧洋が起きたのは翌日の朝十時だった。顧海は夜明けまで話を続け、顧洋は数千ドルの通話料を請求した。
顧海はこの通話でエネルギーを補給したので、一睡もせずシャワーを浴びた。新しい服を着て、髭を剃ると、まるで数日前とは別人のようだった。
顧洋は長い夢の中で顧海と一緒にご飯を永遠に食べ続け、朝になってもお腹いっぱいだった。
目が覚めて顧海が彼のベッドに座り、その男前な顔を見て、花が咲いたように笑った。
「兄さん、よく眠れたか?」
顧洋は眉間にシワを寄せながらだるそうに、「何時だ?」と聞いた。
「十時」
顧洋は静かに頷き、ゆっくりと起き上がって、顧海の背中に手を置いた。しばらく撫でて、その後顧海の首を狙ったが、顧海はすぐに首の筋肉の力を抜いて、めまいを防いだ。
「なんで起こさなかったんだ」
冷たい声で言った。
顧海は軽く言った。
「兄さんがあまりにもぐっすり眠ってたから、起こさない方がいいかと思って」
顧洋は急いで靴を履いて、バスルームで着替え、カバンを取って、行ってきますも言わずに出ていった。
顧海は兄さんがそんなふうに焦っているのを見たことがなかった。
顧洋はあまりにも焦っていた為、顧海に仕事を与えずに出て行って閉まった。顧海はやることがなく寝ようと思ったが寝ることが出来ず、顧洋に請求された通話料金を支払うために散歩に出かけることにした。
顧海が家に戻ってくると、顧洋もちょうど家についたらしく、顧海がドアを開けると、部屋の真ん中のソファで複雑な顔をした顧洋が座っていた。
「随分早いな。」
顧海は言った。
顧洋は頷いて、突然失笑した。
「いなかったんだ。そりゃ帰ってくるだろ。」
「いなかった?」
顧海は緊張した。
「誰が?」
「ジェイソンさん」
顧洋は以前顧海にこの人のことを話していて、その人が顧洋に大きな影響を与えていたことをぼんやりと覚えていた。顧海が顔を引き締め、顧洋の前に着くと聞いた。
「なんでいなかったんだ」
「お前がそれを言うか?」
顧洋の目は無気力に満ちていた。
「俺は彼と九時に会う約束をしてたが、理由もなく一時間以上も遅刻した。お前も知ってるだろ。アメリカ人は時間に厳しく、一時間以上遅刻することはとてつもなく失礼なことなんだ。」
「謝ったか?」
顧海は聞くと、顧洋は肩を竦めた。
「あぁ、けど俺が彼に会うために何日待ったか知ってるか?お前は無責任に言うが、全ては彼が決めることなんだ。彼が頷けば、俺は今すぐにでも走っていくよ。彼が頷かなければ、俺が何をしようと意味は無い。」
顧海は顧洋の言葉をただの文章かのように適当に聞いていた。
「俺に何か出来ることはあるか?」
顧洋は顧海を怒鳴りつけそうだったが、顧海は彼について考えていた。顧洋が求めていたのは問題を解決する補佐のような人であり、こんな問題をより重大化するような男ではなかった。
「何ができるんだ」
顧洋はめったに心配そうな顔を見せなかった。
顧海は顧洋に言った。
「起きたら今できることをしよう。無駄じゃないはずだ。」
そう言うと、自分の寝室に戻ると眠気が襲ってきて、顧海は長時間眠った。
起きると枕元に誰かがいた。顧洋は顎に手を当てて、顧海の顔をじっとみていた。
「なんで俺のベッドに?」
「よく寝れたか?」
顧洋は尋ねた。
顧海は目をこすって、欠伸をすると、だるそうに「兄さんが俺に構わなきゃもっと寝れてたのに……」と言った。
「昨晩十分エネルギー補給したろ」
顧海はいつもとは違う特別な雰囲気を感じ取って、顧洋のことを見ると、笑っているようで笑っていない顔をしていて、はっきりしない視線は心を冷たくした。
「兄さん……」
顧洋はスマホを手に取り、顧海の目の前でそれを横に振った。
「お前が全ての通話履歴を消してたから、電話してただなんて知らなかったよ」
顧海は視線を顧洋に戻し、強い口調で言った。
「兄さんについては何も話してない。俺はずっと声を聞きたかった人に電話をして、その人が最近どう過ごしてるのか聞いただけだ。俺は今故郷を離れていて、囚人であっても親戚と連絡が取れるというのに俺は取れないだなんておかしいだろ」
「親戚だって?」
顧洋は冷笑した。
「その話を聞かせろよ」
顧海は白洛因について話すのが大好きだった。
顧洋は興味深そうに顧海を見て言った。
「今日は気分が悪かったんだが、彼の呻き声を聞いたらすぐ元気になったよ」
これを聞いた顧海の目は充血していた。
「録音したのか?」
顧洋は手の中のスマホを見せつけながら言った。
「わざとじゃないさ、スマホ自体に元々録音機能があったんだ。顧海、この一言で分かるよな?」
顧海は何も言わなかったが、その視線で顧洋を睨みつけた。
「この音声を叔父さんに渡したら、どう反応するんだろうな」
顧海は顧洋をより鋭く睨みつけながら、顧洋の首を締め上げた。
「お前!」
顧洋が顧海の手を掴むと、その目は遊んでいたものから鋭く冷たいものへと変わっていた。
「本気にすんなよ。もうすぐすれば事態は終息する。そうすりゃお前もすぐ遊べるだろ。」
「お前のことを心配してるわけじゃない!はやく終息させろ!」
顧洋は顧海の肩を撫でて言った。
「兄弟なんだから助け合わないとな」
三日後、白洛因は顧海からなんの連絡も受け取っていなかった。
瞬く間に金曜になると宿題が配られて白洛因は喜んだ。
これがあれば週末、暇な時間を潰すことが出来る。
カバンに宿題をしまっていると、尤其に声をかけられた。
「週末、予定あるか?」
白洛因はため息をついて言った。
「宿題以外に何かあるか?」
「俺の家に来いよ」
尤其は再び白洛因を誘った。
白洛因はしばらく考えて、今まで天津に行ったことがないし、この機会に行くのもいいんじゃないかと考えた。以前誘われた時は断ったが、今は顧海もいないしこの誘いに乗ろうと決めてすぐに頷いた。
なぜだか分からないが、白洛因が頷いた時、尤其は今までのようにドキドキしなかった。前回は顧海に勝手に断られていたので、今回断られなかったのは顧海が居ないからだと理解していた。
電車の中から、白洛因は流れる景色を少し疲れているものの輝いた目で眺めていた。
「初めて来た」
尤其は鼻を鳴らした。
「まだ着かないぞ」
「小さい頃から北京以外に出たことがないから、生まれて初めてこんな遠くに行くよ」
白洛因がタバコを出すと、ちょうど乗務員が来て止められた。
「すみません、ここは禁煙です」
白洛因は謝って、タバコを戻した。
尤其は白洛因に尋ねた。
「どこに行きたい?」
「うーん」
白洛因は頭を座席に寄りかからせながらだるそうに答えた。
「海のある所に行きたい」
「ははっ、どこに行ったって海はあるだろ?」
白洛因の表情は固まり、尤其が言葉の意味を理解するのには時間がかかった。
二人はしばらく黙っていたが、尤其は白洛因を見て、話すかどうか迷った後、結局聞いた。
「白洛因、お前顧海をどう思ってるんだ?」
白洛因は答えなかった。
「顧海はどう思ってる?」
尤其の質問は簡潔だった。
数秒後、尤其が肩に重みを感じて、体重を感じる方を見ると、白洛因は気持ちよさそうに眠っていた。
尤其の実家のある駅に着くと、すぐにタクシーを拾った。
「母さん、彼がいつも話してる白洛因だよ」
尤其の母は白洛因を暖かく迎えた。
「いらっしゃい」
初めて尤其の母を見たが、尤其が誰の良い遺伝子を受け継いだのかがすぐに分かった。これは美しすぎるんじゃないか?白洛因は何度見ても彼女が母親の年齢であることを受け止めきれなかったが、これが千年の悪魔かと納得した。