第176話 二人の関係

早朝、顧海は着信音で目が覚めた。

習慣的にスマホを探したが、見つからない。座ってもう一度探して犯人を見つけてボタンを押しても、問題が表示されるだけで音は消えなかった。白洛因の目覚まし時計のシステムはとても難しく、それは白洛因が打ち込んだもので、顧海はその答えがさっぱりわからなかった。

 

その後二十分間顧海は問題と格闘したが結局答えがわからず、ついに白洛因が起きてしまった。

 

「答えとくから、顔洗って歯磨いてこい」

 


朝食を買いに行く時間は無く、二人はパンを食べた。

 

「なんであんな目覚まし時計買ったんだ。」
顧海は何気なく尋ねた。

 

白洛因は深く考えずに「尤其もなんで買ったんだって笑ってたよ」と答えた。

 

顧海の白洛因に対しての束縛は激しく、少し言っただけでも大きく反応する。

 

「尤其も見たのか?」

 

白洛因の顔が止まって、気づかれないようにこっそり自分を責めて咳をした。


「あぁ、尤其と杨猛にプレゼントを渡した時に、間違えて一緒に持ってったんだ」

 

顧海はもうこれ以上は質問が無いとでも言うように頷いた。

 

 

 


三週間ぶりに、顧海は教室の前に立っていた。

 

白洛因が無理やり押し込んだ時、無意識に尤其がドアの方を向くと、顧海と目が合った。数日間白洛因と親密なり、再び二人があまりにも自然に一緒にいるのを見ると、もう何も思わなかった。

 

 

授業後、杨猛に会いに行った。

 

杨猛がいつも尤其に会う度に嬉しそうな顔をするのには、ふたつの理由があった。一つ目は尤其が白洛因の親友だから。二つ目は杨猛は尤其と会話をしないとなにも出来ないと数日間の会話で気づいたからだった。

 

「ここで話すのやめれるか?」

 

杨猛の手は資料室のドアにつき、話す度に元校長の写真を眺めていた。

 

尤其はしゃがみこんで、遺影よりも冷たい声で話し出した。

「俺、失恋したんだ」

 

杨猛は混乱していた。
「いつ恋に落ちたの?」

 

「二日前」

 

尤其は爪でネズミが穴を開ける時の音のようにタイルを引っ掻くと、杨猛の頭はより混乱した。突然窓なら風が流れ込んできて、杨猛は寒くて震え、尤其の隣にしゃがみ込んだ。

 

「二日前?誰に?」

 

尤其は誰にも知られたくなかったが、この悲しさを一人で抱えるのも辛くて、他人に皮肉を言われるのだって我慢できた。

 

「白洛因」

 

杨猛は尤其が誰にも恋に落ちたのか期待していたが、聞いた途端その目は薄暗くなった。しかしそれを聞いても罵ったりせず、まるで前から知っていたかのように穏やかに話し始めた。

 

「因子はお前のこと嫌いになっちゃったの?」

 

「最初からそうだったのかもな……」

 

「でも俺とはずっと一緒にいたじゃん」

 

「え?」

尤其は驚いた表情で杨猛を見た。

 

杨猛は尤其をぼんやりと見て、機械的に笑った。

 

「でしょ?僕はお前を捨てたりしないから、僕の腕に戻っておいでよ。安心して。今まで急に怒ってきたのも、男であることも気にしないし、騙したりもしないよ。」

 

それを聞いて、尤其は腕を伸ばした。

 

尤其は長い間話しているから、遊ばれているんだと思っていた。

 

「何笑ってんだよ」
尤其は杨猛を押した。

 

杨猛の演技はとても上手で、悲惨な妻のように見えた。

 

「なんで僕はお前を助けたのに、お前はこんなことするの?白洛因の何がいいの?5000m一緒に走ったじゃん。お前らに三角関係にあったのは分かってたけど、僕は止めるべきじゃないって思った。」

 

「冗談言うなよ」
尤其は無気力だった。

 

杨猛は腰に手を当てて「冗談じゃないよ!」と言った。

 

「俺は本当に白洛因が好きなんだ!」

 

「僕だって本当にお前が好きだよ!」

 

杨猛は尤其の顔が膝に埋まり、尤其が心から血を流していると気づくと、笑うのをやめた。

 

杨猛の笑顔は突然固まった。

「もう一回聞くけど、本気なの?」

 

尤其は杨猛の瞳に映る憂鬱な表情を見た。

 

「冗談だってまだ思ってんのか?」

 

杨猛は突然大きな歩幅で一歩下がり、ドアにぶつかったが、重心が不安定だったため、跳ね返りよろめきながらドアから出ていくと、すぐに戻ってきて尤其の目の前にたち、彫刻のように動かなくなってしまった。

 

尤其は額の汗を拭い、狂犬病のように杨猛を怖がらせるような姿はなかった。最初はなぜそんなに大人しいのかと疑ったがっていたが、久々に反応した。

 

「なんで二日前に因子に恋に落ちたって言わなかったの?」

 

尤其はため息をついた。
「その時はハッキリ分かってなかったから、言う必要が無いと思ってたんだよ」

 

杨猛は白洛因が男を好きだと言うことが理解できなかった。因子はとてもハンサムだが、女性ではない。

 

「いつ失恋したんだ?」

尤其にとってこの質問は傷を抉られるように辛かった。

 

杨猛は汗をかいていた。
「二人は兄弟なんだから、そんなことないだろ」

 

「愛し合ってるんだ」
尤其は他人事のように話した。

 

杨猛は首を横に振った。
「そんなわけない。白洛因は男のことを好きになれるわけないんだ。前にも彼女がいたし、その子は留学してたのに白洛因を中国まで探しに来たんだよ!」

 

「それで?彼女とはどうなったんだ?」

杨猛はもっと汗をかいた。

 

しばらくすると、突然尤其が笑いだした。

「俺は白洛因が好きだけど、白洛因の気持ちを決めるのは白洛因なんだ。二人の関係を壊そうとしたって、白洛因と顧海の関係はもう当たり前なんだよ」

 

杨猛はそれさえ聞かず、白洛因と顧海は仲良くなった日のことを思い出していた。それは突然の事で、杨猛が目の前に表れるだけで、顧海は杨猛を睨みつけていた……

 

「これはどうかな」
杨猛は尤其の腕を掴んだ。

「僕にアイディアがある。もしかしたらこれで二人の関係を確かめることが出来るかも。」

 

「どんな?」

 

杨猛は頭をかいた。
「因子は二日前にお前のうちに来たんだけど、コートを落としてしまってまだそれを返せてないんだ。それでそのコートを明日、顧海の前で白洛因に家に置き忘れてたよって渡す。その時の顧海の顔を見ればわかるでしょ?」

 

 


それから二日経ったが、顧海と白洛因はキスしなかった。

 

もともとは二人とも裸で寝ていたが、白洛因は寝る前に脱いで真夜中に起きて下着を履いた。そして顧海を抱きしめずに、一人で眠って、手足を覆える暖かい場所を探した。どれほど手足が氷のように冷たくなっても、顧海に頼ることなく、一人で眠った。

 

顧海はまた長期間いなくなるかもしれないから、この習慣を変えなきゃならない。

 

顧海は真夜中に目が覚めて、白洛因の肌に触れた。

 

白洛因は眠っていたが、その誰かの手を払わなければいけない。白洛因は顧海を蹴るのをやめて、股間を狙おうとした。白洛因が夜中に水を飲んでしまえば、そのまま他のものも食べてしまう……

 

 

 

翌朝、顧海と白洛因はいつものように一緒に教室に入った。

 

尤其は二人が入ってくるのを見て、本当に杨猛の作戦で大丈夫なのかと緊張した。


このコートを渡してしまえば、俺は頭を殴られるんじゃ?

足を切断されるんじゃ?

 

尤其が躊躇っていると、白洛因が先に話し始めた。

「どうして俺の服持ってるんだ?」

 

尤其はびっくりして、全ての計画を忘れてしまった。

「この間着た時に椅子の上に置いたまま、着て帰るの忘れただろ。」

 

「あぁ、だから見つかんなかったのか」

白洛因が服を取ると、突然気分が悪くなって、後ろを振り返った。

 

後ろの黒板は凍っていた。