第183話 突然の帰宅

顧海はバスルームに向かい、シャワーを浴びて泥を洗い流していると、白洛因はベッドに横になっていた。

……今日はちゃんと分かってる!
顧海は口角をあげて笑った。

毛布を取って、ベッドに横になっている白洛因を見ると、その体はまるで無機質のようだった。顧海も白洛因の横に並び、その背中に手を添えた。

白洛因はその手を振り払い脇の方に落とすと、頭の向きを変えて怒りを表した。

顧海はもう一度、白洛因の背中に手を添えた。

白洛因ももう一度、その手を振り払った。

顧海はまた、同じように手を添えた。

そんなことを四、五回繰り返すと、顧海は白洛因を抱きしめ、耳元にくっついた。
「次動いたらお前のこと落とすからな。」

白洛因は頭の向きを変えたが、顧海はそれを止めなかった。出会ってしまったことを、顧海は幸せなのか不幸なのかわからない。

「因子?」
顧海は静かに話した。
「こっち見ろよ。」

白洛因の目は閉じられていて、その口は敵意を表しているようだった。

顧海は白洛因の尻を叩いて、優しい声で言った。
「なぁ、言うこと聞いてくれよ。」

白洛因の首が回った。

「お前が従わないなら、戦うしかないな。」
それは信用性のない脅しだった。

少しするともう一度白洛因の尻を叩いて、それでもこっちを向かないとまた叩いて、白洛因をずっと見ていた。……やっと白洛因の腰が動いて、顧海に叩かれるのを阻止しようとしたが、大きな手がそれを追いかけて次は叩いた後に撫で始めた。

白洛因が顧海の手を押すと、顧海はその手を捕まえて体を裏返し、両腕でその手を拘束して、無理やり顔を見せた。

顧海はしばらく白洛因のことを見つめて、何も言わずにキスをしようとすると、白洛因が逃げて、キスすることが出来なかった。どれだけ追いかけても、困った子供のように逃げ続けた。

顧海は腰を掴んで、自分のモノと白洛因のモノを擦り合わせると、白洛因の目はすぐに熱くなった。

顧海は白洛因と鼻をすり合わせながら、冗談を言った。
「もう俺の事を忘れたのか?」

白洛因に対する顧海の体の認識の方が、心の認識よりも高かったため、頷かざるを得なかった。顧海は体への理解が、感情の理解を遥かに上回っていた。いつだって簡単に白洛因の快楽を導くことが出来ていたが、感情のコントロールは全く出来なかった。

顧海はもう一度キスをしようとすると、今回は躱されずに、顧海の唇を舐めた。顧海は意図的に白洛因を焦らし、その眉が歪むまで、唇を合わせるだけを繰り返していた。

顧海の舌が白洛因の鎖骨を沿って、胸を舐め、顎に戻るを繰り返し、白洛因がどこまで耐えられるか楽しんでいた。

白洛因は顧海の硬い胸に手を当てて、その突起を擦った。

顧海の呼吸が白洛因の寝巻きに触れるぐらい強くなると、しばらくして手を止めた。
「これは誰のだ?」

「知らない。置いてあった。」

「そんなの着るな。脱げ。」
顧海はボタンを外すことにした。

顧海の胸に置いていた白洛因の手も止まり、まるで途中で中断されたかのように表情を変えて、動かず横たわった。

顧海は白洛因の頬をそっと撫でて、優しく尋ねた。
「今日はどうしたんだ?」

しばらくして、白洛因が答えた。
「家に帰りたい。」

「やっぱり一緒に来たのを後悔してるのか?」
顧海の顔が変わった。
「それとも、俺と一緒にいるのを後悔してるのか?」

「違う。」
白洛因はため息をついた。
「一緒に帰って欲しい。」

顧海はやっと、白洛因の言葉の意味を理解して、安心した。
「俺も帰りたいが、まだ問題は解決してないから、安全には暮らせないぞ?」

白洛因は表情を変えなかった。
「お前が作った麺が食べたい。」

「そんなこと言ったら困るだろ?」

顧海は幸せでたまらなかった。

「心配するな。家に帰ったら毎日美味しい飯作ってやるよ。」

白洛因がやっと笑った。
「お前の方が父さんの作る飯よりよっぽど上手いよ。父さんは何年も勉強してたけど、全然上手くならないんだ。お前は数ヶ月しか勉強してないのにすごい美味しい。」

「お前の父さんが年老いて息子が一人だったら、誰も美味しい飯を作れないだろ?でも俺がずっと一緒に居れば、大丈夫だ。」

白洛因の手が顧海の顎を掴み、優しく言った。

「大海、結婚しよう。」

「あぁ。」
顧海は即答した。
「これでお前の家族だ。」

白洛因は顧海を押し倒した。



土曜日の午後の授業になると、顧海は白洛因に言った。
「良い知らせだ。」

「どんな?」

「向こうの会議が遅れてて、父さんが帰ってくるのが二日遅れるらしい。」

白洛因は顧海に軽蔑的な視線を送った。
「良い知らせだって?どうせ戻ってくるなら、今すぐここを離れなきゃなんないだろ?」

「だけどさ、二日も開くんだから穴を掘る価値はあるだろ?」

白洛因が何も言えなくなっていると、家庭教師が咳をした。

二人は彼が風邪にかかっていることにして、話を続けた。

「それは本当なのか?嘘を流して突然の帰ってきて、そのままお前を捕まえるつもりなんじゃないか?」

顧海は大胆不敵な表情をした。

「捕まえるって?遅かれ早かれ、父さんは受け止めなきゃダメだろ。しかも、父さんは毎日ここの人と電話して明確な俺らの状況を把握してるんだから、そんな抜打ちチェックする必要は無い。」

白洛因はその冷たい目線を送るのをやめて、独り言を言った。
「父さんに昨日電話したら、今日は帰ってくるのか?って言ったんだ……。父さんは今の状況を分かってない。」

顧海は難しい決断をするような顔をして、白洛因のことを一瞬見た。

「あの人の目的は俺らを引き離す事だから、お前が一人で出ていっても誰も止めないんじゃないか?お父さんのためにも帰ってやれよ。」

白洛因は首を振った。
「外に出たら戻って来れないかもしれない。」

顧海は口を動かしただけで、何も言わなかった。

しばらくして、白洛因が顧海を見て、突然口を開いた。
「父さんに真実を伝えたい。」

「ダメだ!」
顧海はすぐに否定した。
「おじさんには言えない。」

「どうして?遅かれ早かれ父さんは知るだろう?他の人に言われるくらいなら、自分で伝えた方が良い。」

顧海は白洛因の額を突いた。
「馬鹿、一つ一つ対応出来ないのか?」

白洛因は顧海を横目に見た。
「父さんの気が変わったらどうするんだ?」

顧海は生意気に笑った。
「そんなのわからないだろ。」

白洛因はその手で本を壊した。



翌日の朝一時に、顧威霆は何も言わず軍用施設に車を停めて帰ってきた。

二人の特殊部隊員が顧威霆を見ると、やっと仕事が終わったと安心した。

「長官!」
二人は敬礼した。

顧威霆は静かに頷いた。
「最近のあいつはどうだ?」

「とっても良いです!」
一人がさわやかに答えた。

顧威霆の口の端に、分からないほどの笑みが表れた。
「どんな感じなんだ?聞かせてくれ。」

「我々の仕事にとても協力的です。」

「毎晩定刻に就寝し、無断で外出しません。」

「彼はどこに行っても、なにをしても、なにも反抗しません。」

「……それに好き嫌いしません。」

二人の特殊部隊員は競うように賞賛した。

顧威霆は少し目を細めて、静かに言った。
「私の息子はそんなに優れてるか?そんなに自慢するところがあるか?」

二人の特殊部隊員は恐れたが、自分を守るように言った。
「我々の言っていることは全て真実です。最近の彼は本当に素直で、規格外のことは何もしませんでした。」

「えぇ。先日までは騒音が酷かったそうですが、ここ二日間は大人しく、早々に就寝していました。」

顧威霆の厳しい目は少し柔らかくなった。
「ありがとう。もう寝なさい。」

二人の特殊部隊員は安心し、敬礼した後、走って去って行った。

顧威霆はドアを開け、中に入った。

この時、顧海はまだ白洛因のベッドにいて、"運動"をしていた。

長い間聞くことのなかった自分の部屋のドアが開く音を聞いて、顧海の動きは突然止まった。

「孫警備兵、ここに荷物を置いてもいいですか?」

「ええ、どこにでも置いていきなさい。」

くそ!本当に戻ってきた!

白洛因の熱い体は即座に冷たくなり、大きな手が顧海の首を掴むと、顧海の顔に恨みと不安な気配が宿った。

「来るわけないって言ってなかったか?」

顧海はどうすれば回避できるか考えていたが、すぐに冷静になった。

「これが終わったら行く。」

白洛因は顧海の胸を掴んだ。
「お前は獣か!?」

孫警備兵が何気なく、ドアから尋ねた。
「大丈夫ですか?」

「えぇ、ただ寝相が酷いだけです……。」

「眠れないんですか?」

「えぇ……しかも彼はいつも寝言を言うんです。」

孫警備兵は、まだそんな子供の時の習慣が残ってるのか?と疑問に思った。

顧海は唸って白洛因の隣に横になり、渋々彼のモノを取り出した。

「帰ってもいいか?」
顧海は白洛因に意見を求めた。

白洛因は顧海を掴んだ。
「まだ帰るな。きっとお前のお父さんはお前のことを探してるから、今戻れば絶対に捕まる。」


顧威霆は全ての部屋を探したが、どこにも顧海の姿はなく、しばらく激怒した。
あのガキ!案の定抜け出したんだな!

二人の特殊部隊員が寝ていると、班長に毛布を剥がされた。

白洛因と顧海は外の動きに耳を傾けていると、突然大勢の足音が鳴った。

「長官、なぜここにいるのですか!?」

顧威霆は何も言わずに白洛因の部屋へ向かい、激しくドアを叩いた。

「おい!今すぐ開けろ!」

白洛因は顧海を押して、何かを伝えなくてはと思ったが思い出せなかった。ベッドではなく、どこかに隠すべきだと思ったが、もう遅い。

ドアを叩く音は益々強くなった。

孫警備員の声がした。
「小白、もう寝たか?」

白洛因は呼吸をして、寝ていた振りをしてドアに向かって歩いた。

ドアを開けると二人の男がたっていて、驚きの表情をあげた。

「孫おじさん……おじさん、いつ帰ってきたんですか?」

顧威霆は何も言わずに真っ直ぐ歩いていき、毛布を剥いだが誰もいなかった。キャビネットを開いても、カーテンを開けても、どこにもいなかった。

厳格な目が白洛因を捉えた。
「顧海と一緒にいたんじゃないのか?」

白洛因は莫大な精神力を費やしながら、罪のない目を示した。

顧威霆は不機嫌そうな表情でまた歩いた。

顧海が穴から出てベッドに横になると、突然白洛因が現れたので、とりあえず隣のクローゼットの中に隠れた。

顧威霆はドアの前で二人の特殊部隊員に怒鳴った。
「今すぐ連れ戻してこい!見つかるまで戻ってくるな!」

無駄だ!一人見失いかねない……。
顧威霆は寝室に戻り、顧海はその荒い呼吸に耳を傾けながら、音が鳴らないように体制を変えた。

しかし、軍人の耳は非常に敏感である。

顧威霆はすぐにクローゼットに向かって歩き、ゆっくりとクローゼットを開けると、気絶しそうになった。顧海はクローゼットで丸くなっていて、光を感じるとここで長い間眠っていたかのように演じた。

「父さん、戻ってきたのか?」
だるそうな声で言った。

顧威霆の目は疑問を示していた。
「なんでここに隠れてるんだ。」

「寝てたんだ……。」
顧海はさりげなく答えた。

ベッドで見なかったのも無理はない。
猫はここで眠っていた!
「そんな所で寝れないだろ?何してたんだ。」

顧海は笑った。
「部屋は何も無いし、ベッドは広いし、小さなスペースの方が家の温もりを感じて安心するんだ。」