第188話 権威への挑戦

「長官、もう3日経ちましたよ。」

顧威霆はその言葉の今を知りながら聞いた。
「なにから3日だ?」

孫警備兵は口にニキビができるほど、この2日間とても心配していたが、顧威霆はより穏やかになり、より恐ろしくなっていた。彼は顧威霆にとって、顧海がここで費やす時間の意味が、よく理解することが出来なかった。

「小海はもう3日もトンネルの中にいます。」

顧威霆は冷たく微笑んだ。
「68時間だけで、3日も経ってない。」

孫警備兵はもう我慢することが出来なかったので。
「長官、なんのためにこんなことを?過去2日間の彼の顔を見ましたか?思い出してみください、この子は倒れませんでした。」

「なんのためにって?」
顧威霆の口は硬かった。
「私が何かしたか?」

「何をしているかも分からないのに、どうしてそんなにはっきりと時間が分かるんですか?」

顧威霆はしばらく黙り、孫警備兵をちらりと見た。

「お前がトンネルへの扉を開けていることを、私が知らないとでも思ってるのか?お前は一日中トンネルへ食事を送り、食べ物を、毛布を送り続けてるな。別に半年間閉じ込められた訳じゃないんだ。」

孫警備兵の表情が、一瞬で反抗的な表情へと変わった。

「長官、私もあなたと同じように考えています。もし彼が囚人であれば、トンネルを埋めて、食事も一切与えないでしょう。しかし彼は囚人ではなく、あなたの息子です!こんなに暗くて足も伸ばせないところ、食事と水が与えられたとしても、耐えられないですよ!」

顧威霆は冷静に孫警備兵へ質問した。
「トンネルには出口がふたつあるのだから、お前が逃がして、部屋で食べたり飲んだり、眠ったりしていただろう?」

「彼は逃げませんでした!」
孫警備兵はこの瞬間に真実を語ろうとした。
「長官、彼が言えば何でも渡すことが出来たのに、なぜ彼はなにも求めなかったのか教えてください!私が彼のために詰めた毛布でさえ、引っ張らずに寒さで気絶するように眠ったんですです。長官、今の季節が分かりますか?外に立って手を擦りながら着ているのはどんな厚手の服ですか!小海がどうやって3日間生き残ったのか考えられますか!?」

顧威霆の心は震えたが、それを顔には表さなかった。

「感情的になるのはやめなさい。」

「長官!」
孫警備兵は大きな体を持ちながら、心配で泣いていた。
「私は感情的になっているのではなく、小海は本当に食事を取ることも、水を飲むこともしていません!彼がもう少し早く生まれていれば、賢くあなたの事を襲っていたでしょう!」

顧威霆は怒鳴った。
「あいつを地下で殺せ!」

孫警備兵は顧威霆を長い間悲しそうな顔で見つめ、静かに話した。
「長官、本当にそれでいいのですか。小海は今が何時かも分からないんですよ。」

そう言い終えると、孫警備兵は顧威霆の部屋を出て行った。

顧威霆が立ち上がると、突然めまいがして、治るまで長い時間かかった。彼は三日三晩眠っておらず、顧海の事を無視して、意図的に孫警備兵の気をそらそうとしたが、孫警備兵が顧海に会う機会を作りたいだけだった。彼は毎晩眠りながら、まだ濡れている毛布の下のトンネルで丸くなっている顧海の事を考えていて、彼が布団を持っていないとは思ってもいなかった…

家の中を歩き回りながら、顧威霆は最終的にその場所で止まった。

屈んで内部の動きを注意深く聞いたが、彼の鋭い耳でさえも、中で動いてる音は聞こえなかった。

呼吸さえも聞こえない。

顧威霆は床を持ち上げて、中に入って行った。

前に進むと、そう遠くないところで、体が横たわっていた。

顧威霆の頭は一瞬真っ白になり、背中を何度もトンネルの壁にぶつけながら、湿った土を硬い軍服に擦りつけて進んだ。

足音が進むにつれ、顧威霆は顧海の呼吸する音を聞くと、その瞬間から鼓動が再開した。

トンネルは灯りがないから、顧威霆は顧海の顔を見ることが出来ずなかったが、触れるとその体は冷たかった。孫警備兵の言っていたことは正しく、顧海の周りには食べるものも飲むものも、毛布もなく、道を開拓するためのシャベルもなかった。顧海の服は鉄片で濡れ、体に張り付いており、微かなカビの香りさえした。

顧威霆が顧海の手に触れると、とても冷たく、あの夜手を暖められた時とはかけ離れていた。

顧海は突然顧威霆の手を掴み、想像できないほどの弱い声を出しながらも、粘り強く言った。

「父さん……」
顧海は明確に一言話した。

顧威霆は顧海がまだ大丈夫だと分かり、一時的に少し正気を取り戻した。

「もう以前までのことは忘れるから、上へ一緒に上がるぞ。」

顧海は3日前と同じことを言った。
「俺は入隊しない。」

「そんなに私のそばにいることは耐えられないか?」
顧威霆の声は深い悲しみと怒りに満ちていた。

「因子のことを受け入れれば、いつだってあなたのそばにいるさ。」

顧威霆は心の温度が下がるのを感じながら、顧海の首を掴んだ。

「私はお前たちの関係を受け入れることは出来ない。」

「じゃあ1人で上がってくれ。」

顧海は軽く言った。

「俺はここでも生きていける。食べ物も、飲み物も、毛布もない人生より、因子を1人で残す方が耐えられない。苦しんでいる俺に手を差し伸べたいのであれば、俺に因子から離れることを強制しないでくれ。離れることの方が百倍辛いんだ。」

顧威霆は歯を食いしばった。
「だからなんだ。生きて拷問を受けた方がマシか!」

海の声は暗い空気に溶け込んだ。
「離れたくないんだ……」




顧威霆がトンネルを抜けた時、トンネルに水を流して顧海を溺死させたくなった。

「長官、あなたの息子はもう3日も離れずに外で待っています。」

この話を聞いた顧威霆は全く動かなかっただけでなく、それどころか白洛因のこの行動に腹を立てていた。

「あいつを連れてこい!」

白洛因が入ってきた時、彼の顔色は顧海よりも悪かった。

顧威霆は白洛因が姜圆の息子であると思い出し、口調を少し穏やかにした。

「毎晩お前を門に立たせたのは誰だ?それがどんな悪影響を及ぼすかわかるか?どれだけお前が私を困らせているかわかるか?お前は賢いと思っていたが、所詮子供だったお前を勘違いしていることがよく分かったよ。お前と顧海は同じ考えを持っているが、それは悪いことだ!」

これを聞いて、白洛因は静かに答えた。
「顧海はどこですか?」

今、顧海の状況以外に白洛因は何も気にしていなかった。

この表現とこの質問は、間違いなく顧威霆の不可抗力を誘発していた。

「あいつの状況を知りたいのか?今日はお前も中に入れて、あいつの姿を見せてやろうか。お前のその行動が、あいつにどれだけの害を与えるだろうな!このトンネルを見たか?顧海は食べたり飲んだりせず、3日間ここに横たわっていた。もう無理だと言うまで、私はあいつを解放しない。」

白洛因の心に大きな穴を開けて、引き裂くような痛みが爆発した。

彼はそのトンネルに入り、寒さに耐えながら風邪をひいている。しかも空腹だ。空腹の上、寒いのがどれほど辛いのか白洛因は知っていた。

白洛因は突然しゃがみ、トンネルに入ろうとしたが、顧威霆に止められた。彼は必死に振りほどこうとしたが、外に立っていた二人の特殊部隊員が入ってきて、押さえつけられた、

顧威霆は大きな隙間から床を蹴り、白洛因を入れないようにした。白洛因は激しく蹴り上げた。トンネルは自分のいる場所はわずか10cm以内だと言うのに、白洛因は入ることも出来ず、顧海を見ることも出来ない。

「顧海、よく聞け!!お前がトンネルで眠っている間、俺は道路で寝てた。お前が1日何も口に含まなければ、俺だって何も口に入れなかった。最初に妥協した方が負けだ!!」

そう言い終えると、当然床を蹴り返し、ぴったりと隙間を塞いだ。

みんなの見張るような目を無視して、白洛因はその場から立ち去った。




次の日の夜、白洛因はいつものように隠れた角を見つけた。濡れたコートを見に纏い、夜風が吹くと、まるで趣味かのように自傷行為を楽しんだ。



夜遅くになると、突然暖かい手が白洛因に厚手のコートを着せた。

白洛因は首を捻って振り向くと、白漢旗の優しい顔を見て、一瞬で無数の罪悪感と苦しさが喉に広がって、白洛因が口を動かしても、言葉が出なかった。

「息子よ、駆け落ちしなさい!」

白漢旗は簡単に言ったが、こんな衝撃的なことを言える、世界で唯一の親だった。