第191話 愛の旅

トンネルに住んだ初めの日、顧洋は顧威霆が自ら自分を探すことを祈っていたが、2人が逃げられるように、顧海のために時間を稼いでいた。

翌日になると、顧洋はこんな人が住むために作られていない場所に耐えられなくなった。寒いのが一番耐え難い。鍵は湿度だった。顧洋の肌は敏感で、10時間以上経つと皮膚が痒くなり始め、顧洋はロープを解いてかいた。それでも、顧威霆が早く見つけることと、顧海が少しでも遠くへ行けるようにと祈った。

3日後、顧洋は呪い始めた。

顧威霆、あなたは残酷なファシストだ。
息子である顧海は、8日間もトンネルに閉じ込められている!
丸一日、食べることも飲むことも寝ることもしないなんて、超人でも死んでるぞ!!
親族を殺したいと思っても、降りて、息子の体を見てみたりしないのか?
息子をここに埋めて、葬式代を節約するつもりなのか!?

顧洋がペットボトルを取ると、水は無くなっていた。

顧洋の体は長い間麻痺し、体で感じられるのは空腹だけだったが、食料なんてあるはずがなかった。

一分経つ事に、顧洋は顧威霆に感謝していた。5日間、水なしでどうやって顧海が生き残ったのか考えていた。
引き上げれば歩くことだって出来ていたし、本当に天才だな!
しかし顧洋は考え直した。顧海が生き残る能力は、家族に犯罪に値するこんなことをされても負けない、強い精神力によって支えられている。

なんでこんなことしてるんだ?
2人の愛を守らないといけないからか?
2人の関係が俺とどう関係してるんだ?
俺はそれに反対してなかった?

顧洋はなぜ、自分が3日間も苦しんでいるのか分からなくなっていた。

1時間、せいぜい1時間をやるよ。
もし一時間以内に降りてきて俺を助けなければ、俺は……!!
1人で上に登ってやる!!


顧洋と共に、孫警備兵も拷問に耐えていた。
彼は毎晩、顧海がトンネルで助けを求めて暴れる悪夢を見ていた。3日連続でその夢を見ていると、精神的拷問に苦しめられ、孫警備兵の顔は真っ青になっていた。彼の精神は崩壊していた。もう何も関係ない。降格したっていい。それでも家で子供が死ぬのは見てられなかった。

その1時間前、顧洋は登る準備をしていた。しかし、彼の手と足には、2日前にロープを自分で巻いていた。この悲劇に両手が強ばり、力が出なかった。ロープが解けなかったおかげで、2日間の疲労が無駄になっていた。


孫警備兵はトンネルの中に入った。

この時、顧洋はトンネルの入口に移動していて、孫警備兵と出会うと、顧洋は驚いていた。

この人はどこから来たんだ?
トンネルの扉は明らかに開いていない!

驚いたあと、顧洋は強い力によって逆のトンネルの入口へ引きずられた。彼の目が光に触れると、体全体が石になったようだった。


顧海、お前を殺したいよ!!
なんで他にも出口があると教えてくれなかったんだ?
それを知ってれば、もっと前に出ることが出来たのに!!

顧洋の顔は泥だらけで、真っ黒になっており、元の顔が見えなかったので、孫警備兵は顧海だと信じて疑わなかった。

「小海、お前が下に入れられた時、縛られてなかったよな?……なんで縛られてるんだ?」

孫警備兵が顧洋のロープを解こうとすると、言葉を聞いて動きが止まった。

「孫おじさん、私は顧洋です。」

孫警備兵の表情は止まり、しっかりと見ると本当に顧海じゃなかった。

「君は……君……」

顧洋が口を開いた。
「彼に伝えなければならないことがあるので、叔父に急いで電話してください。」


一分も経たず、顧威霆が激しく怒りながらやってきた。

顧洋が顧威霆の顔を見た時、その顔は人を殺せそうだった。

「叔父さん、なぜ私を助けてくれなかったんですか!」

顧洋は故意に手を振って、ロープを見せつけた。

「あなたの所へ顧海を説得するために来たら、あなたの息子が私を縛りトンネルに閉じ込めたんです!孫おじさんが来ていなければ、私は今頃死んでましたよ!」

顧威霆はこの言葉を聞いて顔を隠したが、しかしどんなに怒っていたとしても、まずはロープを解かなければならない。

「お前は私に帰ると連絡してなかったか?」

顧洋は苦笑いした。
「顧海は私の服を着て出て行ったんです。私が連絡できると思いますか?」

顧威霆の顔には、まるで嵐が映っているようだった。



2日前、顧海と白洛因は食べ物と衣服でいっぱいのカバンを持ち、白漢旗の熱心な視線の元、正式に旅に出た。

白漢旗は2つの車の影を真剣な眼差しで見つめていた。

「ねぇ、これが2人にとっていい事なのか、そとも傷つけてしまうのか、私には分からないよ。」
邹叔母さんは心配そうだった。

白漢旗は微笑んだ。
「それを試してるんだ。きっといい事だよ。」

「試す?」
邹叔母さんが白漢旗を掴んだ。
「あなたはそんな父親だったかい?子供の青春を試験対象にするなんて!もし失敗したら、誰が償うの?」

「人生に本当の成功も失敗も無いさ。すべては人生経験なんだよ。間違った道を進むのが必ずしも悪いことではない。それと同じで、正しい方向に進むことがいい事とも限らないんだ。」

「無茶苦茶だわ……」
邹叔母さんが白漢旗を横目で見た。

白漢旗は変わらず微笑んだ。
「元々、若者が外に出て歩き回ることは悪いことじゃないんだ。この人生、誰が問題を起こさないんだ?私だって、若い頃は何個も問題を起こしたさ。」

「なにをしたの?」
邹叔母さんが尋ねた。

「両親は姜圆と結婚することに同意しなかったが、自分の決めたことに固執したんだ。父は私との縁を切るとまで言ったし、他にも様々な妨害があったが、それでも私は自分の意思を曲げなかった。自分が愛する人を、なぜ他人に決められなきゃならないんだ!!」
白漢旗は誇らしげに言った。

「その後は?」
邹叔母さんが故意に尋ねると、白漢旗の肩が下がった。
「その後離婚した……」

「終わり?」
邹叔母さんは怒った。
「なのになんで彼らを手放したの!」

「けど、姜圆と離婚していなかったら、出会えなかっただろう?結婚できなかっただろ?」

「重要なのはあいつがいつそれを長所ととるか短所と取るかだ。私は自分の運命を信じてる。人間は生涯を通して神様に支配されてると思うんだ。だから何があったって、隠す必要なんかない……」

邹叔母さんはため息をついた。
「残念だわ。昨日因子の担任の先生から、あの子の成績はとてもいいから学校から推薦したい、学校に来れませんか?って電話があったのに……」

「なに?」
白漢旗の顔が変わった。
「いつだ?なんでそれを早く言わなかったんだ?」

「さっきも、前の夜も言ったわよ。大丈夫?」

白漢旗が額を叩いた。
「そうか、その瞬間に寝てしまったに違いないな。」

邹叔母さんは聞いた。
「後悔してる?」

「……すると思うか?」
白漢旗はぎこちなく微笑み、彼の父親としてのイメージを保とうとした。
「私がよく考えて考えて決めたことだ。どうして後悔するんだ!」

邹叔母さんは頷いた。
「戻りましょう。」

白漢旗は振り返って戻ったが、我慢できなかった。
「ちなみにだが……先生はどの学校に推薦したって言ってたんだ?」

邹叔母さんはしばらく躊躇っていたが、口を開いた。
清華大学北京大学って。」

白漢旗は振り返って、数歩ふらつきながら走ると、大声で叫んだ。
「息子よ!わたしの息子よ……!!」

邹叔母さんは急いで白漢旗の腕を掴んで必死に言った。
「今更なにを追いかけてるのよ!もう居ないわよ!」

白漢旗は動揺していた。

邹叔母さんはそのまま白漢旗を引っ張った。
「ほら、これも神様が決めた運命なんだから受け止めなさい。もう追いつけないわよ。」

白漢旗は歯を食いしばった。
「神様なんていない!!」



2人は別々に運転している車からの景色が、逃げる恥ずかしさや親戚から離れる恐怖もなく、全てが新鮮で彩やかに映っていた。きっとそれは少し前にあまりにも多くの困難を経験しすぎていて、重荷が無くなり、いきなり生きていることが美しく感じるようになっていた。閉じ込めて他人や自分に危害を加えるよりは、逃げて自由の幸せを味わう方がよっぽど良かった。

彼らは心の中で言った。

これは俺たちの人生なんだから、若いうちに狂ったっていいじゃないか!

荒野を抜けると、2台の車がゆっくり停車した。

「安心したか?」
顧海が聞くと、白洛因は頷いた。

顧海は歯を見せて笑った。
「一緒に行こう。」

白洛因は顧海を押した。
「いつもお前が離れてくんだろ。」

白洛因は顧海と背中合わせになると、真っ直ぐ歩いていった。

「行くな!」
顧海は叫んで、すぐに振り返った。
「風に逆らっておしっこして欲しいのか?」

白洛因は肩を震わせながら笑った。

白洛因の笑顔を久々に見ると、顧海は真っ直ぐ見ることができなかった。ちらりと見て、目線を逸らして、またちらりと見て……

白洛因は喉を見せた。
「なぁ、トイレするの手伝えよ。」

顧海はその目を驚かせた。
「なに?俺の手は乾いてるぞ。」

白洛因は微笑んだ。

顧海はそれを知りながら、白洛因がズボンを拾った時に、意図的に彼の尻を撫でた。

清潔を愛する白洛因がペットボトルを取り出し、顧海が手を洗うために水を流すことで解決した。

「無駄遣いするなよ!」

顧海はトンネルから出てきたばかりなので、節水といういい習慣を身につけていた。

手を洗い終えると、2人は車に寄りかかりながらタバコを吸った。

「ここどこかわかるか?」

白洛因は首を横に振った。
「知らない。初めてきた。」

「なんでだよ。北京から出たことないんだっけ?」

「2ヶ月前は本当に出たこと無かったよ。けどこの間、天津に行った。」

「天津に?」
顧海はその場所にあまり印象を持っていなかった。
「天津に何しに行ったんだ?」

「尤其と一緒に尤其の実家に帰ったんだ。」

空気が一変すると、顧海はタバコを消して、からかった。
「駆け落ちでもするつもりだったか?」

白洛因は顔を暗くしながら静かに話した。
「信じられないんだったら1人で運転してくぞ?」

顧海は微笑んで白洛因の顎を噛み、顎に沿って鼻にタバコの煙が入るのと一緒に、人間には手に負えないような自然の匂いが香った。

「まずどこに行く?」
顧海が聞くと、白洛因は恥ずかしそうに答えた。
「しばらく考えられない。」

顧海は代わりにしばらく考えた。
「わかった。俺に案がある。」

白洛因は顧海が靴を脱いで空に向かって投げると、靴が西向きに落ちたのを見た。

「よし、西に行こう。」