第192話 宿泊先
車を進めている途中、白洛因は顧海に電話で尋ねた。
「西に進んだら海が見えるか?」
「そうだな。このまま運転すれば西ヨーロッパに着くから、海が見えるだろうな。」
白洛因はしばらく黙っていたが、静かに言った。
「海のある街に行くのはどうだ?」
顧海は何も答えなかったが突然車を停めたので、後ろをついていた白洛因は一時停止した。
顧海は車から降りると、怒って白洛因の車のドアまで歩いた。
「出てこい!」
顧海が車の窓を叩いた。
白洛因がドアを開けて外に出ると、強い圧力に包まれた。顧海は白洛因の頭の両側に手を置いて、鋭く燃えるような視線が白洛因を見つめた。
「どうして言わなかったんだ?」
白洛因もイライラしていた。
「もう覚えてない。」
「覚えてない?もう終わったとでも思ったのか?」
顧海は厳しく言った。
「お前が言うまでに、もう300マイル以上西に進んでるんだ。300マイル以上進むために使う燃料がどれくらいか知ってるか?それでどれだけ飯を食えるか知ってるか?薪、米、油、塩がどれだけ高価なのかも分からず10日も無駄にしたのか!」
白洛因は何も言わず、斜め45度下の顧海のズボンのジッパーをじっと見つめていた。
「俺はお前に言ってるんだ!聞いてるのか?」
顧海は白洛因の頭を掴んで上を向かせると、いじめっ子の顔が彼を威嚇した。
白洛因はその笑顔が苦しくなり、心に傷を負った。
顧海は大袈裟に再び叫んだ。
「笑うな!真剣に考えろ!」
白洛因が大声で笑うと、顧海も怒りながら笑った。打つために手をあげると、白洛因は直ぐに逃げて、顧海が追いかけた。白洛因が車に向かって逃げ回れば、顧海はそれを追った。結局、顧海は白洛因に追いつけないと気づき、屋根から飛び降りて白洛因を両腕に抱えた。
「お前は何を言われたいんだ?」
顧海はふらふらと呟いた。
「今まで来た道を戻るつもりか!」
「別の道を使えば、別の景色が見れるだろ。」
「暗闇の中で何が見えるんだ?しかも別の道を使えば、回り道になるだろ。」
白洛因は躊躇っていたが、しばらくすると悲しそうに言った。
「もう全部忘れて西に進もう。」
顧海は白洛因をしばらく睨みつけたあと、車のドアを手で叩いた。
「忘れて西に行こう!」
白洛因は意気揚々と微笑んだ。
2人は同じ車に乗って、出発前に何か食べることに決めた。しかしトランクに積んでいた食料は全て食べてしまっていた為、2人は大きな袋に入っている海鮮を食べた。
顧海は牛乳を取り出し、ちょうど飲もうとしていたところで、白洛因に奪われ、飲まれてしまった。
「お前は牛乳を飲むのも俺にやってもらわないと飲めないのか。」
そう言って他のを取ろうとすると、白洛因に止められた。白洛因は振り返って後ろの電気カップから暖かい牛乳を取り出し、それを顧海に渡した。
「こっちを飲め。」
顧海は固まってしまい、それを取らなかった。
白洛因は直接手に取らせた。
「何日もお腹が空いてたんだから、風邪を引かないようにしないと。」
顧海の心は、手に持っていた牛乳の様に温かくなった。
「いつそれを隠してたんだ?」
「降りる前からだから、十分温かいだろ?」
顧海が一口飲むと、まるでそれが牛乳よりもっといいものであるかのように感動していた。顧海は白洛因の頭を引き、彼の薄い唇にキスした。
「感動したよ……」
晩御飯を食べたあと、2人はホテルを見つけて、そこに一泊した。
翌日の朝、走り始め、その日の夜に青島に向かうことに決め、一時的にそこに滞在することにした。
車を運転していると、白洛因が波の音を聞いて、窓を開けると、果てしない海が広がっていた。白洛因は興奮を抑えることが出来なくなって、道路の脇に車を停車させ、浜辺まで歩いた。
顧海も車を停めて、白洛因について行った。
「……すごい。」
この短い言葉は、白洛因のこの瞬間の気分を表していた。
夜なのに波はまだ荒く、海沿いに立つと、海風が吹き、心が広くなったように感じた。
「もう行きたくない。」
白洛因は浜辺で寝そべりながら言った。
「ここに一泊して、明日の朝起きて日の出を見るんだ。」
「ベッドで横になる方が楽だぞ?」
トンネルから道に出ると、もう以前まで枕と毛布がどう見えていたのか忘れていた。
白洛因はまだここにいたい様子だった。
顧海は説得した。
「この海は良くない。青島には美しい黄金の砂浜があるぞ。明日連れてってやるから、今は俺と一緒に寝る場所を探そう。まだたくさんあるぞ!」
白洛因は顧海によって無理やり車内に引き戻された。
2枚の偽のIDカードを一時的に使用しているため、ホテルに難なく入ることが出来た。シャワーを浴びてあとは寝るだけという所で、顧洋からの電話が鳴った。
「どこ行ったんだ?」
顧海は白洛因の背中を撫でながら言った。
「青島だよ。」
「何?貴重な時間を苦労して3日間もやったのに、お前は山東に走ったのか?」
顧海は説明した。
「荷造りした日は偽のIDを作って、ナンバープレートを作った。1日はバタバタしてたから、次の日に出発して、西に向かってたが、あのバカが突然気が変わって、海のある場所に行きたいって言い出したから、その道を戻ったんだ。前にも青島になら来たことがあって慣れているし、とりあえずここにいる。」
顧洋のその時の気分が想像できるだろうか。
「兄さん、なんで何も言わないんだ?」
顧海は聞いたが、顧洋はしばらく黙り、やっと静かに話し出した。
「叔父さんはお前が居なくなったことを知ったから、捜査がまもなく開始される。特別な理由なしにあまり走り回るな。本当に移動できなくなるぞ。」
顧海は慎重に答えた。
「分かってる。」
「白洛因は?」
顧洋が聞くと、顧海が脇をちらりと見たが、さっきまでここにいたはずの白洛因がいなくなっていた。
「わかった、聞かないから、後で彼の電話番号を教えてくれ。」
「あいつの電話番号を何に使うんだ?」
顧海が言い終える前に、電話を切った。
白洛因はバルコニーに行き、白漢旗に電話をかけていたらしく、ちょうど今戻ってきた。
「来い。聞きたいことがある。」
顧海は白洛因に向かって手を振ると、白洛因は顧海のそばに横たわった。
「言え!」
「お前は俺の兄さんに助けを求めたか?」
「うん。」
白洛因が頷いて答えると、顧海の顔は徐々に暗くなっていき、彼の視線は白洛因の顔に固定されていた。
「兄さんはお前を困らせたか?」
「困らせる?」
白洛因は考えてるふりをした。
「困らせるって、例えば?」
「例えば……厳しい条件を出したとか。」
白洛因は驚いた。
どうしてこんなに顧海は顧洋のことを分かってるんだ?
「どうして?」
白洛因はさりげなく微笑んだ。
「あの人はお前の兄なんだから、助けるのに俺に条件を出す必要なんてないだろ?」
「本当に?」
顧海が再び確認しても、白洛因はしっかりと首を横に振った。
「本当だよ。お前の状況を説明したら、すぐ同意してくれた。」
「嘘だろ!」
顧海はベッドを叩くと、白洛因の心は不安になってきた。
嘘がバレてるのか?
その後、顧海は暗い顔で言った。
「兄さんはお前を違った扱いするな!あいつに助けを求めればあいつはいつだって条件を出すんだ。俺だって例外じゃない。なのにお前には、実際に条件を出さずに合意したんだな……」
白洛因が言葉を失っていると、顧海は嫉妬心をそのまま伝えた。
「頼むから、絶対にあいつにお前の電話番号を教えるなよ!」
「なんであの人に俺の連絡先を教えなくちゃならないんだ?」
「それでいい。」
顧海は鼻を鳴らした。
「俺のスマホを使って連絡するのもナシだぞ!」
「だからなんで連絡しなくちゃいけないんだよ。」
顧海は満足そうに笑って、白洛因の頭まで毛布を被せた。
「寝るぞ。」
次の日、2人はフェリーに乗って黄金の砂浜へと向かっていた。
シーズンオフで観光客も少なく、海はこれまで以上に澄んでいた。砂は綺麗で細かく、白洛因が砂浜に足を踏み入れると、綿を踏むような柔らかさだった。顧海が昨日言っていたことは正しく、この海は昨日見た海より本当に美しい。
2人は静かな場所で座っていると、白洛因が手を伸ばして、小さな貝殻に触れると、顧海の目の前で振った。すると海へ飛んで行ってしまい、小さな波を立てた。
「あー!!!」
白洛因が突然叫ぶと、心が軽くなった。周りの人は白洛因を見たが、どうせ自分は知らない人だからどうでもよかった。