第195話 襲撃

2人が青島に来てから、あっという間に2週間経っていた。泊まっていたホテルもやめ、部屋を借りるようになった。節約できるし、頻繁に外に出ることも避けられる。昼間は猫が部屋にいながら宿題を見て、夜はビーチで散歩する。そんな楽しい日々を送っていた。

「誰かノックしてないか。」
白洛因が首を伸ばしてドアを見ると、顧海が立ち上がってドアを開けた。
「こんにちは。宅急便のお届けです。サインを頂けますか?」

顧海の顔が沈んだ。それは言うまでもなく、白洛因が注文した本だった。ここ数日、白洛因は教科書から参考書、ノートまでネットで100冊近く購入しており、宅配便が毎日来て、それに顧海は毎日サインしている。白洛因は顧海の為にそれらを買い、勉強をさせるので、顧海は宅急便が来る度に追い出したくなった。

「なんでまた本を買ったんだ?」
顧海の顔は歪んでいた。
「他のもの買えよ。」

「何を買うんだ?何もいらないだろ。」

「足りないものがあるだろ?」
顧海はライターを弄った。
「ゴムはあと何箱だ?」

「一箱……」

「昨日ネットで沢山の大人のおもちゃを見てたんだ。使ったことの無い面白そうなものもあった。気になるだろ?あれで俺たちの生活の質がもっと上がるんだ。なのにお前が買ったものは……本!なんでだよ!」

顧海は嫌そうに本を手に取って床に投げつけた。

白洛因はちらっと顧海を見た。
「立て。」

顧海は白洛因を3秒見つめていたが、白洛因は数える間もなく自ら本を手に取った。

白洛因は顧海に尋ねた。
「2日前に渡した本は読み終えたか?」

「読み終わったよ。」

白洛因は品定めするように顧海を見ると、顧海は明らかに嘘をついていなかった。

「確認してみろよ。」

顧海は白洛因に本を渡し、それを白洛因が見ると、確かに全て終わっていた。解答は白洛因に奪われていたし、問題は全て顧海によって解かれている。本当に顧海がやったのか確認するために、白洛因がもう一度確認すると、落書きもしていないし、本当にちゃんとやっていた。

「どうだ?嘘じゃないだろ?」
顧海は本を取り戻すために手を伸ばした。

白洛因は突然手を引いてカバーを取ると、本の厚さがおかしいことに気がついた。本を開き、ページ数を見ると突然怒り出した。
ーこいつ!1ページおき、1ページおきに無くなってるじゃないか!

顧海はバレたことに気づき、他の部屋へと逃げると、白洛因も追いかけて、ついにバスルームで顧海を見つけた。白洛因はドアの後ろに置いてあるモップを手に取って、顧海の体を叩いた。顧海は至る所を打たれ、小さくまるまって逃げて、懇願した。

「打たないでくれよ、ベイビー。俺がいなくなったら誰がお前を世話するんだ?」

「お前に世話される必要なんてない。1人で生活ぐらいできる。」

顧海は白洛因を壁に押し付けて、下半身に存在する巨人を白洛因に卑猥に擦り付けた。白洛因がまだ怒鳴りそうなのを察して、顧海は白洛因の耳たぶを噛んだ。
「これがなくなったら、誰がお前を世話するんだァ?お前の手が触れなければ、半分にもならないんだぞ?」

続けようとすると、顧海を止める音が聞こえてきた。

「電話鳴ってないか?」

顧海が聞いて、白洛因は注意深く耳を澄ませると、顧海の電話が鳴っているようだった。掴んでいた手を離して、2人はバスルームから出た。

電話は顧洋からで、電話に出ると"兄弟"と呼ばれた。

「青島に着いたんだが、どこに住んでるんだ?」

「えっと……」
顧海は驚いた。
「なんで青島にいるんだ?」

「叔父さんにお前を捕まえてこいと言われたんだ!」

顧海が鼻を鳴らした。
「父さんは共犯者に俺を探せと言ったのか!」

白洛因はスマホを手に取り、最近の通話履歴を見て、あることに気がついた。

「分かった。迎えに行くよ。」

「待ってる。」

スマホを置くと、顧海は白洛因に向かって言った。
「父さんは俺たちが青島にいると分かって、兄さんを送ったんだ。あいつの脳みそは泡で出来てるのか?」

「顧洋が共犯だって分かったのか?」

「違うだろ?なんで父さんの味方なのに俺たちを助けるんだよ。」

白洛因の顔が変わった。
「まだ警戒しとけよ。」

「あぁ、分かってるよ。行ってくるな。」

顧海が去った時、丁度白洛因へ白漢旗から電話が来た。

「父さん……」

「息子よ!」
白漢旗は心の底から笑っている。

「ここ最近、顧海のお父さんはそっちに行ったか?」

「来てないさ!」
白漢旗はいつも通り穏やかな口調で言った。
「2人が行ってから、彼らも、母さんも一度も来てないよ。」

白漢旗の心の軽さに比例して、白洛因の心は暗くなっていった。

「父さん、電話番号を変える必要があるかもしれない。」

白漢旗の呼吸が深刻になった。
「息子よ、なにがあったんだ?どうしたんだ?」

「なんでもないよ。」
白洛因は安心させようと言った。
「大丈夫なんだけど、念の為に!」

「心配するな、何があったって父さんはお前を守るぞ!」

白洛因の心は酸っぱくなった。

「そうだ、息子よ、父さんはこないだいいことを聞いたんだ。2日前に先生から電話があってな、学校がお前を大学推薦するって言ってたぞ!だから心配しないで、外でゆっくり休みなさい。」

白洛因は僅かに眉をひそめた。
「2つもテストがあった間、一度も学校に行ってないのに、どうして推薦を?」

「私も知らん!」
白漢旗は大声で笑った。
「お前が去った日に学校に行ったんだが、先生は生徒も誰も来ないって言ってたぞ。それで昨日電話したら、お前は推薦条件が満たされてるって言って、推薦生徒のリストが送られてきたんだ。」

白洛因は困惑した。

「息子よ、顧さんには伝えておくから、早く帰ってきなさい!私たちは先祖が沢山居るが、清華大学に行けるのなんてお前しかいないぞ!そうだ、親戚や友人を呼んでお祝いもしよう!」

「わかった、わかったから父さん。電話番号変えるの忘れないようにな。」

スマホを置くと、白洛因は机を指で叩いていたが、突然指が止まり、目の下に打ち寄せられる巨大な波を感じた。急いでスマホを取り、顧海に電話した。

「大海、お兄さんに合わず今すぐ帰ってこい!」

顧海は驚いた。
「どうしたんだ?もうホテルの前についたよ。」

「どうでもいいから、早く帰ってこい!」

顧海は白洛因に何かが起こったんだと思い、急いで帰ろうと振り向くと、突然背後に気配を感じて、大きな一歩を踏み出し、攻撃しようと後ろに立っていた男から逃げた。顧海は帽子のつばを下げて、サングラスをかけていたから一見すると不審者のようだったが、いざ戦ってみると、やはり顧海だと確信した。

彼はカンフーの習得者であり、顧海は何度か共に訓練をしたことがあったが、以前とは全く違うようだった。彼は自分が傷つくことを恐れておらず、彼の目的は顧海を征服することただ一つだ。

勝てないと踏むと、襲撃者は頭を下げて言った。
「街の角にある、汇都ホテル

顧海は彼が胸元に武器を隠し持っていると気づき、蹴って逃げた。顧海は待ち伏せする者が居ないようにと運に願って、西へ走った。

急いでいると、顧海を追う足音が、2つから数えきれない程に増えた。顧海はこのままではいけないと分かりながらも、走る他なく、耐えられる限り走り続けなければならない。

顧海は賑やかな商店街へ行き、群衆の中を走りショッピングモールに入った。3階のスタッフルームへと逃げ、窓からモールの後ろの小さな路地に飛び降りた。

顧海が呼吸を整えるために立ち止まると、たまたまそばに立っている少年を見つけた。

「兄ちゃん、今俺は借金取りに追われてるから、代わりに俺の服と帽子を被ってあっちへ走ってくれないか。心配するな、彼らは直ぐに君が本人じゃないと気づく。」

少年は恐怖で青ざめながら、何度も手を振った。
「できない、できないよ……」

顧海は服を少年に向けて、その服のポケットの中に数枚のお札を入れた。
「俺は君を信じてるから、この金を全て君にやる。けどもし、それでも俺を助けないのなら、俺から逃げろ。どっちにするか、お前が選べ!」

顧海が少年の肩を掴むと、少年の顔が真っ青になった。

結局、不運な少年は顧海の服を着て、北へ向かって走った。

「見ろ!あそこにいたぞ!追いかけろ!」

顧海は焦り、隣を見ると車があった。急いで車に向かうと、何かを探してしゃがみこんでいる美しい女性がいたので、彼女を壁に押し付けてキスをした。

顧海の後ろを、沢山の人が走りながら過ぎ去った。

声が聞こえなくなると、顧海は美女から手を離した。その唇の柔らかさもら甘い香りもまだ残っている。美女はそのハンサムな男の頬を平手打ちしてやろうと考えていると、顧海が恥ずかしそうに微笑んだ。
「ごめんなさい。あなたがあまりにも美しかったので、我慢できませんでした。」

美女からそんな考えは吹っ飛んで、怒っているどころか、顧海に微笑みかけた。

顧海はやっと追っ手を撒くことに成功した!

屋根の上にいる狙撃手は、顧海のふくらはぎを狙いながら、冷笑していた。狙いが外れないように、しっかりと片手で支えた。

そして、引き金を引いた。

顧海が去ろうとしていると、突然足に鋭い痛みを感じ、歯を食いしばって険しい表情をした。

これは普通の弾丸ではなく、殺傷能力はないが、痛みは通常通りである。痛みが来ればその後に麻痺し、すぐに足の感覚を失う。顧海は足を動かすことが出来ないと気づくと同時に、さっきの追っ手が戻ってきた。

顧海は死を覚悟したが、美女が彼を生き返らせた。

「なぜそんな険しい顔をしているの?体は大丈夫?家に帰らないで、病院に行きましょう!」

「これはあなたの車?」
顧海が聞くと、美女が笑った。
「当たり前でしょう?」

顧海は後部座席のドアを開け、美女を乱暴に押し込むと、自分は運転席に座って道に向かって急いでアクセルを踏んだ。

車が疾走すると、追っ手は標的が逃げたことに気づいた。