第196話 2人の少年

顧海はもう追っ手が辿り着けない所まで運転し、美女は後ろで静かに座っている。顧海はもう安全だと確信し、来た道に沿って戻ろうとした。

「前の信号で引き返すのよ。」

美女は突然口を開き、顧海は後ろに座っている存在に気づいて感謝した。

「俺は追われていたから、もしあなたが現れていな
ければ逃げられませんでしたよ。」
顧海は口角を上げて笑顔を作った。

美女は柔らかい声で言った。
「見てたわよ。」

顧海はそれを聞いて驚いた。
「見てたんですか?」

「あなたが私にキスする前から、困ってるのは知ってたわ。」

この女性は美しく、若いのに高級車を持っていて、ライフスタイルも大胆だと思った。

「俺があなたを攫うとは思わないんですか?」
顧海が試すように言うと、美女は笑いながら落ち着いた雰囲気で言った。
「あなたはそんなことする人じゃないわ。」

「どうしてわかるんですか?」
顧海が後ろを向くと、美女は頷いた。
「直感」

顧海はもう話すのをやめて、お礼に燃料を入れる為にガソリンスタンドを探したが、ポケットに触れてお金が無いのに気づき、申し訳なさを感じた。

「北京の人?」

「はい。」

「やっぱり!あなたの喋り方はそうよね。旅行に来たの?それとも親戚に会いに?」

「親戚に会いに。あなたは現地の方ですか?」

「両親が青島に居て、私は北京で生活してるわ。ねぇ、あなたも学生?20歳には見えない。」

顧海は笑った。
「そう言われたの初めてです。妻はいつも老けてると言ってきますから。」

美女は驚いた。
「あなた、奥さんがいるの?」

「はい、最近結婚したんです!」

美女は黙った。
借りた家の遠くで、顧海は車を止めて最後に感謝を伝えた。

美女は主導権を握っている。
「これ私の電話番号だから、電話して。」

「すぐに番号を変えてしまうので、役に立ちませんよ。」
顧海は車のドアを開けて降りた。

美女は車から降りた顧海を見つめて、目には少し違う種類の水が溜まっていた。

「私はあなたを助けたんだから、あなたも私に番号を教えるべきじゃない?ガソリン代請求してないんだし。」
美女はからかうように言った。

顧海の足は止まることなく急いでいたので、美女はからかうのをやめた。

「どうせ番号を教えてもすぐに変えるので。」

美女はもう恥ずかしさを感じなくなり、「さようなら」と手を振った。

そう言うと、香水を取り出して、顧海の背中へかけた。

顧海はいつもと違う香りがして不思議に思い、腕を上げて服の匂いを嗅いだ。

なんでこんなに臭いんだ?
なんのために彼女は俺に香水をかけたんだ?
……そんなことより、急いで帰らないと!


白洛因は顧海と連絡を取れなかったため、しょうがなく顧洋に電話すると、顧洋は顧海が約束を守らなかったと言った。白洛因は顧洋に今の状況を伝えると、顧洋はすぐに理解し、白洛因に家から出るなと言った。電話を切ったあと、白洛因は部屋でずっと座って待っていた。

すると、ドアをノックする音が聞こえた。

白洛因がドアを開けると、顧海が険しい顔でドアの前に立っていた。

「どうしたんだ?」
白洛因は急いで中に入れた。

実際、顧海のふくらはぎの傷はもうほとんど治っていたが、白洛因に心配されたくて、わざと痛いふりをした。顧海の腕を白洛因の肩にかけて、部屋へ入ると足は血まみれになっていた。

「なにがあったんだ?」
白洛因は聞いた。

顧海は何が起こったのかを白洛因に伝えたが、美女の事は若者だと伝えた。元々この話は悲劇だったが、顧海の語る顔の信憑性の無さから、白洛因は同情を示さなかっただけでなく、その顔は疑問に満ちていた。

「映画でも撮ってたのか?」

「本当だって!」
顧海は弁明した。
「本当に追われたんだよ!足の傷を見ても信じないのか!」

そう言うとズボンを捲りあげて足を見せたが、足には数本の毛しかなかった。

白洛因は特にそういったことに敏感ではなかったが、あまりにも香水の匂いが強くて、香水の存在に気がついた。ドアを開けた瞬間にもその香りを嗅いだが、廊下の香りだと思っていたのだが、しかしそうではなく、誰かの服から香るものだと気づい。

皮肉めいた言い方で白洛因は怒った。
「ギャングは香水をつけるのか!」

顧海は一瞬固まり、美女が香水をかけてきた目的に気がついた。
ーくそ、女ってどうしてこんなことするんだ!

「あぁ、それは香水じゃなくて家の匂いだ。俺の兄弟は派手なものが好きだろ。あいつは色々入ってるやつを買ってて、確かテーマはロマンチックな花言葉だったような……」

「ホテルには行ってないって言ってなかったか?」
白洛因は顧海のベラベラと止まらない嘘を止めた。

顧海は驚いた素振りを見せた。
「俺そんなこと言ったか?」

「くだらないな!」
白洛因の目は既に冷めていた。

顧海はすぐに言い訳した。
「そんなことより、俺の足は撃たれたんだぞ?なのになんで傷跡が無いんだ?つまりだ、その香りは弾丸から発せられてるんだよ。」

白洛因は冷笑した。
「もう一人で生きる!」

そう言うとどこかに行こうとしたので、顧海は白洛因を掴んだ。

「出てけ!」
白洛因は怒鳴った。

「なんでこんなに愛してるのを分かってくれないんだ?たまたま女性に会って乗れって言ってくれただけだろ!」

白洛因の顔はとても暗かった。

顧海は彼が何を言おうとしているのかがすぐに分かった。

白洛因は寝室へ行くと、地球が揺れる程強い力でドアを閉めた。


寝る時間になっても、寝室のドアはまだしっかりと閉められており、ソファに座る顧海は考えるほどおかしく感じた。

なんで今日はこんなことになったんだ?
誰も助けてくれなければ、今頃北京に連れ帰られていただろうし、お前だけになれば、誰がお前を助けるんだ!
なんで幸せなはずのにこんな間違えをするんだ?
俺が傷つく前に、どうやって命の半分を失いかけたのか知らないよな?

くそ!

白洛因のスマホを拾うと、顧洋の番号を見つけて電話した。

「おい!なんで北京にいないでここにいるんだ?父さんが助けを求めたらただ助けるのか?なんで拒絶しなかったんだ?」

顧洋は3文字だけ返した。
「病気か?」

「今日お前がしたことを見てみろ!こっちに来ればよかったのに、なんで俺を呼んだんだ?」

電話を切ると、顧海はまだイライラしていた。突然何かを思い出し、スマホを見て激怒した。

「白洛因、今すぐここから出てけ!」

ドアを蹴った。

しかし何も反応がなく、顧海はもう一度蹴った。

「まだそんな態度ができるのか!!出てこい!!話さなきゃいけないことがあるだろ!!」

「話すことなんてない!」

顧海はくらい顔で白洛因のスマホを持ち上げて怒鳴った。
「なんで兄さんの電話番号を知ってるんだ?」

「一度電話したから。お兄さんは俺の番号を知らないだろ?」

「なんて電話したんだ?」
顧海はさっきより大きな声で怒鳴った。

白洛因も負けじと怒鳴る。
「お前が電話に出なかったからだろ?」

「だからなんだ!」
顧海は未だに許していない。
「アドレス帳を全て消したのに、どうやって兄さんの電話番号を知ったんだ?」

「覚えられないのか?」

顧海はその言葉の一言一言の意味について尋ねた。
「兄さんの電話番号を覚えたのか?」

「あぁ!」
白洛因は目を真っ赤にして怒っている。
「お前がアメリカに行っていた半月間、ずっとその番号を見つめていれば、忘れるわけないだろう?」

家の中は沈黙に包まれ、顧海の横暴さは少し飲み込まれた。白洛因が去ろうとすると、顧海は白洛因を腕の中に引きずり込んだ。白洛因は顧海の服を強く引っ張って逃げようとしたが、その度に顧海が抱き締める力を強くして、決して離そうとしなかったんだ。

しばらくして、顧海は乱暴そうに口を開いたが、優しさを隠しきれなかった。

「怒るなって。」

白洛因はこれを聞いてさらに怒り、しかも香りがした。
ー叫んだ挙句に、俺に怒るなと言うのか!?

「確かに美女を若者だって嘘ついたよ。本当のこと言ったらお前が怒るんじゃないかと思って。」

顧海は誠実に弁明すると、白洛因は歯を食いしばった。
「本気で俺のためだと思ってるのか?」

顧海は白洛因の背中を優しく撫でながら、囁いた。
「怒るなって。今は一緒に戦わなきゃいけないんだから、俺らが争ってちゃだめだろ?」

白洛因は淡々と尋ねた。
「最初にこうなったのは誰のせいだ?」

「俺、俺だよ。」

「もうしないな?」

顧海は頷いた。
「絶対にしない。」

白洛因がニヤリと笑った。
「もう覚えたからな。次やったら、本当にズボンを剥ぐからな。」

顧海は顔を引きしめて、混乱した振りをした。
「忘れないのか?」

「こんなこと忘れられるわけないだろう?誰かがお前を殺そうとしたんだから!」

「どうせ間違って覚えるよ。」
顧海は冷笑した。

「小海、今日お前は自分の罪を正直に認めるんだ!!」