第197話 待ち伏せ
その日、顧海と白洛因は電話番号を変え、白漢旗も息子と話すためにカードを変えた。2人は1週間、特別な事情がない限り外出しないよう慎重に行動し、1週間経つと顧洋に会うことに決めた。
3人は隠れた店で会い、食べながら話した。
「髪切れよ。」
顧洋がそう言うと、顧海は自分の髪に触れて大声で言った。
「なんでだ?まだ短いだろ!」
「白洛因に言ってるんだ。」
白洛因は頭を上げて、ぼんやりと「あぁ」と言った。
顧洋の不可解な忠告が部屋の雰囲気を暗くした。顧海は白洛因の頭に触り、2回軽く撫でると故意に顧洋に言った。
「別に長くも短くもないんだから、今のままでいいだろ。」
白洛因は横目で顧海を見たが、何も言わなかった。
「次はどこに行くんだ?」
顧洋が問うと、顧海は少し考えてから言った。
「雲南省かチベットか、どっか離れたところに行くよ」
「いつ出発する?」
「年が明けたら。1年前ぐらい前、冬に行った時は寒くて仕方なかったから。ここなら北京ほど寒くもないし、冬に最適だろ。」
そう顧海が言うと、顧洋が無言で白洛因を見つめた。
「新年をここで過ごすつもりか?」
顧海は白洛因の肩に腕を回して、元気に言った。
「新年だったらダメなのか?そんなの一緒に過ごす人次第だろ。去年は会えなかったから、今年はそれの埋め合わせをしないと。」
「なんで去年、会えなかったんだ?」
顧洋は何気なく尋ねた。
白洛因と顧海は視線を合わせ、去年の旧正月の痛みを思い出し、口を閉ざした。
当然、顧洋もなにも問わなかった。
しばらく話していると、顧海が突然言った。
「トイレ行ってくる。」
白洛因と顧洋だけが残り、白洛因が箸を置くと、静かに顧洋を見た。
顧洋の冷たい顔に傲慢で未だ冷たさの残る笑顔が表れた。
「俺を見つめてどうしたんだ?」
白洛因の薄い唇が動いた。
「俺の推薦について、学校と組みましたね?」
顧洋は冷笑した。
「自意識過剰だよ。」
白洛因は先程よりも冷たい視線で見た。
「そう願いますよ。」
「その髪型、お前に似合ってないぞ。」
顧洋は再び髪型について言った。
「似合ってないかなんて、人によって違うでしょう。」
顧洋が突然手を伸ばすと、彼の手の甲は白洛因の頬を滑った。
「お前の顔は特徴はないが綺麗だ。顧海と美的センスが同等なら、お前の顔はハンサムな男の顔で留まるぞ。勿体ないな。」
白洛因は顧洋の手を取り、淡々と振り払った。
「あなたの美的センスは高いですけど、俺には関係ないです。」
顧洋はワインを一口飲むと、笑顔で白洛因に言った。
「俺は本当にお前が好きみたいだ。」
「ゆっくりと発展すればいいですね。」
2人が楽しく会話をしていると、突然ドアが開き、武器を装備した5、6人の男達が白洛因と顧洋を囲んだ。
「動くな!」
この状況は死に値し、白洛因と顧洋は目を合わせると、その後、男たちを見た。
「どこの者だ?」
顧洋は冷静に尋ねた。
「顧長官はあなたを無駄に信頼しています。あなたが報告していないのすら知っているんですよ!」
「あの人は俺を信頼してるのか?」
顧洋は冷笑した。
「どうやってここに来たんだ?」
男たちは顔を見合せたが、その手には未だ銃がしっかりと保持されている。
「顧大公子、無駄な話はやめてください。彼らを渡してくれれば、私たちだって早く仕事に戻れるんです。」
顧洋は目を細めて目を凝らし、静かに尋ねた。
「誰を渡して欲しいんだ?」
「馬鹿にしないでください!」
不機嫌そうな男が怒鳴った。
「私たちは彼が入ってくるのを見ているんです。」
「それで?」
顧洋は手を挙げた。
「ならあいつがどこにいるのか教えてくれるか?」
男たちの主任が命令を下した。
「探せ!見つけられなかった場合、彼らを連れて行くぞ!」
そう言うと4、5人が分かれて、人が隠れられる場所全てを探した。男の1人が床を蹴り、秘密の道があるかを確認した。
白洛因は思わず笑った。
ー秘密の道がどこにでもあると思ってるのか?
残るはトイレだけで、男がドアハンドルを握ると、開けることが出来ないのに気づいた。
「中にいるぞ!」
その叫び声を聞くと、4人はドアを乗り越え、2人が蹴り、残りの3人は後ろを守った。しばらくしてドアが開き、2人の男が侵入しようとすると、突然人の壁に当たり、後ろにいた3人の方まで飛んで行った。
少なくともその狭い場所に10人は居り、彼らは厳しい表情で目を合わせた。
くそ!待ち伏せか!
何人かは撤退しようとしたが、反対側には多くの人が居て、既に手遅れであり、すぐに彼らは鎮圧されてしまった。
「顧大公子、ただ漠然と長官を挑発したって意味ありませんよ。私の太ももを捻じることも出来ない。この現実を理解してますか?」
「理解できないからどうしようもないな。」
顧洋は10人以上も居る男たちに目を向けた。
「閉じ込めてみろ。どうせ通信機器は没収されてるから、誰かが長官に連絡すれば、お前らも早く休めるだろう。」
男たちの主任が怒鳴った。
「顧大公子、あなたの将来の為になにが正しいのか分かってるでしょう!」
顧洋は冷笑した。
「俺の将来があるかどうかは知らないが、間違いなくお前らには無いだろうな!」
「あなたは私たちを過小評価しすぎだ!」
主任の目は鋭い。
「外を見てみてくださいよ!」
そう言うと、パッと見ただけでも20人以上が侵入してきた。幸い、顧洋が予約していた部屋は大きかったから良かったものの、そうでなければ全員入れていなかっただろう。誰もが背が高く、完璧に装備しており、顧威霆がたった1人でこれほどの警察をどう用意したのか、想像するのが難しかった。
彼らが入ってくると、落ち込んでいた5人はすぐに自信がついたようだった。
「顧大公子、見てくださいよ!」
男たちの主任は再びそう言った。
顧洋はこの光景を見て、心配そうな表情が表れた。
「俺だってあいつを渡したいさ。しかしここにあいつは居ないんだ!」
対立や行き詰まりに関わらず、数人の表情はまるで最初から顧海なんて見ていなかったかのように変化した。
「彼が居なくったって、あなた達を連れていくだけです!」
4、5人が顧洋と白洛因の元まで歩いたが、顧洋も白洛因も未だに冗談を話している。
「しかし、20人以上もトイレに閉じ込められているのに、いいのか?」
「窒息しますね。」
白洛因は冷笑した。
男たちの主任から怒鳴り声が響いた。
「なにをしてるんだ?急げ!」
音が鳴ると、主任の耳元を弾丸が掠り、そのまま壁に突き刺さった。
これは本物の弾丸だ。
主任の顔が突然変化した。
同時に顧海が部屋に入り、その手には銃が握られている。
「テロリスト、全員逮捕だ!」
突然窓に1#丁の銃が立てられ、その銃口は揺れ動き、反射光が部屋の中にいる者を照らした。足に撃たれると、壁に寄りかかり、主任は怒って叫んだ。
顧海は彼に銃口を向けた。
「お前が連れてきた20人の内、誰一人として本物の弾丸が込められてないな。だが申し訳ないが、俺はそこまで親切じゃないから俺の手にある弾丸は全て本物だ。」
そう言って撃つと、主任は瞬時に反応し地面に転がった。当たらなかったが、この部屋に居る20人以上の心は冷めている。彼らのうち1人が死ぬのは蟻を踏みつけた様なものだったが、3人は違い、家族を葬式に呼ばないように銃を手に取ることも無く、逃げるつもりであった。
ーこんなヤツらに、誰がついて行くというんだ?
顧海は部屋の真ん中に立ち、横暴に言った。
「外に15丁あるのが見えるか。お前らには15秒やる。15秒以内にトイレに逃げれば安全だ。しかし15秒が経過しても入らないやつには、血の雨が降るぞ!」
その言葉を聞くと、トイレにいた十数人はスペースを開けて、何人かが入れるようにした。
一般人であれば、彼らは我先にとトイレへ逃げて、人が入りきれなくなり、ドアが破裂するだろう。しかし彼らは軍人であり、誰も争うことはなく、静かに入って行った。しかし、主任と狙撃手は動かず、残りわずか数秒になると、突然白洛因が狙撃手の銃を奪い、彼に数段発砲した。
殺しはしないが、この機会に顧海の恨みを!
狙撃手は痛みを感じて地面に転がった。
主任は怖気付き、赤い目をさせながらトイレへと逃げた。
十数人が彼らすべての通信機器を略奪し、顧洋は彼らのことをちらっと見て言った。
「安心しろ、誰かが代わりに長官に連絡してくれるさ。」
顧海は口角を上げた。
「今年は戻らないで、ここで一緒に年を越せるな!」
白洛因は十数人を見て、軽く言った。
「この人の所へ行けば、一日三食、夜には毛布も支給されて楽しく暮らせますよ!」
「心配するな。そんなことするわけが無い。」
その後、3人は笑って話しながら去って行った。