第198話 顧威霆の監視

白洛因が去ってから、白漢旗は必死に来ないようにと熱望していたが、ついに顧威霆が来てしまった。

顧威霆が白家の小さな中庭に足を踏み入れると、邹叔母さんと白漢旗はキッチンで忙しそうにしており、煙突から白い煙が立ち上るのほど、中には全体に肉のにおいが漂っていた。おじいちゃんは東の角にボトルを詰め、おばちゃんは寒いのを嫌がり、家の中でテレビを見ていた。

随分と背の高くなった孟通は、少しの間、庭で木の周りを数周入った後、誰かが入ってるのを見て、習慣的にポケットの中の小さな四角い箱を取り出し、顧威霆の足を強く叩いた。

パンっ!

爆竹の音が顧威霆の耳で爆発した。

顧威霆が孟通を見ると、小さな手が小さな口を覆って楽しそうに笑っている。

「孟通、またイタズラしたの!」
邹叔母さんがキッチンから頭をつついた。

孟通は顧威霆の鬼のような顔を見ると、飛び跳ねて遠くまで逃げて行った。

白漢旗は大きな白いエプロンを着て、キッチンから出てくると、とてつもなく混乱した。

「顧さん、来たんですね。」
窮屈そうに微笑むと、白漢旗はエプロンを脱いで顧威霆を家の中へ入れた。

白漢旗は顧威霆にお茶を出しながら、丁寧に言った。
「慣れてないので美味しくないと思いますが、宜しければ飲んでください。」

顧威霆は部屋の中をちらりと見た。そこからは家全体を一望でき、壁は塗り替えられており、ソファもテレビも新しいものだったが、家の古さをカバーすることは出来ていなかった。

白漢旗が先に口を開いた。
「顧さん、お忙しくはないんですか?」

顧威霆はキッパリと答えた。
「大丈夫だ。」

それから白漢旗は言うことが見つからず、顧威霆が息子の居場所を尋ねるのを待っていたが、顧威霆も全く口を開かなかった。何も起こらない空間に座っていると、白漢旗の罪悪感は言うまでもなく、良心のある人々でさえ、彼の圧に迫られる。

顧威霆はドアを開け、孟通の部屋へ入ると、白漢旗もついて行った。

「因子と大海は毎週末、家へ帰ってきてここで寝るので、孟通は私たちと寝ているんです。」
白洛因は何か言わなければと思って話していた。

顧威霆は頭を向け、非常に奇妙なダブルベッドを見て、疑いの目をした。

白漢旗はぎこちなく微笑んだ。
「この部屋は元々ベッドがひとつしか無くって、大海がここに住んでいた間は、因子と同じベットで寝ていたんです。ひとつのベッドで寝かせるのは可哀想だから、大海にもベッドを買ってやったんです。大海はそんなの要らないと言ってたんですが、2日後にはこうなってましたよ。」

顧威霆はシーツを上げて、2つのベッドの間に頑丈に打たれた釘を見つけた。

「私がもう少し警戒していれば、こんな風にはならなかったかも知れません。」
白漢旗がため息をつきながらそう言うと、顧威霆の顔が変わり、白洛因は心配そうな目をしながら部屋から出て行った。

父親2人は外に座って話していたが、それはお喋りではなく、部下から上司への報告のようだった。

「本当のことをいえば、大海はいい子ですし女の子であればすぐに結婚させていたでしょう。彼があなたの息子だとは知らなかったし、私達も因子も、ただの貧しい子供だと思っていたんです。彼がここに住んでいた時、なんでも手伝ってくれました。屋根が壊れれば治してくれました。浴室だって、彼が作るようお願いしてくれました。彼は密かに様々なことを他にもしてくれた。……率直に言ってそうやって彼と過ごしていたが、今は考えてみてもどうしようもない。」

顧威霆は白漢旗が語った人物が、自分の息子ではないと思っていた。しかし白漢旗の口から語られるのは、全て本当のようである。白漢旗に目を向けて、やっと口を開いた。

「私のことは嫌いか?」

白漢旗は驚いた。
「嫌い?なぜ私があなたを嫌うんですか?」

「私を憎んでないのか?」
顧威霆の目は濡れているようだ。
「私はあなたの妻を盗んだんだ。」

「えっと……そうか、忘れてた!今姜圆はあなたの妻でしたね!?」

顧威霆は何も話さず、再び庭を散歩していると、孟通はおもちゃの銃を持って走り回っている。白漢旗はその銃を指さして言った。
「あの子のおもちゃは大海が買ってくれたんです。」

杨猛は"大海"と聞くと、急いで白漢旗の元に走ってきて、腰を掴んで尋ねた。
「いつ顧海兄ちゃん来るの?もう何日も会ってないよ。」

顧威霆は孟通の期待している眼差しを見て、この名前も分からない子供が、自分よりも息子と親密だと感じた。

「帰る。」
顧威霆ら足を上げて、ドアに向かって歩いた。

白漢旗は驚いた。
ー帰る?そのまま帰るのか?何も尋ねずに?

白漢旗は玄関に軍用車両が停車されており、運転手が厚いコートを着て外で待っているのを見た。顧威霆を見ると、運転手は急いでドアを開けた。

「顧さん」
白漢旗は大きな声で呼んだ。

顧威霆は足を止めて振り向くと、白漢旗を見た。
「どうした?」

「なにか聞かないんですか?」
白漢旗はまだそれを忘れていないと、顧威霆は冷笑した。
「私が尋ねれば、教えてくれるのか?」

白漢旗が唾を飲み驚いていると、突然邹叔母さんが出てきて顧威霆の手に何かを握らせた。
「顧さん、新年は自家製の糖瓜を食べるんです。」

顧威霆の口調が少し柔らかくなった。
「ありがとう、また来年。」

そう言うと、運転手と共に車に乗って去って行った。

顧威霆が車の中で糖瓜を食べると、甘くてサクサクで、本当に美味しかった。

運転手が元気よく言った。
「何年も食べてませんよ。」

顧威霆はそれに対して何も答えられなかった。
普通の年越しを何年してないんだ?

「長官、電話ですよ。」

顧威霆が電話に出ると、山東に送られた主任からであった。

ほんの数日で、20人以上の男たちはもう人間のようには見えなかった。一日中こんな狭い空間で座るか横になり、飲食している。最も辛いのは外と連絡が取れないことで、外で爆竹の音が聞こえるだけで、家族が恋しくなっていた。

顧海が主任を引き抜いたとき、数日前のように横暴ではなく、言葉も発せられない程の表情で顧海についていた。

顧海は主任のこめかみに銃口を突きつけながら、"軍事状況"について嘘をつけと命令した。

「長官、私たちは半年ここにいますが、なんの報告も届きません。顧洋へ数人送って、24時間監視するようにしても、異常行動はありませんでした。もう2人は青島にはいないのではないでしょうか?私は大丈夫ですが、ここには3年未満の兵士もおります。しかし今年正月休暇を取ることは出来ません。……なので、長官。撤退命令を下して頂けますか。」

「全員撤退しろ。」
顧威霆は軽く言うと、主任は再度確認した。
「長官、本当ですか?撤退してよろしいですか?」

しばらく沈黙があり、主任にも緊張が走った為、口を開かなかった。

「あぁ、片付けて戻ってきなさい。」

主任は突然元気になり、頭をあげて大声で言った。
「長官、ありがとうございます!」

電話を切ると、トイレに向かって走り、叫んだ。
「お前ら!開放されたぞ!!」

まるでそれが彼らの家であるかのように顧海の視線の元、有頂天でホテルを去って行った。そして、彼らはすぐに家族と再開することが出来た。

彼らが出て行ってやっと、顧海と白洛因は呼吸ができるようになったため、食べ物を買いに出かけることにした。今夜、包囲と抑圧に対する勝利を祝わなければならない。



通りを歩く2人のイケメンに、通行人、特に女の子は自然と彼らを見ていた。

2人の女の子が顧海と白洛因を追いかけ、どっちの方がイケメンかと話し合い、人里離れた街角まで歩いた。
「ねぇ、イケメンなお兄さん!」

顧海が誰かに追われていることに気づくと、後ろから声をかけられた。突然数歩近づき、白洛因の肩に腕をかけると、女の子の目の前で露骨に白洛因の頬にキスをして見せた。2人の女の子が驚いた時、顧海は振り向いて魅力的な笑顔を見せ、そのまま肩に腕をかけたまま立ち去った。

後ろから悲鳴が聞こえたが、それが怖いのか、興奮しているのか分からなかった。



2人がコンビニに着くと、顧海は白洛因の肩を撫でた。
「外で待ってろ、タバコ買ってくる。」

コンビニは混んでいて、レジに長い列が出来ていた。

白洛因は退屈そうに外で待ちながら見渡していると、サンザシ飴を売っている小さな店を見つけた。

ーここでサンザシ飴が売ってるの久々に見た!
白洛因は目を輝かせ、レジで並んでいる顧海が聞いていたかは分からないが声をかけ、角を曲がって小さなお店に入った。

休日なので人が多く、地元の人や、観光客が集まっていた。サンザシ飴を買うために並ばなけばならないが、白洛因は並ぶのが嫌いで顧海に押し付けていたが、今日は仕方がない。長い間口にしていなかったため、どうしても食べたかった。


顧海がコンビニから出てくると、白洛因はいなかった。

見渡しても、白洛因の姿はない。

どちらも出かける前にスマホを置いてきてしまった為、連絡手段も無かった。

いつもであれば、離れてしまってもそのままだが、なにかある時はタクシーに乗っていた。しかし、今は特別な時期であり、少しの風が顧海を汗だくにさせた。

少し経つと、顧海は焦って白洛因を探して街を歩いた。きっと買い物しているわけでは無いだろうと思っていたのだ。顧海の考えでは白洛因は連れ去られている。だから誘拐をしそうな不審な人物のみを見ていて、店の方はちっとも見ていなかった。

白洛因が店から出た時、白洛因は顧海がどこにいるか知らなかった。

白洛因はコンビニが混雑していた為、まだ会計しているのだろうと外でサンザシ飴を食べながら待っていた。
顧海が戻ってきた時、白洛因が食べていたサンザシ飴はもう無くなっていた。