第201話 大晦日

晦日、軍事基地は静寂に覆われていて、正月の雰囲気が全く感じられない。

姜圆はため息をついた。
「去年の旧正月には息子もいたけど、今年は2人きりで過ごすのね。本当に悲しいわ。」

顧威霆は姜圆を見て、穏やかに言った。
「今年は1人にしたほうがいいか?来年一緒に過ごせば、悲しくないだろ。」

「嫌い!」
姜圆が怒鳴った。
「あの子が戻ってこないと、私は誰のために生きてるのかわからないの。」

「子供たちはどこかへ行ったが、彼らはお前のものじゃないだろう。彼らが結婚するまで、お前と新年を過ごすのは私だけだ。寂しいと感じるなら、もう1人産めばいいだろう。」

「子供が欲しいと思えば産まれるの?私は1人で出産するの?」

顧威霆は少し微笑んだ。
「手助けできるぞ。」

「あなた……」
姜圆は怒りながら笑った。
「気の毒だとは思わないの?」

「白さんとは違うからな。」

姜圆は頬を膨らませ、美しい顔は赤くなり、薄暗かった瞳が少し輝いた。

「確かに、新しい子を産むのもいいかもしれないわね。小海と洛因はまだ18歳だし、私達も歳を取りすぎてないから育てることもできる。もう1人子供がいれば、もっと人生が充実するかしら?」

「そう思うよ。」
顧威霆は僅かに眉を上げた。
「顧海はもうダメだ。もう1人いれば、希望もあるし、支えにもなるな。」

姜圆の目が光った。
「ねぇ……もし子供が出来たら、甘やかすの?それとも厳しくするの?」

「ペットの話をしてるのか?私が顧海にどう接しているか見ていないのか?」

「そんな……」
姜圆は怖くなり、その顔は青ざめていた。
「あなたは小海をペットだと思ってるの?あなたは厳しくしているけど、どんな子供だと厳しくしなければならないの?」

「とにかくあいつは忍耐力がない。私の発言に耐えることが出来ない。」

「あなたはそう言うけど、お願いされたの?」
姜圆は肌寒さを感じながらそう言うと、顧威霆が冷笑した。
「もし私のルールを守ることが出来ないのであれば、息子の必要はないだろう?そんな息子を持つことでなんの利益があるんだ?」

「なら、先天性疾患の子供は、出産後に殺すの?子供が可哀想だわ…。それなら私は女の子が欲しい。ずっと私のそばにいて、離れると泣いてしまうの。考えるだけで幸せだわ。」

「いつ母性が生まれたんだ?」
顧威霆は姜圆をちらっと見た。

姜圆はため息をついた。
「息子を殴って気がついたの。私が求めるものは理想が高すぎて、子供がいなければ無意味なの。」

顧威霆は茶碗を手に持って、ご飯を口に運んだ。

「私はちゃんとお母さんになれてるのかしら?こんな私に疲れた?」

「疲れても変わらない。問題さえ起こさなければな。」


今年最後のご飯を食べ終えると、顧威霆が姜圆に言った。
「明日から軍と共に行動しなさい。」

「軍と?」
姜圆の目は驚きを表したが、顧威霆が頷いた。
「そうだ、私と一緒に軍にいて欲しい。」


夜中、周りの家は明るく照らされていたが、姜圆は早く寝た。疲れてしまったために、ベッドに横になると、すぐに眠ってしまった。

顧威霆は眠くなかったため、窓際に1人で立ち、眉間にシワを寄せていた。
ーどうしてあんな息子が恋しいんだ?

ろくでなしの自分の息子。白さんの息子。そして爆竹で遊ぶ異常な息子。



顧海は2つの爆竹を手に取ると、白洛因はその場に居たかったが、火花が散ると耳鳴りもして2歩後退した。

鳴り終わっても、爆竹はまだ顧海の手にあり、白洛因の緊張は長引いた。

「2つやるのか?2つ持ってどうするんだ?」

顧海は得意げに言った。
「楽しいだろ?」

白洛因が鼻を鳴らした。
「これって何が楽しいんだ?あぁ、お前の股間につけるのか。」

「お前……」
顧海は怒っている。
「お前の穴に入れてやろうか?」

白洛因は毛を逆立てて、顧海を追いかけて殴った。

「殴るなよ、大晦日にこんなことするのは縁起が悪いだろ。」
顧海は白洛因の首に腕を絡めた。
「まだ花火が沢山ある。もうそろそろ12時になるから急ぐぞ!」

そう言うと、白洛因と顧海は一緒に車に向かって歩いた。

顧海はありったけの花火をトランクに詰め、手に持っているタバコは無視して急いで移動しようとした。顧海は花火を見ると興奮して落ち着くことが出来なくなっており、白洛因を引きずって走った。

白洛因はまだ何が怒っているのか分からなかったが、突然爆音が鳴り、数十発もの花火が夜空に鮮やかに咲いた。満潮では無かった為、近くで爆音が鳴り、不思議な線を描くと、何個かが白洛因の足元で爆発した。顧海の車を見ると、荒れ狂う炎を持っていて、それを投げると、空の半分が赤く染まった。

しばらくして、顧海が言った。
「幸せだな!」

「幸せだって?」
白洛因は叫んだ。
「馬鹿だから分からないのか!下がってちょっと見てみろ!何してるんだ!?急いで火を消せよ!」

顧海が白洛因を掴んだ。
「行くな、喧嘩するのは良くない。治す方が新車を買うよりいいだろ!」

白洛因は苦しんで、彼の顔はしわくちゃになった。どっちにしたって多額のお金がかかる。顧海は彼の顔を見て、仕方がないのになにを苦しんでるんだと馬鹿にした。
「俺は車を燃やせる軍人の息子なんだ。」

白洛因は歯を食いしばった。

事故のため、顧海と白洛因の爆竹解体計画は予定より早く終わり、2人が車に乗った時には、通りが活気づいていて、夜空には色とりどりの花火が咲いた。白洛因は目を輝かせて外を見た。
ーすぐに廃車にして直せば、もっと夜空が綺麗に見える!

破格で交換される運命にあるのもあるが、それらは既に支払われている。
ー勝ち取った幸せを大切にしてみないか?

白洛因が車内のディスプレイを見ると、12時59分だった。白洛因は息を止めて、時間が変わった瞬間、すばやく頭を向けた。

「「あけましておめでとう!」」

同時に口を開き、同時に晴れやかな笑顔を見せた。お互いの顔がお互いの心の後悔を全て取り除くことが出来る。

晦日を一緒に過ごしたことを、一生忘れない。



3月中旬、天候は暖かくなり、白洛因と顧海はチベットに向かった。

荷物を詰めているとき、顧海はとてもやる気がない。
「八百屋のおばさんは俺を覚えていて、買いに行く度に濡れた野菜を拭いてくれるんだ。」

白洛因はその言葉を否定した。
「買いに行ったって、おばさんは誰のだって拭いてくれるよ。」

「誰が言ったんだ?」
顧海は反論した。
「年が開ける前に買いに行った時、来年も来てねって言って玉ねぎをおまけしてくれたんだ。行かなきゃ、誰が拭いてくれるんだ?」

白洛因は顧海をちらっと見た。
「お前は一台車を燃やしたんだから、お前の孫が野菜を買うよ。」

「なんでそんなに興味無いんだ?」

興味が無いわけでも、お前のように偽善をばらまいているわけでもなく、思ったことを話してるんだ。
悲しんではいけないのか?
ここに3ヶ月以上もいて、毎日起きたら海を見に行って、窓を開けると潮風が流れ込んでくる。
今後こんなきれいな海が見える安い部屋がどこにあるんだ?



荷物をまとめると、2人はここで最後の食事をした。

この時、白洛因はさりげなく、学校について話した。
「尤其はまた北影の再試験だって。」

顧海は顔を上げて白洛因を見た。
「なんであいつに連絡したんだ?」

「違う、学校のサイトで見たんだ。誰かが北影に落ちた3人を掲示してて、尤其の名前もあった。」

「同じ名前だっただけじゃないか?」

白洛因がニヤリと笑った。
「あんな名前が他にもいるのか?」

「確かに。」
顧海は箸を動かすのを止めて、わざと言った。
「あんまりあいつに気を向けるなよ。」

「注目なんかしてなかった。けど一度俺らを殴ってから、忘れられないほどの印象が残ってるんだ。」

「お前それわざとだろ?」
顧海は顔を変えた。

白洛因はそれを当たり前のように受け止め、話題を自然に変えた。

「そう言えば聞いてなかった。お前どの大学に行くつもりなんだ?」

顧海は静かに答えた。
「どこでもいい。」

「どこでも?」
白洛因の顔は少し熱くなった。
「やる気は無いのか?」

「誰がやる気がないって言ったんだ?」
顧海は白洛因をちらっと見た。
「どの大学に行こうがそれはどうでもいい。2年後に起業してから大学に行くんだ。俺はもっと実用的なことを学びたいんだ。理論を聞かされたってつまらない。その辺の道を選ぶより、商売する方が俺にとっていいんだ。」

白洛因には全く信頼できない。
「資金はどうするんだ?」

「計画があるから資金は間違いなく準備できる。まずは小さい会社から始めて、ゆっくり大きくしていくんだ。」

「お前の手に金が入ったら2日で消えるだろ。」

「なんてこと言うんだ!まるで自制心が無いみたいだろ!」

「今までのこと覚えてないのか?」
白洛因は深く疑っている。

顧海は挑発的に眉を吊り上げて、言いたいことが顔に書いてある。
「どういう意味だ?」

「黙って食べろ!!」