第203話 愛してる

ナム湖からの帰り道、2人は八井泡温泉に行った。

ここの温泉は地下数百メートルから湧き出ていて、湯煙が空まで届くようだった。白洛因は少し目がくらんでいると、温泉旅館の店主が出てきて、笑顔でそう遠くない場所に置いてある卵を取って顧海と白洛因に渡した。
「食べてみてください、出来たてですよ。」

白洛因は涎が垂れそうなほど食べたかったが、手を伸ばさなかった。

すると店主は河南の訛りを強くしながら言った。
「まだ置いといた方がいいですかね。」

顧海は手を伸ばしてそれを取り、殻を剥くと、白身は透き通り、柔らかく、家で作っているものほど固くなかった。中の黄身はまだダメだろうと思っていたが、しっかりと火が通っていることが分かり口へ運ぶと、顧海は褒めざるを得ないほど美味しかった。
「この温泉卵、本当においしいですね。」

それを聞いて白洛因も1つ手に取った。
「本当だ、ちゃんとしてる。」

半熟の物はあまり食べなれていなかったので、白洛因は食べるのが怖かった。

「この温泉は卵を茹でれるほどだから、入ったら皮膚がただれるんじゃないか?」

顧海は驚いたがすぐに笑うと、彼の隣に立っていた店主も笑った。きっと笑っている白洛因が可愛かったんだろう。

「馬鹿じゃないのか?誰が沸騰したお湯に入れるんだよ。この温泉はちゃんと人間の入れる温度に下げられてる。屋外プールを見てないのか?あそこは温泉水だから、そこに行くぞ。」

白洛因は我慢できずに言った。
「なんで教えてくれなかったんだよ。」

「こんなの常識だから教える必要なんてないだろ?」
顧海は再び笑いながら言った。

白洛因は急いで卵を取って、更衣室へと歩いていってしまった。
ー長い間バカと一緒にいたから、IQが低下したんだ。

冷めていたとしてもまだ熱くて、白洛因は慣れるのに苦労したが、顧海は泳ぎ周ってから白洛因の傍に戻った。2人はプールの端に寄りかかりながら、湧き水で体をマッサージしていると時折身体に熱を感じた。見回すと雪山に囲まれ、静かな野原と動く羊が目の前にいて、緑の香りが鼻を満たした。この環境で温泉に入れるのは珍しく、楽しかった。


白洛因が目を閉じて休んでいると、突然背中や腰を這う手を感じる。遂に水着の端に滑り込んだので、白洛因が目を開けると、若者のカップルがそう遠くない場所で追いかけて遊んでいるのに気づく。海沿いを歩いているチベット人はまだ数人いたので、すぐにイタズラをする顧海の手を抑えた。

「なにをしてんだ?人がいるだろ!」

顧海は白洛因の耳元に口を寄せた。
「何が怖いんだ?チベット人に怒られたって、どうってことないだろ。」


夜になると外の気温が急に下がった。白洛因と顧海がホテルに戻ると、各部屋には小さな温泉プールがある。ハーブが豊富にあり、その効果で寒さを追い払い疲労を和らげることが出来るという。白洛因と顧海はプールに横たわりながら果物を食べ、話していると、突然辛くなった。

「帰りたくない。」
白洛因は目を閉じて、静かに言った。

顧海は後ろから白洛因を抱きしめて、その手は足の間に触れた。
「帰りたくないならずっとここにいよう。ここで僧侶になるんだ。」

白洛因は顧海の言葉に耳を傾けなかった。彼が10話すうちの9個は信じられない。とても安心できて、何も考えないでいられて、外は広大で平和な世界。2人は小さな部屋で、寄り添いながら、なんでも話した。

顧海の手が白洛因の腰を掴み、ゆっくりと上へ上がりながら優しくマッサージをした。何度か行ったり来たりしていると、遂に胸に触れて、荒れた指が2つの突起を軽く摘んだ。

白洛因の呼吸は荒くなり、顧海に寄りかかりながら、冷たいプールの中で火照る唇で魅了した。

顧海は白洛因の薄い唇にキスをした。最初はプールの底を流れる水の波のように優しく、段々と熱が溜まっていくと下腹部に集まる。2人は黙ってお互いのそれに手を伸ばし、遊んだ。お互いの理性が無くなるまで、ずっと……

顧海は手にボディーソープを出して、白洛因の中に入れ込んでも、白洛因は目を閉じて何も言わなかった。火照る頬だけが霧の中で現実だったが、それすらも幻のようだった。顧海の手が白洛因の足の間に伸びると、くすぐったかったのか白洛因が身を捩った。しばらくすると慣れてきた様で、顧海の手が再び腰に触れ、まず一本差し入れた。

白洛因の閉じられていた目は僅かに開き、顧海の姿を見て息を飲んだ。顧海の指が動く度、白洛因は眉をひそめて喘ぎ声を漏らしていたが、顧海の髪がチクチクと触れるのが堪らなく嫌だった。

高山の温泉にはあまり長時間浸かってはいけないので、2人はすぐに体を乾かし覆い隠した。

白洛因は顧海の身体に手を伸ばし、よりおいしい食事へとしようとした。顧海は白洛因の挑発を感じて歯を食いしばると、反撃する事に決めた。

「まず先に俺を褒めろ。そうじゃなきゃ触るな。」

顧海は白洛因に冷たい目で見られると魂の半分を失ったが、辛うじて半分はまだ手に残っている。

「触るな?じゃあ口でする。」

白洛因は顧海の左胸を口に含むと顧海は息を飲んだ。もう残っている半分の魂も、その半分になってしまっている。もはや4分の1もどこに残っているのかもわからない。
ーけどお前が話さないなら、お前を限界まで追い詰める他ないよな。

「褒めないなら触るな!」

村長は妻を押しのけた。

白洛因はせっかちだった。
ーくそっ、女よりめんどくさい!触れちゃいけないってことは俺を飢えさせて殺す気なのか?

顔を背けても、白洛因の頭は冷酷に顧海の熱い目に向いている。

しかし顧海も負けていられないので、器用な指と舌を使って、白洛因の腰をつついた。これは顧海が開発した場所のひとつで、白洛因は顧海がどんな手段を使ったのかは知らないが、最初はあまり敏感では無かったのに、気づけば顧海に調教されていた。

やっと、白洛因が負けを認めた。

「お前の肌は綺麗だよ。」
白洛因の自分を責めながらため息をついた。

顧海の舌は白洛因の身体を這っていた。
「他には?」

白洛因は言いたいことを飲み込んで、鈍く答えた。
「筋肉もいい」

顧海の手が再び秘密の場所に伸びると、その周りを引っ掻いた。

「他には?」

「まだ欲しいのか?」
白洛因の誇り高い目が顧海を捉えた。

顧海の指が差し込まれ、狭い道を激しく横暴に往復した。しかし、そのどれもが白洛因の弱点にしっかりとあたっている。

「やめろ!」
白洛因が混乱した表情で言った。

「言うか?あ?」
顧海は白洛因の体を押さえつけながら、一本指を増やして、物足りない刺激だけを与えた。
「まだ終わってないぞ。お前が俺を褒めるまで、ずっと気持ちいいところ外すからな……」

白洛因の腰がシーツから離れ、快楽で歪んだ顔が、顧海の目を見つめた。

「………が大きい…」

顧海は故意に眉をひそめた。
「なに?聞こえなかった。」

白洛因は顧海の耳を引っ張って真っ赤にしてやった。


愛し合ったあと、顧海は何かを思い出して、白洛因に向かって叫んだ。
「お前の返事聞いてない!」

白洛因のストレスはここで爆発した。
「何をだ?」

言いたいことまで言わせただろ!!!
これ以上俺になにを言わせたいんだ?!!!

「待て待て……」
顧海は再び穏やかで思いやりのある表情に戻した。
「俺はいつも大切な言葉を言ってるし、さっきも言った。なのにお前から言われた事が一度もない。」

「なにを?」

「この間の夜のことを覚えてるか?酔っ払って、俺が演じたのは……」

「聞きたくない!」
白洛因は急いで言葉を遮った。
「そんなの俺はしてない!!あんな馬鹿げたことするお前が心配なくらいだよ!」

白洛因は、その夜について認めるぐらいだったら死ぬほうがマシだった。証拠があったとしても、そんな愚かなことをした事が無いと言い張る。顧海がそれについて話そうとすれば、白洛因は毛を逆立てた犬のようになってしまう。

「わかってるよ。そのことについて話すつもりはない。終わったあとに言ったこと覚えてるか?」

白洛因は首を横に振った。行為すら覚えていないんだから、その後のことなんて覚えている訳がない。

「俺は愛してるって言ったんだ。」

白洛因は震えて、顧海を見たが、顧海は愛おしい気持ちが溢れた目で白洛因を見ている。

「お前も言う必要があるだろ?」

白洛因は顧海からの視線から逃げた。
「そんなの聞いてない。」

「愛してる!」
顧海は大声を出して言った。
「今のは聞こえたか?」

白洛因は頷いた。
「今のは聞こえた。」


顧海は温泉プールの水が蒸発するまで待ったが、白洛因からの言葉を待てず、白洛因に顧海が愛していると言ったことをもう一度確認した。