第205話 卒業
五月一日の休み(May day)の後、顧海と白洛因は学校へ行った。
教室はスモークと戦争の香りに包まれ、女子生徒も頭を振り切って授業を受けている。後列の生徒も正直に受けていて、いつもは寝ている生徒でさえ起きていた……顧海と白洛因がゆっくりと教室へ入ると、2人が宇宙人かのような視線を向けられた。
「えっ……移民したんじゃないのか?」
尤其は驚いた表情で白洛因に言った。
白洛因の唇がぴくぴくと動いた。
「移民?誰がそんなこと言ったんだ?」
「杨猛」
「あいつが言ったことを信じるのか?」
「じゃあ何してたんだ?」
尤其が問うと、白洛因は答えずに話題を変えた。
「そんなことより北影の面接に言ったらしいな。結果はどうだった?」
「合格」
尤其は軽くそう言った。
「次は文化試験だ。」
白洛因は幸せそうな顔をした。
「北影は清華より難しいって聞いたけど、どうやって合格したんだ?金でも積んだのか?」
「俺もなんでか分からないんだ。合格するだなんて思っても無かったし。先生が無料で授業をしてくれるって言ってるんだけど俺はその時それを見てなくって、その後合格したって連絡が来た。本当に信じらんなかったよ。それを3回見てやっとテスト勉強を始めたけど無理だと思ってた。でも結果は合格だよ。」
白洛因は尤其の明るい笑顔を見ると、彼が本当に幸せそうに見えた。
「卒業前にサインくれよ。もし火事にあったらそれを2ドルで売るから。」
尤其は笑った。
「やだよ。もし俺が有名になったって、お前と連絡を取り続けるし、接し方も変えない。」
そう言い終わるとティッシュを取って鼻をかんだ。
白洛因は心配そうな顔で尤其を見た。
「ステージに立っても歌い終わる前に鼻水垂れるんじゃないか心配だよ。」
「そんなこと言って期待してるんだろ?」
白洛因が微笑んだ。
尤其は突然何かを思い出して、白洛因の手を取って急いで言った。
「因子、文化課題手伝ってくれ!これがインタビューだったら間違いなく、俺は消される!大学入試までに助けてくれよ。」
「いいよ。」
白洛因は嬉しそうに同意した。
尤其は感謝も伝えられない間に、突然手に痛みが走った。誰かが机のネジを外して、触れている手に向かって投げつけたんだろう。尤其の手の甲には、小さな赤い巣が出来上がった。
白洛因の冷たい目が後ろを振り返った。
今回は尤其が我先にと口を開いた。
「顧海、ありがとう!殴られてからすぐに面接に行ったら鼻が腫れてて、面接の先生はあなたは不完全な美しさを持っているって言ってくれたんだ。たくさんの受験生の中から、面接官に深い印象を与えられたよ。」
顧海の口角がぴくぴくと動いた。
「そしたらもう2発殴ってやるよ。」
放課後、顧海は先生に呼ばれたので、白洛因は顧海を待って門で待っていた。顧海が来た時、白洛因は学校の外の手すりに座ってタバコを吸っていた。顧海は歩いて行って、白洛因の手に持っているタバコを奪うと、一度吸ってから白洛因に返した。
2人は自転車で通学していた。白洛因は後ろに座りながら、顧海の肩を掴んで、長い間見ていなかった道が縮んで行くような光景を見ていた。
「覚えてるか?俺たちが初めて会った時、お前は座ってた。」
白洛因はあの時の顧海の目が、何かに満足していなかったことを考えていた。
ー明らかに敵だったのに、どうしてこんな関係になったんだ?
前の関係の白洛因が今の状況を見れば、きっと自分は圧倒されるだろう。
時には、信じられないような出来事が人生の中で起こるだろう。
「いつまで一緒に自転車に乗れるだろうな。」
白洛因が聞くと、顧海が自分のことを見下ろした。
「チェーンを新しいのに変えて油をさせば、少なくとも2年は乗れるだろ。」
「誰がそんなこと言った?」
白洛因は怒った。
「同じのに乗り続けるだなんて言ってないだろ。」
「どれぐらいがいいんだ?」
顧海は幸せそうに言った。
「お前が望めば大学に行った時だって2人乗りしてやるよ。前にも言ったけど、寮には入るなよ。一緒に住むんだ。遠くだっていいだろ。大学までの時間は沢山あるんだ。俺達には時間が有り余ってる。」
顧海の妄想を聞きながら、白洛因は僅かにあと20日しかないと感じていた。
大学入試3日前、休校中。
白洛因はこの2日間を利用して、大学入試前に家族を安心させるためにも家に帰った。偶然杨猛にあって、2人はそこで話をした。
「そうだ、お前に聞いてなかった。どこに出願したんだ?」
「聞かないで。」
杨猛の顔が暗くなった。
「考えたくもないんだ。」
白洛因は杨猛をちらっと見た。
「なんで?そんなにレベルが高いのか?」
「父さんが僕に無理矢理、軍学校に行かせようとするんだ。父さんの家族の中に兵士が誰もいないから、僕になって欲しいんだって。卒業後も軍人は待遇が良いからって言うんだ。僕は父さんに反論できなくて、歯を食いしばって耐えてたら、もう承諾済みだって。」
白洛因は笑った。
「お父さんがそう思ってるのか?」
「わかんないけど、そう言ってたのは覚えてる。」
杨猛はため息をついた。
「本当に合格したらと思うと、心配で堪らないんだ。」
「大丈夫だ!」
白洛因は杨猛の頭を撫でた。
「大丈夫、きっと合格しないよ。」
2人はしばらく黙って歩いていたが、杨猛が突然口を開いた。
「因子、しばらくどこに行ってたんだ?」
白洛因はなにも答えなかった。
「因子、僕を親友だと思ってないの?」
杨猛は尋ねずには居られなかった。
白洛因の呼吸は止まったが、すぐに杨猛の肩を抱き寄せた。
「本当のことを言って、俺の親友はお前だけだよ。俺たちはいつだって親友だし、家族とすら思ってる。お前だってわかってたと思ってたし、傷つけるのが怖かったから言えなかった。」
「僕を親友として扱わなくてもいいよ。」
杨猛は笑いながら白洛因の肩を撫でた。
「僕達は兄弟なんだから。」
「……女性の軍人試験に参加すれば大丈夫だよ。」
杨猛は白洛因の背中を殴った。
胡同で2人は別れ、白洛因が言う前に杨猛は先に行ってしまった。白洛因も歩き出すと、後ろから杨猛の叫び声が聞こえた。
「因子、お前は僕のアイドルで、人生の目標だから、お前に何があったってお前の味方だよ!」
白洛因の目は潤んでいた。
顧洋は顧海の家へ向かい、ドアを開けて白洛因が居ないことを知ると、驚きの表情を見せた。
「珍しい!1人なのか?」
「あぁ。」
顧海は不機嫌に言った。
「あいつは家に帰ったよ。」
顧洋は何気なく尋ねた。
「飯は食ったか?」
「少し食べた。」
顧洋は顧海を冷たい目で見て言った。
「聞いてもいいか。」
「なに。」
顧海はタバコに火をつけた。
「お前はあいつのために住んでるのか?」
顧海は口から煙を出しながら、いじめっ子のような顔をしたが、別にいじめるつもりは無かった。
「あいつの為だけじゃなく、自分の為にもな。」
「お前は自分の人生に、自分の考えを持ってるのか?」
顧洋か尋ねると、顧海は冷笑した。
「なんで顧威霆みたいに話してるんだ?」
「俺はただ聞いてるだけだ。」
顧洋は目を細めた。
「お前がどう考えてたのか分からなかったんだ。」
「俺が考えてる事は全部あいつの事だよ。」
顧洋は笑ってるのか笑っていないのか分からない表情で言った。
「もう救いようがないな、顧村長。」
「鈍感で役に立たないよりマシだな。」
顧海はタバコの火を消した。
顧洋の顔がいつもの冷たさに戻った。
「からかうためにここに来た訳じゃない。うちに香港支部の学校がある。そこで勉強を続けて、卒業後はあっちでそのまま学べる。だから聞きたい。香港に来る気はないか?」
「ない。」
顧海はすぐに答えた。
「因子だけを北京に残す訳にはいかない。」
「学校に行く必要は無い。」
顧洋は楽観的に話した。
「お前らの関係が続くかは、一緒にいる時間に関係ないだろ。学校のルールに従えさえすれば、時間は無駄にはならない。学位が欲しいなら用意する。」
「顧洋、俺はあなたから金を貰ったとは思ってない。どれくらい借りたかは覚えてるし、それも全て返す。家族の愛情や金に縛られるのに期待しないでくれ。俺は自分で自分の人生を選ぶ。」