第206話 欲望

大学入試終了初日、学生は自主的に教師感謝祭を開いた。

教師と生徒の開く、初めての宴会。特に、数学教師の言葉は白洛因を感動させた。
「白洛因、授業中あなたが寝ているのを見る度、とても気分が悪かったわ。大学では授業中に寝ないで、ちゃんと夜寝なさい。」

この宴会で、白洛因は罗晓瑜を見かけた。彼女は今も美しいが、より女性的になっている。彼女はここに娘を連れてきていた。娘は彼女によく似ていて、大きな目で周りをじっとみている。生徒が抱っこするために争うほど可愛らしかった。

白洛因は罗晓瑜の前に立って、優しく微笑んだ。
「先生、あの時の俺は言い過ぎてた。気にしないでください。」

「あなたのおかげで、教師と生徒がどうあるべきなのか分かることが出来たわ。」

白洛因はポケットから四角い箱を取り出して、罗晓瑜に渡した。

「先生に。」

罗晓瑜は驚いたような顔をした。
「私に?」

「はい。中身は鏡です。機嫌が悪い時は気をつけて……鏡はあなたの機嫌を良くすることは出来ないから。」

罗晓瑜は顔を赤くしながら笑った。

教師感謝祭は食事目的もあった為、先生へのプレゼントだけではなく、クラスメイトへとプレゼントも用意していた。尤其は特にたくさん貰っていて、女子生徒が尤其に渡そうとする度に男子生徒が尤其に酒を飲ませた。だから尤其は酔いすぎてしまっている。

白洛因は顧海がトイレに行っている間に、尤其の近くに座って、バックからプレゼントを取り出した。

「お前の為になるものが薬しか思い浮かばなかったんだ。鼻炎が治る薬だって医師が言ってた。3回使って効かなきゃ全額返金だって。」

この言葉はどういうわけか尤其の目を潤ませた。尤其の目の周りは赤くなっている。

「因子、実は俺……」

白洛因はその言葉を遮った。
「いや、言うな。分かってる。」

話し終えたあと、白洛因は友達として尤其を抱き締めた。

「因子、俺もプレゼントを用意したんだ。けど人前で出すのは恥ずかしくてホテルのフロントに預けてある。もし受け取ってくれるならすぐに持ってくる。もし要らないなら捨ててくれ。お前が受け取ってくれないなら価値はないから。」

白洛因は尤其の背中を2回叩いた。

「俺が生きてきた中で、お前が1番イケメンだって言いたかったんだ。」

顧海はその時ちょうどトイレから出てきていて、これを聞いた途端、発狂してしまいそうだった。


宴会が終わる前に、顧海は孫警備兵から電話が来ていたので、急いで向かわなければならなかった。生徒たちは9時まで宴会をしていたが、次々と家へ帰って行った。白洛因は1人でフロントへ向かい、説明すると、大きな紙袋を渡された。

白洛因は袋を開けてそれを見ると目が熱くなる。尤其からのプレゼントは毛布だった。

ホテルを出て白洛因は顧海に電話したが、誰も出なかったので、一人でタクシーに乗って帰らなければならない。


家について鍵でドアを開けようとしたが、もう既に鍵が開いていた。白洛因が入ると、顧海が寝室のキャビネットの前でウロウロしていた。真剣にそのキャビネットを見ていて、白洛因が入って来たことにも気づいていない様だ。

白洛因は顧海の尻を蹴った。
「なんで電話に出なかったんだ?」

その後、誰かが振り返って冷たい顔へと変わった。

「顧洋……」
白洛因はビックリしていた。

顧洋は怒った顔をしながら白洛因を見た。
「なんで蹴ったんだ?」

白洛因は必死に自分を正当化しようとした。
「なんで顧海の服を着てるんだ?」

顧洋の傲慢な笑顔が口元に表れた。
「俺の服は汗をかくのに向いてないからな。」

白洛因はワインも飲んでしまっていたので、気分の上がり下がりが激しかった。これを聞いて不安になり、顧洋の胸元の襟を掴んだ。
「脱げ!」

「ははっ……」
顧洋は微笑んでいる。
「俺があいつの服を着るのはそんなに不愉快か?意外と短気なんだな!」

白洛因は顧洋の嘲りを無視して、無理矢理、服を脱がせようとした。2人はめちゃくちゃになりながら、顧洋は白洛因の服を脱がせようとしたが、白洛因はそれを許そうとはしなかった。白洛因の防御を崩すために、彼をベッドへと追いやった。

白洛因の手は顧洋の首元を引き裂いたので、顧洋の首元が白洛因の視界に広がった。

そういった意味は特にないので白洛因は気にも止めていないが、顧洋は違った。

「白洛因、足を動かすだけじゃダメだろ。俺を蹴った挙句に、服まで脱がすのか。どうすれば2人の関係を続けられるか分かるだろう?」

怒った白洛因は顧洋の首を締めたが、拘束することは出来なかった。

顧洋の目が明るくなる。
「白洛因、俺は顧海じゃないから尻を蹴ってはいけないんだ。分かるな?」

そう言うと白洛因のズボンを引っ張った。力強く引っ張りすぎていたので、生地が裂ける音が白洛因の耳に届いた。白洛因は真っ赤な目で吠えた。
「顧洋、なにも言わずに出て行け。」

「俺はお前を歓迎するよ。」

顧洋はまだふざけたように笑いながら白洛因のシャツを開いて、腰に触れた。

白洛因は震えるほど怒り、顧洋の腹を蹴った。

顧洋は2本の指を開いて見せつけた。
「もう2回蹴るなんてお前は情熱的だな。俺はまだ恥ずかしいよ。」

白洛因は頭を押さえつけられ、体はベッドに釘で刺されたかのように動かない。白洛因は睨みつけたが、顧洋は軽薄に微笑んだ。

「白洛因、俺と顧海は同じだ。1人は下品で、1人は上品。顧海も俺もお前に与えることが出来るが、お前はあいつに与えることは出来ない。すぐにどちらがお前にお似合いか分かるだろう。」

「俺はお前が話す言葉よりも顧海の言葉の方が好きだ。」

顧洋はその言葉に傷つくことも無く、白洛因の心を刺激し続けた。
「お前が俺の部屋で気絶した日、やることはやったからもう外で会う必要なんてない。」

白洛因は弱点を晒さなかった。
「お前は人のものだから夢中になってるだけだ。寝ていようが気絶しようが、あいつが触れるだけでなにを考えてるかわかる。」

「こういう時、あんまり喋らないようにしてるんだ。」

そう言うと、白洛因の冷たい視線に晒されながら、顧洋の唇がゆっくりと下がった。白洛因に近づいていく度、白洛因の体が硬直していく。顧洋の血が熱く流れていき、彼の薄い唇が白洛因の口角に触れると、突然固まって目が暗くなった。

「悪いけど、コントロール出来ないんだ。」

白洛因はその言葉がなにを意味しているのか理解した。

次の瞬間、顧洋は白洛因を強制的にバスルームへと連れて行き、断りなしに彼の髪を洗った。白洛因は抵抗したが、無視して泡を洗い流すと、顧洋が怒鳴った。

「本当にお前は……!」

白洛因は彼が何をしたいのかが分からなかった。

髪を洗い終わると、顧洋は白洛因を強制的に鏡の前に立たせて、頭を固定し鏡に映る彼の姿を見ると、ハサミを手に取った。

「今日はお前の髪を切る。」

白洛因の血が逆流し、なんとも言えない感情になった。

「お前らの家族はみんな狂ってる!」

顧洋は鏡を見て微笑んだ。
「みんな普通だったさ。けどお前に会ってからみんな狂った。」

「切るのか?」

ハサミが顧洋の手の中で回った。
「俺が何かをする時はそれが優れているかどうかだ。お前の見た目は優れていない。」

そう言うと、顧洋はまず白洛因の前髪を切った。白洛因は逃げ道がない上に、切らなければ顧海の悪夢をまた見ることになってしまう。

顧洋は白洛因の体に布を巻いて、真剣に切り始めた。

白洛因は突然口を開いた。
「他の人に切って貰う手間が省けた。ありがとう。」

「なんで他の人に?」
顧洋は特になんてことないように聞いた。

「資格もないし、自分で切れない。」

顧洋は鼻を鳴らした。
「お前らには本当に骨が折れるよ。」

会話している間に白洛因の輪郭部分が大まかカットされた。顧洋の巧みな技術を見て、白洛因は推測した。

顧洋はどうやってこの技術を手に入れたんだ?

白洛因は中国の学生が食器洗いで生活費を稼ぐために、海外へ行くと聞いていた。

顧洋は生活のために美容院で働いてたのか?

……そう考えているうちに、アルコールで眠くなってしまい、白洛因の頭が突然落ちた。

顧洋は白洛因の首辺りと耳の後ろの髪を切りたかったので、切った後、白洛因の頭をそっと上げると、椅子で仰向けに寝かせた。前髪を切りながら彼の眠そうな顔を見つめていると、突然手の動きが止まった。



顧海が帰ってきた時、白洛因の髪は既に洗われていて、顧洋が髪を乾かしていた。

2人の仲の良さそうな姿を見て、顧海の頭に血が上り、彼は大股で家の中を歩いた。顧洋からドライヤーを奪い、怒鳴ってやりたかったが、白洛因の寝顔を見て思いとどまった。


寝室を出たあと、顧海は顧洋の胸を強く殴った。

「なにをしてるんだ?」

顧洋は不機嫌に顧海を見た。
「なにをしてるって?お前見てただろ?顧海、お前分かってるだろ!俺たちは兄弟だ。お前が他人の前でどうなろうと構わないが、俺の目の前でそうなるな!俺はお前を殺す事が出来るんだ!」

顧海の熱くなっていた感情は徐々に冷め、ソファに座りタバコに火をつけると、煙をゆっくりと吐いた。

しばらくして、顧洋が口を開いた。
「叔父さんはまだお前を探してるか?」

「あぁ。」

「どうして?」

「分からないのか?」
顧海は嫌そうな顔をしている。
「軍に入れる為だよ。」

「あの人の人生で最も努力したのに誰も受け継がないんだ。心配にもなるだろ?」

顧海は長いため息をついたが、その表情はさっきよりもマシになった。
「そんなことよりも、何しに来た?」

「領収書だ。明日の訴訟でお前はそれを使うことになる。負けても誰かが助けてくれるさ。朝9時、法廷で会おう。」

言い終えると顧洋は自分の服に着替えて、玄関へと真っ直ぐ歩いて行った。