第207話 あなたと一緒に居たい
顧洋が去った後、顧海が寝室へ戻ると、白洛因はまだ椅子で眠っていた。髪は半分濡れていて、もう半分だけ乾いている。
顧海はドライヤーを手に取って、怒りから冷たい風で、白洛因の髪を乾かした。夏だが家のエアコンは低く設定されているので全く暑くない。だからドライヤーの冷たい風は白洛因を寒がらせたので彼はすぐに起きた。
まず鏡の前に立つと、髪型は悪くない。隣に立っているはずの美容師はもう交換されていた。
「お兄さんは?」
白洛因がそう言ったのを聞くと、顧海はドライヤーを元の場所に置いた。その目には怒りが宿っている。
「もっとあいつと一緒に居たかったか?早く帰って来た俺は邪魔者か?」
見境のない2つの質問に白洛因はまた気分が悪くなる。白洛因の脳は顧海の直感的な脳と違い、よく考えるものだったので顧海の脳がどうなっているのか理解出来なかった。
「あぁ、一泊していけば良かったのにな!」
そう言い終えると白洛因は巻き付けられていた布を取って、顧海の目の前から消える準備をしようとしたが、突然顧海に腕を掴まれそのまま強く引かれたため、ベッドサイドにあるテーブルに頭をぶつけそうになった。
次の瞬間、顧海が白洛因を虐めるようにベッドに押し付けた。
「俺を怒らせたいのか?」
「誰が怒ってるんだ?」
白洛因は顧海の服を掴んだ。
「何か間違ってるか?ただ髪を切ってもらっただけだろ?耳かきでもして貰ってたか?しかもお前の兄弟だろ!あいつがお前の兄弟じゃなかったら、あいつと話すことすらなかったよ!」
2人は睨み合いながら、重く息を吐いた。
長い間、重たい空気が流れたあと、白洛因が先に口を開いた。
「お前と喧嘩したい訳じゃない。」
そう言うと顧海のことを押した。押しても引いてくれなかったのでもう一度押すと、やっと引いた。ベッドの上に散らばった服を取り、バスルームへと向かった。顧海は1人でベッドに残り、目の前にあった白洛因の服を手に取って顔を埋めた。白洛因の香りが、ゆっくりと怒りを沈めていく。
顧海がバスルームへ向かおうとした時、怒りの原因を見つけた。白洛因のズボンがボロボロに引き裂かれていて、縫い目は大きく開かれている。その糸が、顧海の心を強く引っ張った。
顧海はズボンを脱ぎ、バスルームへ向かいドアを開けようとしたが、開かない。無理矢理蹴ってドアを開き、入浴中の白洛因の元へと歩くと、彼のズボンを白洛因へ投げつけ、部屋から出ていった。
顧海は外のコートでバスケをしていた。汗をかくと徐々に怒りも流されていく。時計を見るともう1時を過ぎていて寝る時間になっていた。
玄関まで歩くと、ドアには大きな文字で書かれた紙が貼ってあった。
"ろくでなしは入るな!"
顧海は口角を上げて、その紙を無視して部屋へ入った。
白洛因が寝ている間に顧海は風呂に入り、その後ベッドへ入った。彼がベッドに横になった瞬間、白洛因が起き上がって座った。
ライターの火はぼんやりと青く、その火が消えると白洛因の口から煙が広がった。顧海は目を細めて隣で晒された大きな背中を見て、無意識に手を伸ばした。
「教えてくれ。そのズボンはなんだ。」
白洛因は短く、3字だけ答えた。
「不知道(知らない)」
そう言ってしばらく経つと、白洛因がくしゃみをしたので、またくしゃみをする前に、顧海が白洛因を引っ張った。ベッドに戻したかったが、白洛因は動かなかった。白洛因が3回くしゃみをすると、顧海は耐えられなくなって彼の首を掴み無理矢理ベッドに戻した。
白洛因の口は「うぅ」と唸るだけで、言葉はなかった。顧海は白洛因の口に自分の口を合わせ、中で横暴に動き、彼の呼吸すら奪おうとした。彼が言おうとしていた言葉まで奪うように……それから顎、頬、鼻先、瞼、額、耳……白洛因の呼吸が元に戻るまで続けた。
顧海がキスをするのを止めると、白洛因に睨まれた。
「勉強する必要も無くなって、俺も合格したからって、最近緩みすぎだろ。俺と喧嘩するの嫌だろ?」
顧海が得意とすることは、恥知らずになることと、悪人になれる事の2つだった。
白洛因が顧海をちらっと見た。
「まず離れろ。ズボンの事、教えるから。」
顧海は言う通りにベットに横になった。
2秒後、部屋で叫び声が鳴った。
「おい!……摘むな!そこは摘む場所じゃないだろ!なんでわざわざ男をっあああ!!!」
白洛因は手を止めて、顧海の紫になって痛そうな顔を見た。
「顧洋はお前の服を着て部屋を彷徨いてたから間違えてあいつを蹴ったんだ。それから喧嘩を売ってきたから口論になって、そのまま殴り合いに。それであのズボンになった。」
顧海は緊張していた。
「あいつに何かされなかったか?」
「してない。数分間絞められただけだ。」
「あいつがそれだけで終わるわけがない……」
顧海がブツブツと言っていると、突然何かがおかしい事に気がついた。
「じゃあなんで髪を切ったんだ?」
白洛因はその言葉に戸惑いながら怒鳴った。
「分かるわけないだろ?そんなのお前の家族に聞けよ。お前の家族の脳はどうなってるんだ?全員狂ってる!」
顧海の表情は停止し、なにも言わなかった。
「俺は説明したこと、信じるよな!」
そう言うと顧海に背を向けた。
顧海は白洛因を抱きしめて、彼の首に頭を擦り寄せて、未だ固い声で言った。
「あんまりあいつを挑発するな。」
白洛因の目の前にポットがあったので、それを手に取って顧海の頭を殴りたくなった。
「俺が挑発したのか?俺がいつあいつを挑発したんだ?」
顧海はそれを聞いてないように言葉を続けた。
「あいつは俺たちほど単純じゃないんだ。お前が想像するよりも複雑に出来てる。」
「あいつが愛するものなんて知りたくもない。」
白洛因が冷たく言い捨てると、顧海は白洛因の手を取って、静かに言い聞かせた。
「あいつの事を理解して欲しいわけじゃない。思い出して欲しかったんだ。もっと警戒しなければいけない相手だと言うことを。俺とあいつは同一人物じゃないことを。」
白洛因は突然思い出して、冷たい声で言った。
「でもあいつは言ってた。あいつは下品で俺は上品だけど、本質は同じだって。ただ違う表現をしてるだけだって。」
「ばあちゃんが一緒なだけだ!」
顧海は歯をむきだしにして怒った。
「あいつが言ってるだけだ!全然違う!俺は一生懸命だけど、あいつは熱心なだけだ!前にお前に話した凧揚げのことを覚えてるか?それだけで違うことは分かるだろ。」
顧海がそう言い終えると白洛因は改めて考えたが、この話で顧洋の悪い所は見えず、顧海が愚かだということしか分からない。
「笑うな、俺は真剣なんだ!」
顧海は白洛因の顔を自分の方へと向かせると、白洛因は微笑んだ。
「そうだな、分かってる。」
顧海はしばらく白洛因を見つめていると、彼の目に奇妙な波が見えた。唇は震え、欲求不満そうな顔をしていたが歯を食いしばって耐えた。
「笑ってるのか?なぁ、笑ってるんだろ?じゃあもっと笑わせてやるよ。ほら、笑えよ……」
「ハハハッ……やめ……ハハッ……」
翌朝7時、顧海は顧洋からの電話で起こされた。
「起きたか?」
顧海はあくびをした。
「なんで起こしたんだ?訴訟は9時からだろ?」
「授業だとでも思ってるのか?チャイムと一緒に入ってみろ!」
顧海は目を擦って、せっかちに言った。
「あぁ、分かったよ。起きたよ。」
その後、電話を切ってベッドに戻っても、白洛因の目を見ることは出来なかった。無邪気な子供のような顔を見つめるのは、白洛因が起きるまで飽きなかった。
「しばらく出かける。兄さんが訴訟を起こされたから行かなきゃならない。シャワーを浴びたらお粥を作っておくから、起きたら食べろ。」
「いらない。」
白洛因は体を伸ばした。
「俺も行く。」
「なんでだ?」
顧海は服を来ながら白洛因に尋ねると、白洛因は身を起こしてベッドに座った。
「誰かにチャンスを与えたんだろ?前に先生が機会をくれたんだが、突然で話せなかったんだ。こっちが悪いんだから説明しに行く。」
顧海は頷いた。
「先生に連絡はしたか?」
「お兄さんがしてくれた。」
顧海の顔が突然変わったが、なにも言わなかった。
2人ともシャワーを浴び終えると、寝室で着替えながら、白洛因が顧海に言った。
「先に行けよ。急いでるわけじゃないから。」
「一緒に行くぞ!」
「行かない。」
「送ってやるから。兄さんにもう一度会わないと。」
「なんでだ?1人でも運転できる!しかもお兄さん言ってただろ?早く行け、しばらくは1人で運転する!」
顧海はまだ引かなかった。
「心配しないために送ってくだけだ。」
白洛因は顧海を言いくるめたかったが、急がなければならなかったので一緒に行った。
車が出発した時、顧洋から顧海に電話が来た。
「今どこだ?」
顧洋にそう聞かれると、顧海は少し焦った。
「今出た。」
「どれくらいかかる?」
「わからない。」
顧海はゆっくりとスピードを上げた。
「因子を送らなきゃいけないから、また後でな。」
酷い沈黙の後、顧洋のいつも通り冷たい声が届いた。
「あいつの車に乗ったのか?」
顧海が答えようとしていると、突然交差点から車が飛び出した。ブレーキを踏んだが反応せず、ハンドルを素早く回して、やっと危険から回避出来た。
「すぐに行く。」
顧海は電話を切って白洛因を見ると、その表情から考えてることが図り取れなかった。それから手を伸ばして髪を撫でると、優しく、安心させるように声を掛けた。
「怖いかったか?」
白洛因は深呼吸をしたあと、静かに話した。
「運転中は電話するの減らせ。」
顧海が微笑んで前へ振り返ると車がぶつかろうとしていて、ブレーキを踏んだが反応しなかった。もう一度ブレーキを踏んでも反応しない。顧海の笑顔が一瞬で消えた……