第1話 破壊的な人生
8年は、一瞬だった。
8年後、英語が全く話せなかった顧海は外国人のようになっていた。顧海が海外へ行った時、偶然出会った李烁はカナダへ移住していた。海外での生活について話していると、李烁はため息をついた。
「中国にいた頃が懐かしいですよ。お正月に帰れるなんて羨ましいです。卤煮火烧が恋しくて堪らないです。」
「いつでも戻れるだろ。」
顧海が言うと、李烁はまたため息をついた。
「家はもうないんです。帰ったら北の漂流者になっちゃいますよ。」
「家が無くったって家族はいるだろ。」
李烁は突然何かを思い出した。
「そうだ、白洛因さんは今どこにいるんですか?」
「知らない。」
顧海は感情を深く隠してそう言った。
「海外にでも居るんだろ。」
「連絡を取ってないんですか?」
「あぁ。」
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ここは民間のハイテク企業で、北京の開発地区の中心に位置し、主な事業は軍事及び民間の電子産業にシステム統合サービスを提供することと、通信機器の販売である。開発地区にはこのような企業は沢山あるが、この会社には独自の管理モデルがあり、業界の注目を集めた。
この会社の社長以外、管理職から従業員まで全て女性であり、その誰もが美人だ。一般的にこの種のビジネスでは女性が上に立つことは少ないが、社長は深刻な性差別をしていて、特に男性差別をしている為、就職説明会ではあらゆる美女が集まる。
しかし、会社の選別は厳しく応募資格があるのは美女であり、理学専攻をしており、高学歴と並外れた知識を持っていなければならない。しかも独身で無ければならず、結婚するには関連会社の社員とでないといけない。その名の通り、顧客に恋をしなければならないのだ。
理学専攻を取る女性が少ない昨今でも、この会社の採用方針には理学を熱心に学び大学を卒業した北京の女性のみが選ばれる。年老いた理学専攻をした男性など眼中にないのだ。
その後に開かれる会社の年次総会では、社長はたくさんの美しい女性に囲まれ、まるで宮廷のような風景である。
これらの女性の日々の楽しみは社長についての噂を話すことである。
最近は年次雇用期間であり、議論しなければならない話題が沢山ある。
「ねぇ、聞いてる?今年の就職説明会の参加人数は去年の倍らしいわよ。まるで北影のインタビューみたいにみんな美しかったって。」
「美しいからなんなの?それだけじゃどうしようもないでしょう!先月、検査委員から紹介された子だって数日以内に辞めたじゃない。」
「彼女はただ社長に会いに来たのよ。純粋な気持ちでこの機会に玉の輿に乗ってやろうって。なのに社長は冷たく接したでしょう!」
「私たちの社長はなんなの?社員を1人でも誘ったことは?襲ったことは?」
「無いわよ。私はここに来て1年だけど言葉すら交わしてないわ。」
「社長はなにを考えてるのかしら?たくさんの美女をここに集めてるけど、誰も眼中に無いわよね。喋よ花よと扱われるのかと思ってたのに、今じゃ必死に働いてるだけ!」
「きっと運命の出会いを待ってるのよ。」
「その運命の子が可哀想ね。だって考えてもみなさいよ。社長は軍隊長の息子で、才能を持ちながら努力を惜しまず、会社まで経営してて、しかもあんなイケメンだもの!あんなにハイスペックだなんてずるいわ!こんな男と付き合っていける?あんなイケメンに一心に愛されて、耐えられる?」
「社長は一人暮らしみたいよ。しかもお母様に頼ることなく、家事もやってるんですって!」
「本当に!?そんな人って居るのね!本当に選ばれた子が可哀想だわ。」
「もう耐えられない、一夜を共にするだけでも構わないわ!」
「ちょっと……静かに、社長が来たわ。」
顧海は営業部のオフィスを無関心そうに歩いた。後ろには副社長が続き、その副社長も若くて美しい女性である。
顧海が去って間もなく、静かだったオフィスが騒ぎ出した。
「見た!?今日の社長は紫色のシャツだったわよ!」
「見たわよ!見た!!似合ってたわね!!」
「副社長が羨ましいわ。だって、社長室に自由に出入り出来るのよ?」
「彼女と比べられたいの?顧社長に高給で雇われたけど、人前で発表はしなかったじゃない。つまり……」
「やめて、言わないで。私はあとここに2年いなきゃいけないの。社長と寝れるかもしれない希望を捨てさせないで!」
闫雅静は顧海に書類を手渡した。
「サインして。」
顧海は適当にそれをめくってある程度読むと、その契約書にサインをした。
闫雅静は顧海のサインを見る度にため息をついた。
「顧社長、どうしてそんなに字が美しいの?どうやって練習したの?」
顧海はなにも話さなかった。
闫雅静はコップ1杯の水を汲んでから、顧海の目の前に座った。顧海の冷たい顔を見て静かに言った。
「顧社長、どうしてこんなに美女を集めてるんです?知ってます?彼女たちはいつだってあなたの事を話してるんです。この間エレベーターに乗った時なんて、2人の社員があなたの筋肉について語ってましたよ。"質感がいい"って。」
顧海は冷静に言った。
「次からは聞くようにするよ。教えてくれてありがとう。」
「社長……!」
闫雅静は怒ったふりをして顧海を見た。
「美女に囲まれて、そんなに嬉しいですか?」
「これは名声を確立させる為だ。」
顧海はバカにするように微笑んだ。
闫雅静は顧海の為にコップに水を汲みながら、2人は話を続けた。
「そうだ、顧社長。今日はニューハーフが来ましたよ。」
それを聞いたと途端、顧海は飲もうとして口に含んでいた水が、全て口から吹き出してしまった。
「男性の競争心もあるし、女性の心配りも忍耐力もあります。才能のある珍しい人材ですよ。」
闫雅静の表情は真剣そのものだった。
「配属させるなら営業部だな。」
顧海は軽く言った。
「しかし顧客は嫌がるだろう。」
「でも、男性じゃないんだし良いでしょう?どうしてそんなに男性を嫌がるの?彼を入れれば、あなたがゲイじゃないって事も証明されるじゃない。」
顧海は顔を上げて闫雅静をちらりと見た。その髪は美しいストレートだ。数秒後、顧海の瞳は元に戻った。
「仕事の時間だ。パソコンに入れた会議記録を資料にまとめろ。」
闫雅静はコップを置いて、顧海のパソコンをつけた。しかし、どのフォルダを開いても顧海の言っていた会議記録は見つからない。
「顧社長、無いですけど。」
顧海は目を細めた。
「俺のパソコンに入っているかもしれない。昨日の会議に持っていったから。」
「えっと……開けて大丈夫ですか?」
闫雅静は控えめに尋ねると、顧海は軽く答えた。
「どうぞ。」
電源をつけると、ディスクトップが表示された。闫雅静は目の前の写真を見ると、嬉しそうに笑った。
「顧社長、この写真を見ると、初めて会った時のことを思い出しますね。」
顧海は8年間、1度だって変えていない写真だ。
「この男の子は誰?」
何気なく闫雅静が尋ねた。
顧海がディスクトップを見ると、そこには何年も記憶の奥底に閉じ込めていた人がいた。画面の中に居るはずなのに、まるで本当に生きているかのように微笑みかけてくる。
「長い間会ってない……兄弟だよ。」
「会ってない?どうして会えてないの?」
闫雅静は顧海がこの話題について話したくないことに気づき、すぐに話題を変えた。
「これって、青島で撮ったの?」
顧海は頷いた。
「あぁ、お前と青島で会った頃のだよ。」
闫雅静はちらりと見るつもりだったが、一度見ると深く考えずには居られなかった。
「この写真、本当にいいわね。あなたが仏様のようだもの!」
「仏だって?」
「こんなハンサムな仏がいるか?」
「……社長、顧社長!顧海!!」
闫雅静が叫ぶと、ディスクトップを見つめたままだった顧海がやっと元に戻った。
「どうした?」
闫雅静は優しく微笑んで言った。
「ねぇ、聞きたいことがあるの。」
「どうぞ。」
「あの時かけた香水は、上手くいった?」
顧海は冷笑した。
「辞表を準備しろ。馬鹿な副社長はどうも辞めたいみたいだな?」
闫雅静は素直に黙って、顧海のパソコンファイルを探した。
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早朝のゴビ砂漠はとても寒い。淡いオレンジの炎が空を貫いた。
若く、ハンサムな空軍少佐は鋭い目で冷たく叫んだ。
「攻撃!」
その瞬間、数十機の戦鷹が空に向かって旅立ち、北京軍区空軍所属パイロットの長距離実弾攻撃訓練が始まったのだ。これは単なる飛行訓練ではなく、彼らの目標は何千マイルも離れた砂漠のどこかである。どこにでも潜んでいるミサイル攻撃、レーダーへの干渉、そして目標領域での空中戦。他にも様々な危険を背負いながらの攻撃訓練では、誰もが殺意を潜めていた。
少佐の乗っている単独戦闘機は、攻撃陣全体をリードし、地上ミサイルを的確に攻撃した。
「急速急降下!」
少佐の命令は、命令を待っていた空自パイロットの耳にまるで爆弾のように届いた。
その瞬間、少佐の戦闘機に続き数十機の戦闘機も、驚異的な速度で地上へと急降下した。ゴビ砂漠のラクダの棘がパイロットの前で舞い、飛んでいる塵がナイフのように翼を横切った。ロケットは標的に向かって飛んでいき、大きな音で標的を破壊すると、10メートルもの砂を舞い上げた。
訓練の最初の任務を終えると、少佐が戦闘機から出てきてマスクを外し、そのハンサムな顔を見せた。
「隊長、水をどうぞ。」
少佐が水のボトルを取ると、音を鳴らして飲み干して、ボトルを投げた。
「ありがとう。」
「隊長、勝てますか?」
白洛因の口元は珍しく、笑顔だった。
「当たり前だ!」