第3話 8年ぶりの再会

杨猛と白洛因が会話を弾ませていると、杨猛に向かって1 人の警察官が近づいてきて、資料の束を投げつけてきた。
「来週の報告書だ。できるだけ早く支局に送れ。」

杨猛は怒りながらその資料を拾うと、ため息をついた。
「こんなの書かずに1日中因子と話してやる!」

「送ってってやるから。外に車を停めてある。」

「本当!?」
杨猛は途端に幸せそうになった。
軍用車両に乗るの楽しみだったんだ!」



運転中の車の中で杨猛は尋ねた。
「ねぇ、因子はどんな戦闘機でも運転できるの?」

白洛因はしばらく何も言わなかったが、静かに答えた。
「大体はな。」

「じゃあなんでヘリコプターで来なかったの?」

「あれは緊急時にしか乗れないんだ。何でもない日に使うことは出来ないし、停める場所もないだろ。それにあれはそんなに簡単じゃないんだ!」

杨猛は嫉妬するような表情をした。
「因子はかっこいいよね。」

白洛因がニヤリと笑った。
「条件を満たせば今からでもパイロットになれるが、来るか?」

杨猛は首を横に振った。
「嫌だ。」

「本当に羨ましいよ!職場だって羨ましいし。毎日パトロールして、報告書書いて、偶に緊急事態が起きて、数人送って解決するだけだもん。」

「そんなに簡単な仕事なのか?」
杨猛は目線を泳がせたあと、白洛因の方を向いた。
「でもお前の仕事に比べたら、楽な仕事だよ。」

白洛因が黙っていると、杨猛がまた尋ねた。

「因子、軍隊では何が大変?」

「お前が思ってるほど流血沙汰はないよ。最初は大変だったけど、今はもうなにも感じない。」

「でも、どうして入隊したの?しかもパイロットなんて誰でもなれるものじゃないでしょ?なりたい人だって大体なれないらしいし。それにお父さんも軍隊の人だし、求められるものも高いはず。兄弟、もし戦争が起こったら、お前を頼りにしてるよ!」

2人が話しているうちに門に着いた。白洛因は車を停めた後、杨猛の後を追って公安局へと入った。

「あっちだよ。」
杨猛は白洛因に言った。

白洛因は杨猛に従って歩いていると、そう遠くない距離にいる2人を見て驚き、突然足が凍りついたかのようにその場から動けなくなってしまった。

「副局長はいなかったの?」
闫雅静は顧海を見てそう言った。
「事前に連絡しなかったの?」

顧海は歩きながら言った。
「緊急事態があったらしく、1時間後に戻ってくるらしい。」

「ここで待ってる?」
闫雅静はしっかりと顧海について行った。

「明日また来る。」

顧海はいつも早足なので、闫雅静が隣を歩く時は急いで歩かなければならなかった。しかし、顧海が突然足を止めたので、闫雅静はふらついて顧海にぶつかってしまった。

顧海が腕を伸ばして闫雅静を支えてくれていたので、転ぶことは無かった。

「ちょっと、突然なに?」
闫雅静はしっかりと立ったあとに尋ねた。

顧海の目は真っ直ぐと白洛因の事を見つめていて、お互いの目が会った瞬間、周りの空気も止まってしまったかの様だった。しかし2メートル離れた距離をどちらも埋めようとはせず、挨拶するのすら忘れてしまっていた。

杨猛が白洛因を叩いた。
「あれ顧海じゃない?」

白洛因は夢から覚めたように顧海に目を向けると、突然さっきまでいた世界とは違う場所にいるような感覚だった。

本当に8年経ったのか?

まるで昨日まで彼と会っていた様な気がして、今日彼を見ると、まるで別人のようだった。顧海の顔はあの時よりも大人びていて魅力的で、スーツを着た姿は落ち着きを持ち安定している。いつものあの鋭い目だって知っているはずなのに、白洛因は顧海の心だけが分からなかった。

顧海の目に写った白洛因は、記憶に残るいつもの笑顔は無く、顔色の悪い我慢ならない顔だった。今だって横を見ればいる気がする姿は、実際には長い間失われていたのだと痛感する。

白洛因が先に顧海の元へと足を進めて、腕を伸ばして抱き締めた。

手を離した瞬間、顧海にからかわれた。

「海外に数年居ると、こんなにも人は変わるんだな。」

白洛因は心の痛みを隠しながら、口角を上げ続けた。

「お前は背が高くなったな。」

それを聞いて顧海は冷笑した。
「骨折して高くなったんだ。」

8年前の交通事故を思い出して、白洛因は未だ不安が残っていた。

顧海は白洛因の頬を撫でて言った。
「お前は成長したみたいだな。」

「海外が俺を成長させてくれたんだ。」

杨猛はこの会話を聞いて驚いていた。
ーこの2人は何を言ってるの?

闫雅静は白洛因を見つめながら、まるで知っている様に感じていた。そして突然思い出すと、興奮しながら顧海の腕を掴んだ。
「ねぇ!この人ってディスクトップの……」

「兄さんだよ!」
顧海は闫雅静の言葉を遮ってそう言った。

8年前に顧海に3日間お兄ちゃんと呼べとせがんでも一度だって呼んでくれなかった。しかし、今こうして顧海に"兄"と呼ばれると、白洛因の心は冷たくなった。

杨猛は闫雅静を見つめたあと、我慢できなくなって尋ねた。
「この人は?」

「そうだ、紹介するのを忘れてたな。」
顧海は闫雅静を突然引き寄せて、笑ってないような笑顔で白洛因を見た。
「俺の婚約者だ。お前の未来の妹になる。」

白洛因の心は揺れたが、しかし8年間の訓練は無駄ではない。彼の心理的持久力は戦闘機に乗るのにも必要な事なのだ。

「いいじゃないか。結婚式には招待しろよ。大切な式にお兄ちゃんを忘れるなよ?」

顧海は微笑んだ。
「他の人は忘れたってお前は忘れないよ。お前が俺たちを引き合わせてくれたんだからな!あの時あの香水が無ければ、俺は恋に落ちたことにも気づけてなかったよ。」

白洛因は平然と答えた。
「写真を撮る時は気をつけろよ。俺の妹を海に落とさないようにな。」

「安心しろよ。こいつが落ちたって俺が助けるから。」

2人はお互いの目を見つめ合いながら楽しげに話していたが、他人の目に映るほど、2人の顔は仲が良さそうには見えなかった。

杨猛はなんだか我慢できなくなって、空気を変えるために話しかけた。
「民事局に行ってきて証明書を貰ってこないとね。さっき夫婦は離婚届を貰ったんだから、2人は幸せにならないと。」

顧海は杨猛をちらりと見た。
「今は高いところで話してるんだ。お前が話したところで届かないぞ。」

杨猛は最初、理解できなかったが、顧海を見上げて、彼が自分を見下ろしているのを見て、一瞬で理解した。
ーくそっ……高い……高い……

「お前は?まだ相手がいないのか?」

顧海がそう尋ねると、白洛因は認めた。

「あぁ、そうだよ。」

「貰い手がいないのか?」

白洛因が口を開く前に、杨猛が先に話し出した。
「因子に貰い手が居ないって?因子はなぁ、一番……あ!……」

白洛因が杨猛の腕を掴み持ち上げると、杨猛はもう続きを言えなかった。

「杨子、どうしてここにいるんだ?」

杨猛の元同僚はここに転勤していて、この姿を見られる訳にはいかず、仕方なく黙った。杨猛のことを外に引っ張っていると、後ろからからかう声が聞こえた。

「何の一番だって?」

顧海が故意に尋ねると、白洛因は歩みを停めて、冷静に言った。

最高経営責任者だ!」

「嘘!」
闫雅静は叫んだ。
「その若さで外資系企業の最高経営責任者に?」

白洛因は顔に厚い皮を被って笑うと、顧海に尋ねた。
「お前は?今何やってるんだ?」

「俺は才能がないから中小企業の社長だよ。」

白洛因は顧海の謙虚な表現を見たことがなかった。まだ少し爪が甘いが、こんなにも人を敬うのが上手になったのかと、白洛因は驚いた。

その時、杨猛が遠くから叫んだ。
「因子、行かないの?早く戻らないと。」

白洛因はもう一度顧海を見た後に答えた。
「すぐ行く。」

顧海は分かったかのように頷いた。

横切った瞬間、2人の目には動揺が現れたが、それでも表情は穏やかなままだった。

白洛因は杨猛と外に出ると、タクシーを拾った。

「車で来たよね?」
杨猛は驚いたようにそう言った。
「車で帰らないの?」

「また戻る。」
白洛因が静かにそう答えると、杨猛は更に混乱した。
「どうして?」

軍用車両。」

杨猛は振り返って、歩いている顧海を見て納得して、素直に白洛因とタクシーに乗った。車に乗った後、白洛因の目は窓の外を見つめていたので、杨猛は彼の表情を見ることができなかった。

「因子。」

「なんだ?」

「入隊した事、顧海に伝えないの?」

白洛因が杨猛の方に振り返ると、その目は落ち込んでいる様だった。必死に隠そうとしても、長い間一緒にいた杨猛には分かってしまっていた。

「見つけられたくないの?」

「違う。……聞かないでくれ。話す時が来たら、教えるから。」



顧海は車に乗った後、ゆっくりと運転し始め、ハンドルを指で叩いた。運転しながらぼんやりと外を眺めたまま、何も言わなかった。

「顧社長、私のことを婚約者だって言ってたけど……何が起こってるの?なにも分からないんだけど。」

顧海の顔が突然暗くなり、突然ハンドルを殴り、車が揺れた。

闫雅静は大学在学中に偶然、顧海と再開し、今まで5年以上も顧海のそばに居たが、こんなにも感情を表に出す顧海を見たのは初めてだった。

「別に……責めているわけじゃないの……」
闫雅静は言葉を迷いながら話していた。
「冗談だってことは分かってるわ。聞いたのにも特に意味は無いの。話したくないなら聞かないわ。」

話している途中で、顧海は運転を再開し、道を急いだ。

闫雅静の心拍数は速度が上がると共に段々と速くなっていく。顧海は隣を走る車を追い越し続け、突然ブレーキを踏むのを繰り返していた。……闫雅静は説得した。
「顧社長、こんな危険な運転やめて……」

話していると、急に車の屋根を開けて、冷たい風が入ってきて、闫雅静は呼吸困難になった。

「ちょっと!……なにしてるの!?今は冬だって分かってる!?顧社長……顧海……!!」

顧海が振り返って一言だけ返した。
「ちょっと黙ってろ。」