第4話 止められない運命
夜、白洛因が寝ようとしていた時に、上官からの電話がかかってきた。
「小白!明日、軍事訓練参加メンバーで打ち上げを行う。お前も絶対来いよ!」
白洛因は黙っていたが、しばらくして尋ねた。
「どこでやるんですか?」
国際会議展示場5階の宴会場を予約したと言われてしまえば、断る言い訳も思いつかない。若い兵士たちは外に出て遊びたいだろう。しかし訓練に関係の無いものであれば、白洛因は基本的に参加したくなかった。
「あの、行かなきゃダメですか?」
白洛因が無気力に言うと、上官は笑った。
「副司令官なんだから部下ともコミュニケーションを取れ。お前が怖すぎて、部下は頭を上げられないらしいぞ。」
白洛因は眉を下げた。
「そんなにですか?」
「鏡で見てこい!」
白洛因が素直に鏡の前に立っていると、上官の声が聞こえた。
「軍服を忘れるなよ。写真を撮るからな。」
「はい、分かってます。」
電話を切り、白洛因は鏡の中に映る自分を注意深く見て、心の中で呟いた。
ーそんなに怖いか?
怖さを軽減するために、シャワー後に髭を剃ろうと決めた。
ちょうど髭剃りを手に取った時、ドアを叩く音が聞こえた。
「誰だ?」
「隊長、私です。」
刘冲の声だったので、白洛因はすぐにドアを開けると、厚い綿の服を持ち肩に雪が積もった刘冲がいた。
「どうした?」
白洛因がそう尋ねると、刘冲は服を白洛因に無理やり持たせて、そのまま何も言わず、寒い外へと走って行った。
白洛因が服を見ると、それは洗濯された軍服だった。明日着なければならないのに取りに行く時間が無く、刘冲に頼んでおいたものだ。外出の手間を省けたので、白洛因の心は暖かくなっていた。
顧海の会社の年次総会は本日開催される。国際会議展示場5階の、白洛因達の会場の隣で開催されている。
毎年この総会は、若い女性社員最も幸せな瞬間だった。評価を与えてもらえるだけではなく、社長にお近づき出来るかもしれない絶好の機会だ。アイコンタクトだけでも出来れば、彼女達は何日間も幸せになれる。女性社員は自分を着飾る準備に忙しく、この機会に社長の気を引こうとしていた。
この会場には美女だけが集まり、それも全員着飾っている。女性のウェイターは呼ばず、全て男性に変えてもらった。
会社に長い間属している社員は男性と全く接触できていないので、誰もがウェイターのことをじっと見ていた。
顧海は大まかな指示を出すだけで、細かいことは闫雅静が決め、監査と記録も担当している。時々微笑んで拍手を送るだけで、殆どは冷たい顔をしていた。
格式ばったものは終わり、やっと夕食の時間となった。ビュッフェ形式なので自由に行動でき、多くの美女がこの機会にと顧海に近づこうとした。
食べている途中で、突然ある美女が廊下から帰ってくると、興奮した面持ちで周りの社員に言った。
「トイレに行ったんだけど、隣の会場をちらっと見たら軍服を着た男性が沢山いたの!しかもパイロットよ!それにイケメン!!」
「本当に!?」
美女は冗談だと思っていた。
「そんなにたくさんの男性がいたの?それにしたって興奮しすぎじゃない?」
「嘘じゃないわ!本当にイケメンだったの!信じられないなら行って見なさいよ。戻ってきたらあなたもこうなってるわ。」
美女は信じていなかったので、意気揚々と出ていったが、すぐに戻ってきた。
「なんてことなの!とってもハンサムな将校様がいらっしゃったわ!ドアの近くに座っていて、私のことをちらっと見たの……あああ!!もうずっとドキドキしてるの。……もう1回彼のことを見てこないと。」
そう聞くと、何人もの美女が一斉に出て行った。
白洛因はドアの近くに座っていると、突然背中に冷たい風を感じて振り返ってみると、ドアが閉まっていなかったので、閉めようと立ち上がった。ドアの近くに立つと、彼を見ているたくさんの女性は背筋が凍って、急いでドアを閉めた。
美女達は急いで戻ると、その噂を広めた。
会場に居た全ての上官が去り、何日間も恋人に会えていなかった兵士達は彼女にメッセージを送っていた。そしてそれを他の兵士に見せびらかし騒いでいる会場に、1人のトイレに行っていた兵士が戻ってきた。全員に向かって3回笛を吹き、会場が一瞬で静かになると、誰もが不思議な顔で彼を見た。
「……私が何を見たかご存じですか?」
誰もが期待して彼のことを見た。
男はテーブルを叩いて笑った。
「隣の会場で会社の年次総会をやってたんだが、全員美女でした!しかも社長がその美女を独り占めしてるんだ!独身の人は……わかってますね?」
そう言い終えると、会場全体が沸いた。
「急いで外に行くぞ!こんなの取りこぼしたら次がいつあるか!」
「とりあえず2人連れてけ!身長の高いイケメンをな!」
「2人で足りるか?少なくとも20だろ!」
5分間そんな喧嘩をしていると、上官が声を出した。
「座って食え。」
今まではしゃいでいた顔がその一言で粉々に殴られ、ため息がどこかしこで溢れた。
上官はハッキリと言った。
「誰か1人を送って美女を誘って来い!」
そう聞くと、凍えていた会場がまた一気に沸いた。
「ハハハッ………さすが上官!ご配慮に感謝します!!」
上官は微笑んだが、誰が誰だか分かっていなかった。
誰を連れていくか会議すると、 全員一致で白洛因に決まった。空軍の最初の派遣兵士は、ドアの前で立ち止っていると、先に美女たちが出てきた。
このような幸せな機会を他の人が体験していたのならは話は別だが、白洛因には耐えきれず、歯を食いしばって逃げ出したかった。
その会場の2つのドアは大きく開けられていたので、白洛因は足を上げて中に入った。何を話しているかまでは分からなかったが、マイクを持って話している闫雅静を見た。白洛因が会場の中心に目を向けると、美女に囲まれている顧海を見つけた。まるでそれは接待を受けている様だ。
白洛因が頭を下に向けると、肩章があり、それを見た瞬間緊張が走り、美女など目には入らなかった。
白洛因のいた会場の誰もが、白洛因の帰りを楽しみに待っていた。
白洛因はハッキリと、それが真実であるかのように言った。
「嫌だと。」
悪い知らせを聞くと、兵士達は涙を流した。
もう一方の会場の女性たちがまた話し出した。
「さっきのイケメンな将校様が来てたわよ。」
「騙してるんじゃ無いでしょうね?本当だったら連れてきなさいよ!」
美女は狂いながら、真っ直ぐと顧海の前に立った。
「顧社長、隣の会場の方を誘ってもいいですか?双方の交友関係を広げるいい機会だと思うのですが。」
顧海は興味が無かった。
「好きにしなさい。」
白洛因が椅子に座った途端、周りから歓声が上がった。周りを見渡せば、ドアに美女たちが立っていた。
「美しい方、部屋を間違えたのですか?」
兵士は誰かが話し出すのを待てずに話しかけると、その美女は白洛因の前に立った。
「隊長さん、あなたの所の兵士と私の所の社員と社交パーティをしませんか?」
長期間女性と話していない兵士達が、長期間男性と関わっていない社員に会うと、思っていたよりも意気投合していた。着飾った美女達は我先にとお目当ての兵士を誘惑した。
イケメンは多いが、コミュニケーション能力が低すぎた。話題を見つけたように1人の兵士が叫んだ。
「副司令官を呼びましょう!副司令官は歌がとても上手いんです!」
これを聞いた途端、その場にいた男女全員が噂の副司令官を探したが、見つからなかった。
白洛因は1時間近くトイレに座っていたので、胸の圧迫感と息切れに耐えられなくなっていた為、もう戻り、上官にちゃんと説明をしようと決めた。
個室から出て、手を洗っていた。
隣で誰かが手を洗っていたが、白洛因は気にする余裕もない。手を洗い終えて顔を上げ、鏡を見ると、全身が凍りついた。