第204話 息子の家
最近、軍ではなにも悪いことが起きない。顧威霆はその日突然、白洛因と顧海が住んでいた家に向かうことに決めた。
ドアを開けると、長い間窓を開けていないからか、部屋からくすんだ香りがした。顧威霆は窓を開けて、外の賑やかな商店街を見ると、車は常に流れている。車を降りて歩く2人を見て心臓が一瞬止まったが、よく見てみると別人だった。
バルコニーに置いてある鉢植えの花は、ほとんど枯れてしまっていたので、投げられたジョウロを手に取り水をやった。キッチンはまだ使えそうだったので材料を中に入れようとすると、塩が入っている箱の蓋が開いており、固まってしまった塩の中に小さなスプーンも入っていた。顧威霆は顧海が大きな手でこのスプーンを握っている姿が想像できなかったし、ここに静かに立って退屈なことをしている姿も想像できなかった。
葉物野菜は既に枯れてしまい、バスケットに目を向けると、じゃがいもはカビが生え、黒い斑点が出ている。ナスは指と同じくらいになっており、玉ねぎだけは状態が良かった。全てを出すと、カゴの底が腐っていて、冷蔵庫を開けると調理済みの料理、飲料、漬物……沢山入っていたが、全てしっかりラップされていた。
おそらく連れ去られる前、豪華な食事を食べようとしたが間に合わなかったんだろう。
幸い、バスルームは清潔でトイレカバーも出る前に交換されていた。浴槽は使用する度に掃除されている。洗面台にはハゲたアヒルがいた。きっと元々はフサフサだったんだろう。棚には2人用の洗面用品が置かれており、洗顔料のボトルは満杯に入っていた。ボトルを手に取ると、2人のスキンケア製品が混ぜられていることが分かる。顧威霆は何気なく歯磨き用のコップに目を向けると、顧海の写真が印刷されていて、顧海の顔は唇を尖らせている。。白洛因の写真はもうひとつのコップに印刷されていており、同じように唇を尖らせていた。顧威霆が2つのコップを合わせると、ふくれっ面の2つの唇がキスをした。
この2人の男が本当に俺の息子だとは認めたくないな!
寝室は片付けられていて、彼が前に来た時よりもスッキリとしていた。厚い毛布、長い枕、寝具の配置を見るだけで2人がどう眠っていたのかを推測できる。
左側のベッドサイドテーブルを見ると、同じ色の物が入った箱が置いてある。右のキャビネットを開くと、色んな種類のローションが入っていた。
顧威霆はベッドの端に座って、ここからコテージを静かに眺めると、心の中の気持ちを整理した。
チベットに来てから9日、2人はほとんどの時間を観光に費やしていた。様々な景色の綺麗な観光地を散策し、疲れれば時々買い物に行って、地元の風習を味わっている。
顧洋が電話をした時、2人は牛革のボートに乗って、ヤムドロック湖の美しさと、山々を眺めていた。
今日の湖はとても風が強く、口を開けて呼吸しなければならない。
「おい。」
顧洋には風の音だけが聞こえていて、それ以外は何も聞いていない。
顧海は大声で電話先へと話しかけた。
「兄さん、どうした?」
「叔父さんが2人に干渉しないと約束した。急いで戻れ。」
「なに?なんて言ったんだ?」
顧洋はそれを繰り返さずに、電話を切った。
白洛因は顔の半分を服に隠しながら、顧海が電話を切るのを待ってから声をかけた。
「どうしたんだ?」
「わからない。父さんがって……」
顧海は電話をポケットに入れて、さりげなく言った。
「誰も追ってこないな……おじさん、前に進んで!」
顧洋は2日後にまた電話をした。
「北京に着いたか?」
顧海はその時眠っていた。
「なんで北京に?」
「出発してない訳ないよな。」
「出発ってどこに?」
顧洋は口調を固くしながら聞いた。
「今どこにいるんだ?」
「チベット!」
顧海は欠伸をしながら座った。
「3日やるからすぐに北京に戻れ。」
顧海の眠っていた脳みそがそれを聞いた瞬間に目覚めた。
「北京に?なんで北京に戻るんだ?」
「2日前にも言っただろ。聞いてなかったのか?」
「電話してきた時、湖に居たんだ。風は強いし水鳥が鳴いてて、ハッキリ聞こえなかったからもう1回って言ったろ。」
顧洋は冷たく鼻を鳴らした。
「幸せな人生だな。」
顧海はまだ起きていない白洛因の手に触れながら、怠そうに尋ねた。
「どうしたんだ?」
「叔父さんがお前に干渉しないと言っている。人に合わなければならないから5日間だけ与えると。今既に2日経ってるから3日以内に帰ってこい。」
顧海は冷笑した。
「戻って来いって?親切だな!」
「誰のことを言ってるか知らないが、急げ。」
白洛因の体を滑る顧海の手が止まり、表情がやっと元に戻った。
「本当に言ってるのか?」
顧洋は笑った。
「お前は馬鹿なのか?」
顧海は自分の手がまだ白洛因の腹にあったのを忘れて殴ってしまった。白洛因は痛みで起きて怒ろうとしたが、顧海の手が白洛因の髪を撫でたので、またすぐに眠りに落ちた。
白洛因が再び目覚めると、顧海は悲しい顔をしながら椅子に座っていた。
「どうした?」
白洛因は顧海が今朝電話しているのを聞いていたが、ほとんど眠っていた。
顧海はため息をつきながら答えた。
「父さんが俺たちに干渉しないって。」
白洛因は穏やかな表情のまま、ゆっくりと起き上がり顧海をちらっと見た。
「それで、何が心配なんだ?」
「わからない。」
顧海の目は光を失い、憂鬱さだけが残っている。
「……神経病」
白洛因は服を着たあとベッドから降りて、洗面所に行き、歯を磨きながら顧海を見て言った。
「もしかして本当に戻りたくないのか……」
顧海は洗面所のドアに向かって歩き、ドアに寄りかかりながら、その目には邪悪な光が少し混じっている。
「あと何日かここにいるか?」
「いい加減にしろ。」
白洛因は口をゆすいだ。
「もう家に帰りたくない?」
「矛盾」
顧海は口角を上げて一言だけ言うと、落ち着きなく歩いて戻って行った。白洛因が戻った時、顧海は大きなベッドに仰向けに横たわっていた。白洛因も横に寝転ぶと、兄弟は泣くふりをした後、ベッドから飛び降りて荷物を詰め始めた。
家にやっと家に帰れる!!
外の美しい風景だって眼中にはない。
白洛因と顧海は急いで戻ったが、家に着いた頃にはもう4月末だった。白漢旗は白洛因が戻ってくると聞くと、毎日玄関前に立ち、首が長くなるほど我が子の帰りを楽しみにしていた。
その後、2人とも家へ戻ってきた。
早く白洛因を見るために、邹叔母さんは今日店を開けずに野菜をたくさん買ってキッチンに置くと、ドアの前で待っていた。午後2時になると、白洛因の姿を見て、堪えきれなかった涙が零れた。
「私の子よ、外では苦しいことがあったの?小さな顔が、こんな真っ黒になって……」
白洛因はさすがに家族の前で観光していて日焼けをしたとは恥ずかしくて言えなかった。
「はやくおばあちゃんとおじいちゃんに会ってあげて。2人は大晦日に会えなかったでしょう。あの日はあなたに何かがあったのかもと思って一睡もせずに起きてたのよ。私が何を言っても聞かないの。」
白洛因の心が沈んで、急いで祖父母の部屋に行った。
白おばあちゃんは白洛因を見ると、子供のように泣きながら話した。
「おばあちゃんは、お前が居なくなったのかと……」
白洛因は泣いたり笑ったりも出来ない。
「おばあちゃん、俺は大丈夫だろ?春祭りの間、国外に行ってたんだ。学校行事に参加しなかったから、大学には行けない。」
白おばあちゃんは再び尋ねた。
「おばあちゃんの事は考えてくれたかい?」
白洛因は苦しくなって、白おばあちゃんの手を取って言った。
「うん、毎日考えてたよ。」
白おばあちゃんはそれを聞いておらず、同じ質問を何度も何度も繰り返した。
「おばあちゃんのことは考えてたかい?……おばあちゃんのことは考えてくれたかい?……おばあちゃんのことは………」
白おばあちゃんはこの言葉を数え切れないほど何度も、ハッキリと言った。
白洛因は目を真っ赤にしながら、立ち上がってタオルを手に取ると、おばあちゃんの涙を拭いた。
白おじいちゃんの脳血栓後遺症は益々深刻になっており、白洛因のことを見ても、何も言えずただ笑っていた。
顧海は車に向かうと、すぐに顧洋を見つけた。顧洋はドアの近くに立っていて、顧海が座席に座った時、顧洋は笑顔だった。顧洋は彼をぼんやりと見ると、顧海は車を降りて、顧洋に向かって歩いた。
「どうしたらそんな美肌になれるんだ?」
顧海は歯を見せて笑った。
「肌が前より綺麗になっただろ。」
顧洋が冷笑した。
「歯が前より真っ白に見えるよ。」
2人はエレベーターに向かって並んで歩いて、エレベーターがゆっくりと上がると、顧洋は顧海をちらっと見た。顧海もちらっと見たので、兄弟の目が合った。あの日村長が捨てられたことを思い出して、気まずく感じた。
玄関に着くと、顧洋が口を開いた。
「叔父さんは中だ。」
顧海の足音が止まり、顧洋のことを注意深く見た。
「どうした?罠だとでも思ったか?お前の根性はどこに行ったんだよ。」
顧海は冷たく鼻を鳴らして、大きな歩幅で歩き出した。
顧威霆はソファに座って居たが、待望の息子の姿を見ても、表情に変化は表れなかった。
「父さん。」
顧海は静かに呼んだ。
顧威霆は答え無かったので聞こえたかどうかも分からなかったが、おそらく顧海の相手をしたくないんだろう。
顧海は荷物を取って寝室に入ると、床に置いて、服を着替えた。近くに置いてあったコップの水を全て飲んだ。
「干渉しないとは言ったが、お前らを支えるとは言っていない。それをしっかりと理解しろ。」
顧海は心の中で言った。
お前が承諾しようが、お前が問題を起こさなきゃいい。
そう考えがらも顧海は「父さん、ありがとう。」と丁寧に答えた。
この言葉を聞いて、顧威霆の顔が僅かに良くなった。彼は顧海のことをちらっと見た。実は顧海が駆け落ちしてから今まで、彼は密かに顧海を観察するのをやめていた。顧威霆は顧海が本当に外で食べて寝ていると信じているから、可哀想に感じた。顧威霆が顧海が新婚旅行をしていたと知れば、彼は地獄に送られるだろう。
「お前の大学の勉強はどうなんだ?」
「してない。」
顧海は本当のことを言った。
顧威霆は顧海のことをちらっと見て、憂鬱そうな顔をした。
顧威霆の目には不幸が映っている。
「してない?なんでだ?そのまま入試を受けるのか?お前のレベルだったら三流大学にしか行けないだろ。そんなのでいいのか?」
このことについて、顧海は顧威霆に一切話していなかった。彼は顧威霆は理解してくれないだろうと思い、何から話すべきかと考え黙った。
「タバコを消せ!」
顧威霆は怒鳴った。
顧海はタバコを消した。
顧威霆は顧海と向き合うように指を伸ばした。
「提案がある。軍に加わるか、国防大学に入るか。国内に残りたいならこの2つから選べ。」
「俺の人生を勝手に決めるのか?」
顧威霆はイライラし出した。
「私はお前のために最前を尽くしてるんだ!」
顧海が口を開こうとすると、顧洋が遮った。
「叔父さん、とりあえず小海を2日休ませて、大学入試に合格したら話し合いましょう。」
顧威霆の冷たく鋭い視線は長い間顧海を見つめていたが、遂に立ち上がって部屋から出て行った。ドアに着いたら足を止めて、振り返らずに話した。
「キャビネットに入ってたものは捨てといたぞ!」
顧威霆がエレベーターに乗るまで、顧海は歯を剥き出しにして威嚇していた。
「じじい!変態!泥棒!」
第203話 愛してる
ナム湖からの帰り道、2人は八井泡温泉に行った。
ここの温泉は地下数百メートルから湧き出ていて、湯煙が空まで届くようだった。白洛因は少し目がくらんでいると、温泉旅館の店主が出てきて、笑顔でそう遠くない場所に置いてある卵を取って顧海と白洛因に渡した。
「食べてみてください、出来たてですよ。」
白洛因は涎が垂れそうなほど食べたかったが、手を伸ばさなかった。
すると店主は河南の訛りを強くしながら言った。
「まだ置いといた方がいいですかね。」
顧海は手を伸ばしてそれを取り、殻を剥くと、白身は透き通り、柔らかく、家で作っているものほど固くなかった。中の黄身はまだダメだろうと思っていたが、しっかりと火が通っていることが分かり口へ運ぶと、顧海は褒めざるを得ないほど美味しかった。
「この温泉卵、本当においしいですね。」
それを聞いて白洛因も1つ手に取った。
「本当だ、ちゃんとしてる。」
半熟の物はあまり食べなれていなかったので、白洛因は食べるのが怖かった。
「この温泉は卵を茹でれるほどだから、入ったら皮膚がただれるんじゃないか?」
顧海は驚いたがすぐに笑うと、彼の隣に立っていた店主も笑った。きっと笑っている白洛因が可愛かったんだろう。
「馬鹿じゃないのか?誰が沸騰したお湯に入れるんだよ。この温泉はちゃんと人間の入れる温度に下げられてる。屋外プールを見てないのか?あそこは温泉水だから、そこに行くぞ。」
白洛因は我慢できずに言った。
「なんで教えてくれなかったんだよ。」
「こんなの常識だから教える必要なんてないだろ?」
顧海は再び笑いながら言った。
白洛因は急いで卵を取って、更衣室へと歩いていってしまった。
ー長い間バカと一緒にいたから、IQが低下したんだ。
冷めていたとしてもまだ熱くて、白洛因は慣れるのに苦労したが、顧海は泳ぎ周ってから白洛因の傍に戻った。2人はプールの端に寄りかかりながら、湧き水で体をマッサージしていると時折身体に熱を感じた。見回すと雪山に囲まれ、静かな野原と動く羊が目の前にいて、緑の香りが鼻を満たした。この環境で温泉に入れるのは珍しく、楽しかった。
白洛因が目を閉じて休んでいると、突然背中や腰を這う手を感じる。遂に水着の端に滑り込んだので、白洛因が目を開けると、若者のカップルがそう遠くない場所で追いかけて遊んでいるのに気づく。海沿いを歩いているチベット人はまだ数人いたので、すぐにイタズラをする顧海の手を抑えた。
「なにをしてんだ?人がいるだろ!」
顧海は白洛因の耳元に口を寄せた。
「何が怖いんだ?チベット人に怒られたって、どうってことないだろ。」
夜になると外の気温が急に下がった。白洛因と顧海がホテルに戻ると、各部屋には小さな温泉プールがある。ハーブが豊富にあり、その効果で寒さを追い払い疲労を和らげることが出来るという。白洛因と顧海はプールに横たわりながら果物を食べ、話していると、突然辛くなった。
「帰りたくない。」
白洛因は目を閉じて、静かに言った。
顧海は後ろから白洛因を抱きしめて、その手は足の間に触れた。
「帰りたくないならずっとここにいよう。ここで僧侶になるんだ。」
白洛因は顧海の言葉に耳を傾けなかった。彼が10話すうちの9個は信じられない。とても安心できて、何も考えないでいられて、外は広大で平和な世界。2人は小さな部屋で、寄り添いながら、なんでも話した。
顧海の手が白洛因の腰を掴み、ゆっくりと上へ上がりながら優しくマッサージをした。何度か行ったり来たりしていると、遂に胸に触れて、荒れた指が2つの突起を軽く摘んだ。
白洛因の呼吸は荒くなり、顧海に寄りかかりながら、冷たいプールの中で火照る唇で魅了した。
顧海は白洛因の薄い唇にキスをした。最初はプールの底を流れる水の波のように優しく、段々と熱が溜まっていくと下腹部に集まる。2人は黙ってお互いのそれに手を伸ばし、遊んだ。お互いの理性が無くなるまで、ずっと……
顧海は手にボディーソープを出して、白洛因の中に入れ込んでも、白洛因は目を閉じて何も言わなかった。火照る頬だけが霧の中で現実だったが、それすらも幻のようだった。顧海の手が白洛因の足の間に伸びると、くすぐったかったのか白洛因が身を捩った。しばらくすると慣れてきた様で、顧海の手が再び腰に触れ、まず一本差し入れた。
白洛因の閉じられていた目は僅かに開き、顧海の姿を見て息を飲んだ。顧海の指が動く度、白洛因は眉をひそめて喘ぎ声を漏らしていたが、顧海の髪がチクチクと触れるのが堪らなく嫌だった。
高山の温泉にはあまり長時間浸かってはいけないので、2人はすぐに体を乾かし覆い隠した。
白洛因は顧海の身体に手を伸ばし、よりおいしい食事へとしようとした。顧海は白洛因の挑発を感じて歯を食いしばると、反撃する事に決めた。
「まず先に俺を褒めろ。そうじゃなきゃ触るな。」
顧海は白洛因に冷たい目で見られると魂の半分を失ったが、辛うじて半分はまだ手に残っている。
「触るな?じゃあ口でする。」
白洛因は顧海の左胸を口に含むと顧海は息を飲んだ。もう残っている半分の魂も、その半分になってしまっている。もはや4分の1もどこに残っているのかもわからない。
ーけどお前が話さないなら、お前を限界まで追い詰める他ないよな。
「褒めないなら触るな!」
村長は妻を押しのけた。
白洛因はせっかちだった。
ーくそっ、女よりめんどくさい!触れちゃいけないってことは俺を飢えさせて殺す気なのか?
顔を背けても、白洛因の頭は冷酷に顧海の熱い目に向いている。
しかし顧海も負けていられないので、器用な指と舌を使って、白洛因の腰をつついた。これは顧海が開発した場所のひとつで、白洛因は顧海がどんな手段を使ったのかは知らないが、最初はあまり敏感では無かったのに、気づけば顧海に調教されていた。
やっと、白洛因が負けを認めた。
「お前の肌は綺麗だよ。」
白洛因の自分を責めながらため息をついた。
顧海の舌は白洛因の身体を這っていた。
「他には?」
白洛因は言いたいことを飲み込んで、鈍く答えた。
「筋肉もいい」
顧海の手が再び秘密の場所に伸びると、その周りを引っ掻いた。
「他には?」
「まだ欲しいのか?」
白洛因の誇り高い目が顧海を捉えた。
顧海の指が差し込まれ、狭い道を激しく横暴に往復した。しかし、そのどれもが白洛因の弱点にしっかりとあたっている。
「やめろ!」
白洛因が混乱した表情で言った。
「言うか?あ?」
顧海は白洛因の体を押さえつけながら、一本指を増やして、物足りない刺激だけを与えた。
「まだ終わってないぞ。お前が俺を褒めるまで、ずっと気持ちいいところ外すからな……」
白洛因の腰がシーツから離れ、快楽で歪んだ顔が、顧海の目を見つめた。
「………が大きい…」
顧海は故意に眉をひそめた。
「なに?聞こえなかった。」
白洛因は顧海の耳を引っ張って真っ赤にしてやった。
愛し合ったあと、顧海は何かを思い出して、白洛因に向かって叫んだ。
「お前の返事聞いてない!」
白洛因のストレスはここで爆発した。
「何をだ?」
言いたいことまで言わせただろ!!!
これ以上俺になにを言わせたいんだ?!!!
「待て待て……」
顧海は再び穏やかで思いやりのある表情に戻した。
「俺はいつも大切な言葉を言ってるし、さっきも言った。なのにお前から言われた事が一度もない。」
「なにを?」
「この間の夜のことを覚えてるか?酔っ払って、俺が演じたのは……」
「聞きたくない!」
白洛因は急いで言葉を遮った。
「そんなの俺はしてない!!あんな馬鹿げたことするお前が心配なくらいだよ!」
白洛因は、その夜について認めるぐらいだったら死ぬほうがマシだった。証拠があったとしても、そんな愚かなことをした事が無いと言い張る。顧海がそれについて話そうとすれば、白洛因は毛を逆立てた犬のようになってしまう。
「わかってるよ。そのことについて話すつもりはない。終わったあとに言ったこと覚えてるか?」
白洛因は首を横に振った。行為すら覚えていないんだから、その後のことなんて覚えている訳がない。
「俺は愛してるって言ったんだ。」
白洛因は震えて、顧海を見たが、顧海は愛おしい気持ちが溢れた目で白洛因を見ている。
「お前も言う必要があるだろ?」
白洛因は顧海からの視線から逃げた。
「そんなの聞いてない。」
「愛してる!」
顧海は大声を出して言った。
「今のは聞こえたか?」
白洛因は頷いた。
「今のは聞こえた。」
顧海は温泉プールの水が蒸発するまで待ったが、白洛因からの言葉を待てず、白洛因に顧海が愛していると言ったことをもう一度確認した。
第202話 チベットへ
「この車はどうだ?」
豪華なオフロード車が白洛因の前にあり、ランドローバーの特別仕様車だ。
「なんでこんな高い車を?」
「金は?」
顧海は車のドアに寄りかかりながら、なんてことの無い顔に笑顔が隠されている。
「買い替えた。」
白洛因は目を細めた。
「買った?お前の金で?」
お前は俺に持ってた金、全部渡さなかったか?
なんでそれなのに金を持ってるんだ?
馬鹿じゃないのか!
「赤いダイヤのネックレスを覚えてるか?それを俺がどうしたのか知らないのか?」
白洛因は顧海が泥棒になったんだと理解した。
「北京にいた時それを買いたいと連絡があったんだ。2日後にまた連絡が来て、オフロード車も欲しかったし、あれが手元にあっても無駄だろ?金はただの金だろ!」
白洛因は額に汗を浮かべた。
「でも不動産証がないだろ。」
「車を借りるのには金がかかるだろ?買ってもいいが、大学入試まで時間がない。走り回ってる暇ないだろ!」
白洛因は皮肉を込めて笑った。
「ここにいるのに入試受けるのか?」
「今までなにをしてたんだ?あと3ヶ月しかないんだぞ!ほらほらほら、早く車に乗れ。急がないと暗くなる。」
白洛因は動かず、穏やかな顔で顧海を見つめた。
顧海の口がぴくぴくと動き、体が硬直したが、すぐに動き出した。ポケットに手を入れると、カードを取り出して、それをしぶしぶ白洛因に渡した。
「ネックレスの残りの金はまだここにある。」
白洛因の口角が上がった。
「行こう!」
2人は新車に乗って、新しい地へと向かった。
青島からチベットへは、四川チベット道、青島チベット道の2つがあったが、2人は四川チベット道を選ばず、景色が綺麗な青島チベット道を選んだ。トランクには、顧海が調べた資料があり、情報をまとめている。白洛因はそれを確認する担当で、緊急事態の為の対策も準備されていた。
3日後、2人は成都に着いた。幸せが溢れるこの街に目を輝かせて、白洛因は2日間、ここに滞在することを提案した。空は晴れ渡り、2人の目の前には煙のような雪山が現れ始めて、眠っていた神経が突然目覚めた。白洛因は景色を見て、目に喜びを浮かばせながら、顧海の手を取って言った。
「見ろ、チベットカモシカだ!」
顧海が運転速度を緩めて外を見ると、赤茶色のチベットカモシカはそう遠くない場所にいた。強く真っ直ぐな胴体が、高山の広大さとその雰囲気を表している。飛ぶように北へ走る姿は、生き生きとした色彩だった。
「呼吸は大丈夫か?」
顧海が聞くと、白洛因は自分の胸に手を当てて見たが、突然興奮しただけで、特に問題はない。
顧海は車を停めて、白洛因に経口液のペットボトルを渡した。
この経口液は高山病を事前に防ぐためのもので、既に2人は飲んでいる。白洛因はその匂いが本当に嫌いなので、毎回飲む前に歯を磨きたかった。しかし、今日は違う。顧海が強制的に飲ませる前に、白洛因が自分から素直に飲んだ。おそらく美しい景色を見て興奮していたので、そんな些細なことは無視できたのだろう。
「体調が悪いなら言えよ。」
顧海が言うと、白洛因が頷いた。
「大丈夫だから心配するな。早く行こう。」
正午、2人はようやくラサに着いた。
白洛因は興奮してドアを開けて車から降りようとすると、ちゃんと準備をしてから外に出ろ、と顧海に掴まれた。日焼け止め、サングラス、帽子……他にも色々。白洛因は顧海が心配しすぎて騒いでいると思っていたが、数歩進んであまりの日差しの強さに、顧海の言っていることが正しいと気づいた。
チベットに着いてから休む予定だったが、2人は待ちきれず、急いで食べて、大昭寺へ行き、太陽の下で午後を過ごした。門の近くで崇拝しに来る信者立ちを見守っていた。祝福を祈る純粋な瞳、厳格な表情、それらを見た白洛因は、信仰を持たないことは恐ろしいと感じずには居られなかった。
「俺も信仰しないと。」
顧海が突然そう言ったので、白洛因は彼に顔を向けた。
「来世のことを信仰してる人たちだぞ。どうしてお前が?」
「来世じゃなくて、今、この人生でお前と一緒にいたいんだ。」
白洛因の瞳には、隠しきれていない笑顔が浮かんでいた。
「俺がお前を救う仏になってやるよ!」
「ハハハ……」
大昭寺から、2人は地元の有名なチベット料理店へ行った。純粋なビール、独特なバターティー、そして手掴みの羊肉……残念ながらこの味にまだ2人は慣れていなかった為、店を出たあと、お腹がいっぱいにならない、と言いラーメン屋を見つけてラーメンを2杯食べた。
ホテルに着いた時には外は真っ暗だった。チベットでは昼と夜で大きな気温差があり、車を降りると、白洛因は寒いと呟いた。顧海は白洛因の肩を抱いて、2人は並んでホテルへ歩いた。
風呂に入っていると、顧海と白洛因は悲しいことを発見した。日焼け対策はしていたが、肌を太陽に晒しすぎていて、首の後ろは日焼けで皮が剥けていた。しかしそんなことよりも、鏡で自分の顔を見た時、サングラスで隠された所だけが白く残ってしまっている方が悲しかった。
顧海が白洛因に軟膏を塗っている時、心が痛んだ。
「うわ、もう柔らかい肉が見えてる。痛いか?」
「ちょっとだけ。」
白洛因はため息をついた。
その後、白洛因が顧海に軟膏を塗っていると、顧海には明らかな日焼けの跡が無くほんの少ししか赤くなっていなかったため、白洛因はまた、ため息をついた。
「前の綺麗だったお前の肌に、いつになったら治るんだ?」
顧海の目が輝いた。
「俺の肌は綺麗か?」
白洛因は恥ずかしがって言わなかったが、顧海の手は少し荒れているが、肌は未だすべすべとしている。特に太ももはかなり質感が良く、白洛因がベッドへの誘いに乗ってしまう原因はこれにある。
「綺麗だよ。」
これを聞いて顧海は驚いた。
「それだけか?」
「なんで他にも言わなきゃならないんだ?」
白洛因は気にせずに言った。
「なんで教えてくれないんだ?俺はいつもお前のことを褒めるだろ。足が長くて綺麗だ、尻は丸くて大きい、その口は小さくて可愛い……お前が俺の事を褒めたことは?どんなにお前の機嫌がいい時に聞いたって巨根しかないだろ。」
「お前!!」
白洛因は顧海をベッドに押し倒した。
寝る前、白洛因は顧海が布を切っているのを眺めていた。ハサミで真ん中に穴を開けて、それを顔に合わせ、サイズが合わないと切って、切れ味の悪いハサミを交換していた。
「なにしてるんだ?」
白洛因は理解が出来なくて、遂に顧海に聞くと、顧海は目線をそのままにして言った。
「マスク作ってる。」
「マスク?」
白洛因はそれを聞いて更に疑問に思った。
「マスクを作ってどうするんだ?」
「明日出かける時に顔を隠すんだ。」
白洛因は顧海の考えに乗り、目の周りだけが出ているマスクを着けて、顧海の考えを褒めたくなった。
「お前も作るか?」
顧海が元気に聞くと、白洛因は首を横に振った。
「自分用にしろ。明日それを着けてる時は近づくなよ。お互い知らない人のことにするから。」
「これの良さがわからないのか?」
白洛因は鼻を鳴らした。
「良さが分かったとしても、もうお前を好きではいられないだろうな?」
顧海は急いでその布と糸を片付けていると、うんざりした顔の白洛因に蹴られた。白洛因はシーツを綺麗にすると、大きなベッドに横たわった。そう言えば白おじさんが自分の足を褒めてくれたことを思い出し、自分の足に酔いしれながら触れていると、また白洛因に蹴られた。
部屋の灯りが消えても、部屋は照らされて、そして部屋の中には優しい香りもしている。
顧海が灯りが差す方を向くと、白洛因の手にランプがあることが分かった。火は強く燃えているのに、ガラスでその光が静かに和らげられている。顧海がそれを見ていることに気づくと、白洛因は顔を向け、顧海に微笑んで、優しい声で言った。
「見ろ、バターランプだ!」
灯りの中に確かに存在するその笑顔を見ると、顧海の心は暖かくなった。
堪らなくなって白洛因の肩に腕を回して、白洛因の頬に擦り寄った。
白洛因はバターランプを元の位置に慎重に戻して寝ようとすると、突然顧海の手が額に触れた。
「熱がないか?」
「そうか?気づかなかった。」
白洛因がそう言うと、顧海は灯りをつけて立ち上がった。白洛因が何をすべきか尋ねても、顧海はそれが言い終わる前に部屋を出て行ってしまった。しばらくすると、医者が来て、白洛因の体温を計ると、ただの微熱だったので解熱剤を飲むように言われた。
医者がそう言ったって、顧海はまだ安心していない。なにかがあるのかもしれないと恐れて、一晩中寝ずに白洛因を眺めていた。高山で風邪をひくと、肺水腫になると噂を耳にしていたので、この状況は危険だと判断していた。
翌朝早く、白洛因の微熱は完全に治り、2人はナム湖に向けて出発した。
高原の湖は空のように最も美しい。雪山の透き通った涙のように、湖は澄んだ青。しかし湖の中は暗闇で、まるで架空の場所のようだった。湖に傍に立つと、いつもいる世界から離れたように感じて、魂までもがこの純粋な湖の水で洗われているようだった。
壮大な高原を歩くと、野兎、羊……溶ける氷の美しい音が聞こえ、今まで感じていた全ての苦しみが軽くなった。
第201話 大晦日
大晦日、軍事基地は静寂に覆われていて、正月の雰囲気が全く感じられない。
姜圆はため息をついた。
「去年の旧正月には息子もいたけど、今年は2人きりで過ごすのね。本当に悲しいわ。」
顧威霆は姜圆を見て、穏やかに言った。
「今年は1人にしたほうがいいか?来年一緒に過ごせば、悲しくないだろ。」
「嫌い!」
姜圆が怒鳴った。
「あの子が戻ってこないと、私は誰のために生きてるのかわからないの。」
「子供たちはどこかへ行ったが、彼らはお前のものじゃないだろう。彼らが結婚するまで、お前と新年を過ごすのは私だけだ。寂しいと感じるなら、もう1人産めばいいだろう。」
「子供が欲しいと思えば産まれるの?私は1人で出産するの?」
顧威霆は少し微笑んだ。
「手助けできるぞ。」
「あなた……」
姜圆は怒りながら笑った。
「気の毒だとは思わないの?」
「白さんとは違うからな。」
姜圆は頬を膨らませ、美しい顔は赤くなり、薄暗かった瞳が少し輝いた。
「確かに、新しい子を産むのもいいかもしれないわね。小海と洛因はまだ18歳だし、私達も歳を取りすぎてないから育てることもできる。もう1人子供がいれば、もっと人生が充実するかしら?」
「そう思うよ。」
顧威霆は僅かに眉を上げた。
「顧海はもうダメだ。もう1人いれば、希望もあるし、支えにもなるな。」
姜圆の目が光った。
「ねぇ……もし子供が出来たら、甘やかすの?それとも厳しくするの?」
「ペットの話をしてるのか?私が顧海にどう接しているか見ていないのか?」
「そんな……」
姜圆は怖くなり、その顔は青ざめていた。
「あなたは小海をペットだと思ってるの?あなたは厳しくしているけど、どんな子供だと厳しくしなければならないの?」
「とにかくあいつは忍耐力がない。私の発言に耐えることが出来ない。」
「あなたはそう言うけど、お願いされたの?」
姜圆は肌寒さを感じながらそう言うと、顧威霆が冷笑した。
「もし私のルールを守ることが出来ないのであれば、息子の必要はないだろう?そんな息子を持つことでなんの利益があるんだ?」
「なら、先天性疾患の子供は、出産後に殺すの?子供が可哀想だわ…。それなら私は女の子が欲しい。ずっと私のそばにいて、離れると泣いてしまうの。考えるだけで幸せだわ。」
「いつ母性が生まれたんだ?」
顧威霆は姜圆をちらっと見た。
姜圆はため息をついた。
「息子を殴って気がついたの。私が求めるものは理想が高すぎて、子供がいなければ無意味なの。」
顧威霆は茶碗を手に持って、ご飯を口に運んだ。
「私はちゃんとお母さんになれてるのかしら?こんな私に疲れた?」
「疲れても変わらない。問題さえ起こさなければな。」
今年最後のご飯を食べ終えると、顧威霆が姜圆に言った。
「明日から軍と共に行動しなさい。」
「軍と?」
姜圆の目は驚きを表したが、顧威霆が頷いた。
「そうだ、私と一緒に軍にいて欲しい。」
夜中、周りの家は明るく照らされていたが、姜圆は早く寝た。疲れてしまったために、ベッドに横になると、すぐに眠ってしまった。
顧威霆は眠くなかったため、窓際に1人で立ち、眉間にシワを寄せていた。
ーどうしてあんな息子が恋しいんだ?
ろくでなしの自分の息子。白さんの息子。そして爆竹で遊ぶ異常な息子。
顧海は2つの爆竹を手に取ると、白洛因はその場に居たかったが、火花が散ると耳鳴りもして2歩後退した。
鳴り終わっても、爆竹はまだ顧海の手にあり、白洛因の緊張は長引いた。
「2つやるのか?2つ持ってどうするんだ?」
顧海は得意げに言った。
「楽しいだろ?」
白洛因が鼻を鳴らした。
「これって何が楽しいんだ?あぁ、お前の股間につけるのか。」
「お前……」
顧海は怒っている。
「お前の穴に入れてやろうか?」
白洛因は毛を逆立てて、顧海を追いかけて殴った。
「殴るなよ、大晦日にこんなことするのは縁起が悪いだろ。」
顧海は白洛因の首に腕を絡めた。
「まだ花火が沢山ある。もうそろそろ12時になるから急ぐぞ!」
そう言うと、白洛因と顧海は一緒に車に向かって歩いた。
顧海はありったけの花火をトランクに詰め、手に持っているタバコは無視して急いで移動しようとした。顧海は花火を見ると興奮して落ち着くことが出来なくなっており、白洛因を引きずって走った。
白洛因はまだ何が怒っているのか分からなかったが、突然爆音が鳴り、数十発もの花火が夜空に鮮やかに咲いた。満潮では無かった為、近くで爆音が鳴り、不思議な線を描くと、何個かが白洛因の足元で爆発した。顧海の車を見ると、荒れ狂う炎を持っていて、それを投げると、空の半分が赤く染まった。
しばらくして、顧海が言った。
「幸せだな!」
「幸せだって?」
白洛因は叫んだ。
「馬鹿だから分からないのか!下がってちょっと見てみろ!何してるんだ!?急いで火を消せよ!」
顧海が白洛因を掴んだ。
「行くな、喧嘩するのは良くない。治す方が新車を買うよりいいだろ!」
白洛因は苦しんで、彼の顔はしわくちゃになった。どっちにしたって多額のお金がかかる。顧海は彼の顔を見て、仕方がないのになにを苦しんでるんだと馬鹿にした。
「俺は車を燃やせる軍人の息子なんだ。」
白洛因は歯を食いしばった。
事故のため、顧海と白洛因の爆竹解体計画は予定より早く終わり、2人が車に乗った時には、通りが活気づいていて、夜空には色とりどりの花火が咲いた。白洛因は目を輝かせて外を見た。
ーすぐに廃車にして直せば、もっと夜空が綺麗に見える!
破格で交換される運命にあるのもあるが、それらは既に支払われている。
ー勝ち取った幸せを大切にしてみないか?
白洛因が車内のディスプレイを見ると、12時59分だった。白洛因は息を止めて、時間が変わった瞬間、すばやく頭を向けた。
「「あけましておめでとう!」」
同時に口を開き、同時に晴れやかな笑顔を見せた。お互いの顔がお互いの心の後悔を全て取り除くことが出来る。
大晦日を一緒に過ごしたことを、一生忘れない。
3月中旬、天候は暖かくなり、白洛因と顧海はチベットに向かった。
荷物を詰めているとき、顧海はとてもやる気がない。
「八百屋のおばさんは俺を覚えていて、買いに行く度に濡れた野菜を拭いてくれるんだ。」
白洛因はその言葉を否定した。
「買いに行ったって、おばさんは誰のだって拭いてくれるよ。」
「誰が言ったんだ?」
顧海は反論した。
「年が開ける前に買いに行った時、来年も来てねって言って玉ねぎをおまけしてくれたんだ。行かなきゃ、誰が拭いてくれるんだ?」
白洛因は顧海をちらっと見た。
「お前は一台車を燃やしたんだから、お前の孫が野菜を買うよ。」
「なんでそんなに興味無いんだ?」
興味が無いわけでも、お前のように偽善をばらまいているわけでもなく、思ったことを話してるんだ。
悲しんではいけないのか?
ここに3ヶ月以上もいて、毎日起きたら海を見に行って、窓を開けると潮風が流れ込んでくる。
今後こんなきれいな海が見える安い部屋がどこにあるんだ?
荷物をまとめると、2人はここで最後の食事をした。
この時、白洛因はさりげなく、学校について話した。
「尤其はまた北影の再試験だって。」
顧海は顔を上げて白洛因を見た。
「なんであいつに連絡したんだ?」
「違う、学校のサイトで見たんだ。誰かが北影に落ちた3人を掲示してて、尤其の名前もあった。」
「同じ名前だっただけじゃないか?」
白洛因がニヤリと笑った。
「あんな名前が他にもいるのか?」
「確かに。」
顧海は箸を動かすのを止めて、わざと言った。
「あんまりあいつに気を向けるなよ。」
「注目なんかしてなかった。けど一度俺らを殴ってから、忘れられないほどの印象が残ってるんだ。」
「お前それわざとだろ?」
顧海は顔を変えた。
白洛因はそれを当たり前のように受け止め、話題を自然に変えた。
「そう言えば聞いてなかった。お前どの大学に行くつもりなんだ?」
顧海は静かに答えた。
「どこでもいい。」
「どこでも?」
白洛因の顔は少し熱くなった。
「やる気は無いのか?」
「誰がやる気がないって言ったんだ?」
顧海は白洛因をちらっと見た。
「どの大学に行こうがそれはどうでもいい。2年後に起業してから大学に行くんだ。俺はもっと実用的なことを学びたいんだ。理論を聞かされたってつまらない。その辺の道を選ぶより、商売する方が俺にとっていいんだ。」
白洛因には全く信頼できない。
「資金はどうするんだ?」
「計画があるから資金は間違いなく準備できる。まずは小さい会社から始めて、ゆっくり大きくしていくんだ。」
「お前の手に金が入ったら2日で消えるだろ。」
「なんてこと言うんだ!まるで自制心が無いみたいだろ!」
「今までのこと覚えてないのか?」
白洛因は深く疑っている。
顧海は挑発的に眉を吊り上げて、言いたいことが顔に書いてある。
「どういう意味だ?」
「黙って食べろ!!」
第200話 顧海の悪趣味
1分後、顧海が戻って来るのを、白洛因は酔っ払いの目付きで見守っていたが、手に持っているものを見た瞬間に驚いた。彼は顧海が明らかな見た目をしたおもちゃか媚薬とかを持ってくるだろうと思っていたが、その手にはぶら下がってあるのは2つの衣装だ。スケスケな訳でもなくて、変なデザインな訳でもない、至って普通の服。
顧海は白洛因の目の前で服を振って、まるで宝物を持っているかのような表情をしていた。
よく見てみると、60年代のミリタリーコートで、袖口はボロボロ。もうひとつも同じ年代の赤い綿の服で、明るく咲く牡丹の花が2つのプリントされていて、田舎者のような服だった。
白洛因は酔っていたが、頭が弱くなった訳では無い。
ー俺をバカにしてんのか!
それから彼は顧海の両耳を掴んで引っ張り、絶望的な顔をした。
「ミリタリーコートと花柄の服が大人のおもちゃなのか?!!!」
見つけられなかったのも無理はない。
今、目の前で揺れているものを見ても、ここの家主のおばあさんのものだと思ってのだから。
顧海は耳たぶを掴む手を離して、説明した。
「これは演出だよ。」
「演出?」
白洛因は顧海をちらっと見た。
「なんの?」
「俺は……」
顧海は自分を指さした。
「老いた村長役!」
「お前は!」
顧海が続きを言わずにしていると、白洛因は真剣な顔で待っていた。
「惨めな嫁役!」
白洛因が再び顧海に向かって手を伸ばすと、顧海は急いで自分の耳を守った。
「なんで俺が惨めな嫁なんだ?お前がやれば?」
「怒るなって、嘘だよ!」
顧海は白洛因の指を掴んで、神妙な顔をした。
「俺は肩幅がでかいから、この服は入らないんだ。」
「馬鹿にしてるのか?」
白洛因は眉を吊り上げた。
「俺らは服のサイズ一緒だろ!」
「信じないなら着てやるよ!」
そう言うと、顧海は服を拾って、まず片方の腕を袖に入れてから、もうひとつの袖に腕を入れようとした。しかし捻っているだけで、完全に着れてはいない。
「ほら、入らないだろ? 」
顧海は白洛因をなんてことない振りをして見た。
白洛因は目を見開いて驚いていたが、この花柄の服を着ている顧海が面白すぎて、腹を抱えて笑うと、振り向いて頷いた。
「本当に着れないんだな!」
「ほら、嘘なんてついてないだろ?」
顧海は着ていた服を脱いで、白洛因に渡した。白洛因が着てみると丈が短かったが、特に影響は無かった。顧海が足首が絞られたズボンを白洛因に渡すと、それは緑色だったが、何も言わずに履いた。
「なんで花柄の服と緑のズボンなんだ?」
顧海に渡された服を白洛因はちらちらと見ながら言った。
「農民の女性の素朴さと優しさを表さなきゃだろ。」
「やんない!」
白洛因が叫ぶと、顧海は怒って白洛因を見た。
「もう着たんだから変わんないぞ。」
しばらく言い合いをすると、最後には白洛因も同意したので、顧海が部屋を出て行った。
ドアを強く叩く音が鳴る。
妻がドアを開けると、村長が外に立っている。
事前に決められた台詞を、妻が話した。
「村長、こんな遅くに、どうしたんですか?」
顧海は白洛因の馬鹿にした顔を見て、すぐに妻が自分からドアを開けたことが、勿体ないと感じた。
「違う!」
「恥ずかしさと喜びを混ぜるんだ!なぜ恥ずかしいかって?お前は俺を騙してるからだ。なぜ嬉しいか?お前の夫はお前を満足させられないから、俺が来ることを何日も楽しみにしてたんだ。」
白洛因が理解すると、顧海が手を振った。
「もう一回だ。」
そう言ってまた外に出て、しばらくして、またドアを叩いた。
白洛因はドアを開ける時にさっき言われたことを思い出して、笑顔を作った。
「村長、こんな遅くにどうしたんですか?」
さっきのような馬鹿にした顔ではなく、素朴な笑顔を見て、村長は妻の頬に自分の頬を擦り寄せたくなったが、村長のイメージを維持するために、邪悪な考えを捨てた。
部屋へ一歩ずつ入り、ドアが閉まると、軽薄そうな笑顔を見せた。
「旦那はいないのか?」
大きな手が妻の顎を掴んだ。
妻は唇を噛んで話さなかった。実際に彼は台詞を忘れていただけだったが、その表情は拒否を示していて、村長を魅了した。
村長は妻に寄って、吐息を漏らし、首にキスをして、もう我慢ならないと言うような顔をした。
「村長、なにしてるんですか?」
妻が予定通りに体を押した。
村長は悪い顔をして微笑んだ。
「なにが言いたいんだ?」
妻の服に手を差し入れた。
「なぁ……下着着てないのか?俺が来ることを知ってたんだろ?」
白洛因は正直に言った。
「始まる前にお前が脱がしたんだろ。」
顧海は動きを止めて、暗い顔で白洛因の尻を叩いて言った。
「ちゃんと演技しなきゃダメだろ?お前は今誰を演じてるんだ?お前は今惨めな妻で、俺は村長だろ!」
白洛因は顧海の胸を殴った。
「もうやだ!やめる!」
「わかったわかった、脱がした、俺が脱がしたよ。村長が妻を犯したくて脱がしてでいいな?それでいいよな?」
白洛因はすぐに演技に戻った。
「村長、夫がすぐに帰ってきてしまうので、早くしてください!」
「いつ帰ってくるんだ?ちょうどいい。本当の夫が誰なのか見せつけてやるよ!」
そう言うと、妻のズボンを脱がした。
妻は脱がそうとするその手を掴んで、物乞いするような表情で村長を見た。
「村長、やめて、もう夫は疑い始めてるんです。怖い……」
「怖い?他人に妻を愛させてるくせにか?」
ーどんな話だよ!!
妻は脱がそうとする手を何度も止めようとしたが、村長はどんどんと脱がせていった。
「ビッチちゃん、何百回をしているのに、見せるのが恥ずかしいのか?足を広げて善がれよ。そうじゃなきゃレイプしてるみたいだろ!」
「村長、家族が帰ってきました!」
妻が突然叫んだ。
村長は獣のように微笑んだ。
「見せつけてやれよ!」
「違う、本当に誰か来てる!ドアをノックする音が聞こえた!」
顧海は白洛因が自分で台詞を作ったんだと思い、妻がパニックになったとしても、そのまま村長として押し通すべきだと思った。だから村長は妻の服を脱がせ、大きな手で妻の胸を揉んだ。
「本当にノックしてる!」
妻が抵抗するので村長が抑える。……悪い雰囲気になり、村長が妻の足に手を伸ばそうとしたが、遂に顧海は悪趣味から目を覚ました。
"ドンドンドンドン"
顧海と白洛因が目を合わせた。
ー誰だ?本当に夫が帰ってきたのか?
顧海はドアを開けるために立ち上がったが、白洛因は酔っ払っていたので、脱がされた服を着直し、外されていたボタンもつけ直して、玄関先に立ち、お迎えをした。
ドアを開けた瞬間、顧洋は夢を見ているのかと思った。
レインブーツにミリタリーコート、緑のパンツと赤い花柄の服。
ーこれは……なんだ?
白洛因は深く役に入り込んでいたので、戻ってこれず、顧洋を見てびっくりした。
「役に立たない夫、帰ってきたのね……」
顧洋の冷たい顔には漫画のように無数の黒い線がかかり、それはほとんどネットのようになっている。
顧海は顧洋の顔を見て、目を覚ました。
なんでこんな時に来たんだ?
ちょうどこれからってときだったのに!
心の中でそう吐き捨てていると、突然、妻が腕を組んで、村長は追悼の意を表するためにここに来て、そして自分たちは付き合っていると説明した。
顧海は焦って、白洛因を引き戻すために怒鳴った。
「よく見ろ、こいつは誰だ?」
白洛因は驚いて顧海を見て、その後もう一度顧洋を見て、その後もう一度顧海を見た。
「あれ、同じ人が2人だ。この人が役に立たない夫で、お前も役に立たない夫だ!」
完全に、この酔っ払いはおかしくなっている。
顧洋はこの部屋からワインの香りがするのに気づき、なぜ2人がおかしなことを言っているのか気づいた。明日北京に帰るために、ここに寄ったが、彼らのこの素晴らしい姿を見て、もう何も言うことは無いと思った。顧海を見ずに、白洛因の花柄の服の袖に触れてから、顧洋は去っていった。
顧洋が去っても、白洛因はしばらくドアを見つめていたので、顧海は嫉妬していた。妻を抱き締めて、無理やりキスをする。
「見るな、あいつはお前の男じゃない。」
しかし、白洛因は未だに理解していない。
「じゃあ今出て行ったのは村長?」
その一言で顧海は突然気が変わった。
「そうだ、村長だよ。それで俺が役に立たないお前の夫だ。」
そう言うと、白洛因が動き出したので、顧海は彼の手を掴んだ。
「どうした?浮気にはまったのか?目の前にお前の男がいるのに、他の男を追うなよ。今夜は沢山愛してやるから。」
瞬間、顧海の役は村長から役に立たない夫に変わった。
「よく聞け。今俺は役に立たない夫で、お前はその妻。俺は勃たないから見てるだけだ。だからお前は妻の役割として、俺に毎日見せるんだ。」
顧海はこれを言った後に、彼がどうするのか考えていたが、白洛因は積極的に服を脱いでベッドへ横になり、タバコに火をつけた。
白洛因の胸より上は赤く火照り、煙を吐き出すと真っ赤な瞳で顧海をちらっと見て、その男らしさで魅了した。
白洛因は真っ直ぐで長くセクシーな足に唯一ズボンを履いているだけで、その足を開いて見せると、柔らかな足の間にわずかな膨らみがある。まだ小さな怪獣は眠っていて、目を覚まさせなければならない。
白洛因はゆっくりと指でタバコを掴み、その手は足の間で止まり、ゆっくりと揉んだ。彼の呼吸のように重く遅く、口から吐き出す煙が部屋に充満した。瞳は傲慢で怠惰だが、しかし見ることしかできない。タバコを加えた口は、見るものを軽蔑し、いじめるかのように笑っている。
顧海の瞳孔は開き、鼻からは血の香りがして、白洛因の姿は彼を夢中にさせていた。
将来何があっても、ワインを2本買って家に置いとかなければ。それさえあればセックスがより良いものになる!
白洛因の足の間にある小さな怪獣がゆっくりと目を覚まし、ズボンに浮かぶ膨らみは大きくなっていた。白洛因はズボンに手を入れて、首を晒し喘ぎ声を漏らしながら、手の動きを早めた。
彼の口に残る煙は半分だけで、顧海は耐えて、未だ指に挟まっていたタバコを奪い、吸って吐き出すと、すぐに飲み込まれた。
白洛因はズボンを下に引っ張ったので、握っているのも濃い毛も見えたが、何を握っているのかがわからない。顧海はその場所をズボンが焼けてしまうのでは無いかと疑うほど、熱い視線で見つめて、手の中に隠された秘密の場所が晒されるのを待った。
タバコをギリギリまで吸うと、白洛因は灰皿へ押し付けて、顧海をちらっと見た。
顧海はもう我慢することが出来ず、虎のように白洛因に襲いかかり、突然彼のズボンを引き裂いた。
「役に立たないんじゃないのか?」
白洛因が意図的に問うと、顧海は大声で言った。
「もう治った!」
狂ったように腰を振ると、2人は絶頂に達したが、どちらもそれが柔らかくはならなかった。アルコールによる誘発と白洛因による誘発で、2人はすぐに2回目を始めた。白洛因が顧海の上に座り、好きなように腰を振り、顧海はただベッドに横たわっていた。ゆっくりとタバコを手に取ると、吸いながら白洛因の動きを楽しんだ。
白洛因は屈んで、顧海が持っていたタバコを吸うと、顧海の顔に煙を吐き出した。顧海を一口吸って、白洛因がキスをすると、口の中に煙を流し、お互いの息が白く漂った。
2人は体も心も全てが酔っていた。
顧海は白洛因の腰を持ち上げて、突然上下に動かすと、白洛因は予測していなかった快楽に驚き、顧海の唇から離れて、彼の顎を噛みながら鼻を鳴らした。
「……やめろ……ゆっくり!」
顧海は笑いながら白洛因の腰から手を離した。
「じゃあ自分のいいように動けよ。」
白洛因は体を起こし、顧海の胸に手を当てて、ゆっくりと腰を動かすと、足の間のモノが大きくなった。顧海が手を伸ばし遊ぶと、白洛因は反射的にスピードを上げた。快楽で歪んだ顔が、顧海の目にはより一層魅力的に映った。
顧海は白洛因の顔に手を差し伸べると、白洛因は身を屈ませて顧海にキスした。2人は腰を揺らしながら、お互いの口の中で喘ぎ声と唸り声が漏れた。
「これがいいのか?いいか?だめか?」
「いいっ……いいから……顧海……」
顧海は白洛因を押し倒して、枕に彼の頭を置き、唸り声を上げた。白洛因の中は濡れていて気持ちよく、顧海は白洛因の腹の中に全てを吐き出した。
「因子、愛してる。」
顧海はワインに感謝した。
白洛因の熱い頬が、顧海の頬に擦り寄せられ、小さな声で言った。
「うん。」
「うん?」
顧海は顔を向けて、白洛因をちらりと見た。
「それだけで、他になにか言うことは無いのか?」
白洛因は目を閉じて鼻歌を歌い出したので、顧海がもう一度押し倒すと、白洛因の頭は枕の下に隠れた。
「おい!寝るなよ!」
顧海が揺らしても、白洛因は全く反応しない。あまりにぐっすり眠っているので起こせず、顧海はため息をついた。
なにを言われたのか絶対に忘れるなよ。お前が起きたら絶対に言わせてやる!
第199話 若いカップル
「えっ、なんであっちから来たんだ?」
白洛因は驚いた顔で顧海を見た。
顧海は唇が紫になるほど心配していたが、白洛因の手に持っているサンザシ飴の束と、口元に残る飴を見た。
ー怒られるとは思ってないのか?
顧海は怒鳴った。
「どこに行ってたんだ?」
白洛因の笑顔が消え、顔が引き締まる。
「サンザシ飴を買ってたんだ。」
そう言うと、残しておいたサンザシ飴を顧海に渡した。
顧海はそれを受け取らず、まだ暗い顔で尋ねた。
「なんで買いに行くって教えてくれなかったんだ?どれだけ心配したか分かってるのか?」
徐々に白洛因もイライラしてきた。
「言ったよ。聞こえなかっただけだろ!」
「お前の声が聞こえなかったって言いたいのか?なんで俺が出てくるまで待ってらんねぇんだよ!今すぐ食べないと死ぬのか?」
白洛因は伸ばしていた手で顧海の頬を平手打ちすると、手から零れ落ちたサンザシ飴が地面に叩かれて割れた。
「嫌なら食うな!!」
そう言うと頭を背けてしまった。
顧海は白洛因の服を掴むと、白洛因はその手を払った。しかし顧海は再び引っ張ろうとすると、白洛因も同じように手を払った。さっきまで笑っていた二人が、今は喧嘩をしている。白洛因が顧海の顔を殴ると、顧海は怒って白洛因の尻を蹴った。
ー取った!
この蹴りは確実に急所に当たり、白洛因は動けなくなり黒い鍋のような顔でタクシーを止めて行ってしまった。
顧海は通りに立って拳を握りしめる。
ー大したことか?
たかがサンザシ飴に引き裂かれた二人の親密さは、一晩で戻すことは出来ない。
顧海がため息をついて戻ろうとすると、飴を売っているお店を見つけ、ここにいた事が分かった。
一見人が多いが、買った時は混んでたよな?
なんで見つけられなかったんだ?
地面で砕かれたサンザシ飴を見て、心が痛くなる。すぐに店に行き、サンザシ飴を数束買い、借りた家に持ち帰った。
白洛因は帰ってくると寝室に行こうとしたが、買ったものを片付けるために部屋から出た。顧海が帰ってきた時、足元には荷物が置いてあって入ることが出来ない。
顧海は先に荷物を片付けて、それからサンザシ飴を持ちながらドアの前に立った。鼻を鳴らしても、白洛因は不機嫌そうな顔をするだけで、振り返ってはくれなかった。
顧海が部屋に入ると、白洛因の肩に手を置いたが振り払われてしまった。白洛因の目の前に伸ばしたサンザシ飴も、白洛因が床に投げ捨ててしまった。
「本当に怒ってるのか?」
白洛因は冷たく言い捨てた。
「なんで怒ってないと思えるんだ!」
「なんでだ?サンザシ飴のせいじゃないだろ?もしかして、足りないのか?足りないならまだあるぞ。」
白洛因は怒鳴った。
「サンザシ飴じゃない!」
「違うのか?俺がお前を殺したか?教えてくれ、今日はどうしたんだ?いつもなら忘れてるだろ。俺が見つからなくて心配したのか?」
「別にもういい!」
顧海は白洛因がそう言いながらも怒っていることが分かっていた。そして自分の頬を指さして、不平を言った。
「でも俺を殴っただろ?ほら、青くなってる。お前は誰だって殴るのか?なんで俺を殴ったんだ?」
白洛因の激しい視線は顧海を威圧した。
「お前だって俺を蹴っただろ?」
「どこ?全然覚えてないな!」
「本当に覚えてないんだな?」
「あぁ、だけどお前ももう怒ってないんだろ?」
顧海は白洛因の顔を見て、バカにするように言った。
「痛かったのか?見してくれよ。どこをどう蹴ったのか。」
「出てけ!」
白洛因は怒鳴った。
顧海は喜んでサンザシ飴を拾って食べた。
「そんな事言うなよ。本当に美味しいから、な?お前も食えよ。」
そう言うと、サンザシ飴を白洛因の口へ運んだ。
白洛因はそれを無視した。
顧海は一度引いて、別のものを取って食べた。
「うん、甘くてサクサクだな。」
白洛因は突然、神経衰弱の少年がいるんだと感じた。
顧海はいくつか食べ、最後の二つになると、それを白洛因の目の前で揺らした。
「本当に食べないのか?」
「食べないって言っただろ。」
白洛因は怒鳴った。
「絶対に一口は食わせてやる!」
そう言うとひとつ口に含んで、無理やり白洛因の頭を掴み、口に持っていった。白洛因は首を振ったが、口がベトベトして、嫌々口を開いた。
半分の赤い果実が誰かの舌を使って入ってきて、甘さが口全体に広がった。赤い果実を噛んでいる間、白洛因は故意に顧海の舌も噛んだ。顧海は痛みで引いて、白洛因の唇に残った飴をゆっくりと舐めた。
その後、二人はすぐに和解し、祝いの夕食を作るためにキッチンへ向かった。
顧海は野菜を切るのに疲れて一旦休憩し、きゅうりを洗っている白洛因を見ると、顧海の心臓は爆発したようだった。
「まだ洗えてないだろ。」
顧海が関係ないことを考えてるとは思いもよらない白洛因は、協力的に尋ねる。
「どうすれば洗えるんだ?」
「もう一本取ってくれ、見してやるよ。」
白洛因が顧海にきゅうりを渡すと、顧海はそれを口に入れた。まず舌でいやらしく舐め、きゅうりを口に入れると、吐息を漏らしながら白洛因を見た。
白洛因は顧海にうんざりし、その意味のわからない表現を見て、白洛因は口からきゅうりを取り、顧海のズボンを下ろして、落ち着きのない小さな穴をつついた。
顧海は焦ったが、幸いな事に手の力は顧海の方が強かった為、きゅうりを奪い逃げた。その後、白洛因が顧海から奪ったきゅうりをゴミ箱に捨てるのを見て、苦情を訴えた。
「なんで捨てたんだ?」
「口から出されたものを、誰が好んで食べるんだ?」
顧海はからかうように言った。
「汚れてるとでも思うのか?さっきだって俺の口から食べてただろ?」
白洛因が恥ずかしくなって何も言えず、残りのお皿を洗った。
顧海は後ろから白洛因の腰を抱きしめ、顎を肩に乗せると、柔らかい声で聞いた。
「いつになったら食べさしてくれるんだ?」
「考えるな、今日じゃない。」
「いじめるなよぉ…俺ばっかりお前に尽くしてるだろ?」
「誰も尽くしてくれなんて言ってない。」
顧海は白洛因の耳を噛んで、耳たぶを舌先で舐めると、白洛因の手が止まった。
「なぁ、大人のおもちゃ買ってあるから、晩飯後に遊ぼうな。」
白洛因の体は固くなり、顧海を見て歯を食いしばった。
「お前は!!……遊ばない、一人で遊んでろよ!!」
「おもしろいのに!」
顧海が煽り続けると、白洛因は結局、不思議なことに抵抗しなくなった。
「何を買ったんだ?先に見してくれよ。」
「あれぇ?……遊ばないって言ってなかったか?」
顧海はニヤニヤ笑った。
「先に見るからな!」
顧海はなおもニヤニヤと笑っている。
「遊びたいなら先に見つけてこいよ。それまでご飯なしな。」
顧海がそう言うと、白洛因の心が底なしになった。顧海に料理を任せ、白洛因は寝室に行って探した。クローゼット、本棚、引き出し、枕の下……物が隠せそうな場所を全て探しても、大人のおもちゃは出てこなかった。
「ベイビー、ご飯できたぞ。」
顧海が叫ぶと、白洛因は諦めた。
今日は新年で大きなトラブルが無くなった祝日なので、二人は一杯飲むことにした。食べる前に絶対に一杯だけと約束したが、話していると楽しくなってきて、知らぬ間に二杯目のワインを飲み干していた。顧海は意図的に白洛因にワインを注ぎ、自分は別のものを飲んでいた。
白洛因が飲みすぎた時、彼は顧海にとって間違いなく宝物だった。顧海は酔わせるために、必死にワインを注ぐ機会を探していた。
二人はソファに座り、テーブルに置いてある鏡で、白洛因が自分の真っ赤な顔を見て、やられたと気づいた。白洛因は顧海の肩に頭を埋めて擦り続けると、もっと赤くなっていた。
「悪いやつだ。」
白洛因は呟いた。
顧海だって酔っていたが、まだ体は起きているので、白洛因を掴んで言った。
「そこにいてもいいけど、これを擦んないと。」
そう言うと自分のモノを指さした。
白洛因の頭が突然落ち、鉄球が顧海のモノを打ったので、悲鳴を上げた。
白洛因は顔を上げると、顧海を見て笑った。
「おいしいから一口食ってみろ。」
顧海は自分のモノを取り出して、白洛因の口に入れた。
白洛因は鼻を鳴らして、頭を捻り、頭の後ろを小海に当てた。
すると、顧海が何かを思い出したかのように、当然白洛因を引き上げた。
「そうだ、買ったおもちゃ使ってないだろ!」
白洛因はこれを聞くと、すぐに腰を正した。
「そうだ、そうだよ、持ってきて。」
第198話 顧威霆の監視
白洛因が去ってから、白漢旗は必死に来ないようにと熱望していたが、ついに顧威霆が来てしまった。
顧威霆が白家の小さな中庭に足を踏み入れると、邹叔母さんと白漢旗はキッチンで忙しそうにしており、煙突から白い煙が立ち上るのほど、中には全体に肉のにおいが漂っていた。おじいちゃんは東の角にボトルを詰め、おばちゃんは寒いのを嫌がり、家の中でテレビを見ていた。
随分と背の高くなった孟通は、少しの間、庭で木の周りを数周入った後、誰かが入ってるのを見て、習慣的にポケットの中の小さな四角い箱を取り出し、顧威霆の足を強く叩いた。
パンっ!
爆竹の音が顧威霆の耳で爆発した。
顧威霆が孟通を見ると、小さな手が小さな口を覆って楽しそうに笑っている。
「孟通、またイタズラしたの!」
邹叔母さんがキッチンから頭をつついた。
孟通は顧威霆の鬼のような顔を見ると、飛び跳ねて遠くまで逃げて行った。
白漢旗は大きな白いエプロンを着て、キッチンから出てくると、とてつもなく混乱した。
「顧さん、来たんですね。」
窮屈そうに微笑むと、白漢旗はエプロンを脱いで顧威霆を家の中へ入れた。
白漢旗は顧威霆にお茶を出しながら、丁寧に言った。
「慣れてないので美味しくないと思いますが、宜しければ飲んでください。」
顧威霆は部屋の中をちらりと見た。そこからは家全体を一望でき、壁は塗り替えられており、ソファもテレビも新しいものだったが、家の古さをカバーすることは出来ていなかった。
白漢旗が先に口を開いた。
「顧さん、お忙しくはないんですか?」
顧威霆はキッパリと答えた。
「大丈夫だ。」
それから白漢旗は言うことが見つからず、顧威霆が息子の居場所を尋ねるのを待っていたが、顧威霆も全く口を開かなかった。何も起こらない空間に座っていると、白漢旗の罪悪感は言うまでもなく、良心のある人々でさえ、彼の圧に迫られる。
顧威霆はドアを開け、孟通の部屋へ入ると、白漢旗もついて行った。
「因子と大海は毎週末、家へ帰ってきてここで寝るので、孟通は私たちと寝ているんです。」
白洛因は何か言わなければと思って話していた。
顧威霆は頭を向け、非常に奇妙なダブルベッドを見て、疑いの目をした。
白漢旗はぎこちなく微笑んだ。
「この部屋は元々ベッドがひとつしか無くって、大海がここに住んでいた間は、因子と同じベットで寝ていたんです。ひとつのベッドで寝かせるのは可哀想だから、大海にもベッドを買ってやったんです。大海はそんなの要らないと言ってたんですが、2日後にはこうなってましたよ。」
顧威霆はシーツを上げて、2つのベッドの間に頑丈に打たれた釘を見つけた。
「私がもう少し警戒していれば、こんな風にはならなかったかも知れません。」
白漢旗がため息をつきながらそう言うと、顧威霆の顔が変わり、白洛因は心配そうな目をしながら部屋から出て行った。
父親2人は外に座って話していたが、それはお喋りではなく、部下から上司への報告のようだった。
「本当のことをいえば、大海はいい子ですし女の子であればすぐに結婚させていたでしょう。彼があなたの息子だとは知らなかったし、私達も因子も、ただの貧しい子供だと思っていたんです。彼がここに住んでいた時、なんでも手伝ってくれました。屋根が壊れれば治してくれました。浴室だって、彼が作るようお願いしてくれました。彼は密かに様々なことを他にもしてくれた。……率直に言ってそうやって彼と過ごしていたが、今は考えてみてもどうしようもない。」
顧威霆は白漢旗が語った人物が、自分の息子ではないと思っていた。しかし白漢旗の口から語られるのは、全て本当のようである。白漢旗に目を向けて、やっと口を開いた。
「私のことは嫌いか?」
白漢旗は驚いた。
「嫌い?なぜ私があなたを嫌うんですか?」
「私を憎んでないのか?」
顧威霆の目は濡れているようだ。
「私はあなたの妻を盗んだんだ。」
「えっと……そうか、忘れてた!今姜圆はあなたの妻でしたね!?」
顧威霆は何も話さず、再び庭を散歩していると、孟通はおもちゃの銃を持って走り回っている。白漢旗はその銃を指さして言った。
「あの子のおもちゃは大海が買ってくれたんです。」
杨猛は"大海"と聞くと、急いで白漢旗の元に走ってきて、腰を掴んで尋ねた。
「いつ顧海兄ちゃん来るの?もう何日も会ってないよ。」
顧威霆は孟通の期待している眼差しを見て、この名前も分からない子供が、自分よりも息子と親密だと感じた。
「帰る。」
顧威霆ら足を上げて、ドアに向かって歩いた。
白漢旗は驚いた。
ー帰る?そのまま帰るのか?何も尋ねずに?
白漢旗は玄関に軍用車両が停車されており、運転手が厚いコートを着て外で待っているのを見た。顧威霆を見ると、運転手は急いでドアを開けた。
「顧さん」
白漢旗は大きな声で呼んだ。
顧威霆は足を止めて振り向くと、白漢旗を見た。
「どうした?」
「なにか聞かないんですか?」
白漢旗はまだそれを忘れていないと、顧威霆は冷笑した。
「私が尋ねれば、教えてくれるのか?」
白漢旗が唾を飲み驚いていると、突然邹叔母さんが出てきて顧威霆の手に何かを握らせた。
「顧さん、新年は自家製の糖瓜を食べるんです。」
顧威霆の口調が少し柔らかくなった。
「ありがとう、また来年。」
そう言うと、運転手と共に車に乗って去って行った。
顧威霆が車の中で糖瓜を食べると、甘くてサクサクで、本当に美味しかった。
運転手が元気よく言った。
「何年も食べてませんよ。」
顧威霆はそれに対して何も答えられなかった。
普通の年越しを何年してないんだ?
「長官、電話ですよ。」
顧威霆が電話に出ると、山東に送られた主任からであった。
ほんの数日で、20人以上の男たちはもう人間のようには見えなかった。一日中こんな狭い空間で座るか横になり、飲食している。最も辛いのは外と連絡が取れないことで、外で爆竹の音が聞こえるだけで、家族が恋しくなっていた。
顧海が主任を引き抜いたとき、数日前のように横暴ではなく、言葉も発せられない程の表情で顧海についていた。
顧海は主任のこめかみに銃口を突きつけながら、"軍事状況"について嘘をつけと命令した。
「長官、私たちは半年ここにいますが、なんの報告も届きません。顧洋へ数人送って、24時間監視するようにしても、異常行動はありませんでした。もう2人は青島にはいないのではないでしょうか?私は大丈夫ですが、ここには3年未満の兵士もおります。しかし今年正月休暇を取ることは出来ません。……なので、長官。撤退命令を下して頂けますか。」
「全員撤退しろ。」
顧威霆は軽く言うと、主任は再度確認した。
「長官、本当ですか?撤退してよろしいですか?」
しばらく沈黙があり、主任にも緊張が走った為、口を開かなかった。
「あぁ、片付けて戻ってきなさい。」
主任は突然元気になり、頭をあげて大声で言った。
「長官、ありがとうございます!」
電話を切ると、トイレに向かって走り、叫んだ。
「お前ら!開放されたぞ!!」
まるでそれが彼らの家であるかのように顧海の視線の元、有頂天でホテルを去って行った。そして、彼らはすぐに家族と再開することが出来た。
彼らが出て行ってやっと、顧海と白洛因は呼吸ができるようになったため、食べ物を買いに出かけることにした。今夜、包囲と抑圧に対する勝利を祝わなければならない。
通りを歩く2人のイケメンに、通行人、特に女の子は自然と彼らを見ていた。
2人の女の子が顧海と白洛因を追いかけ、どっちの方がイケメンかと話し合い、人里離れた街角まで歩いた。
「ねぇ、イケメンなお兄さん!」
顧海が誰かに追われていることに気づくと、後ろから声をかけられた。突然数歩近づき、白洛因の肩に腕をかけると、女の子の目の前で露骨に白洛因の頬にキスをして見せた。2人の女の子が驚いた時、顧海は振り向いて魅力的な笑顔を見せ、そのまま肩に腕をかけたまま立ち去った。
後ろから悲鳴が聞こえたが、それが怖いのか、興奮しているのか分からなかった。
2人がコンビニに着くと、顧海は白洛因の肩を撫でた。
「外で待ってろ、タバコ買ってくる。」
コンビニは混んでいて、レジに長い列が出来ていた。
白洛因は退屈そうに外で待ちながら見渡していると、サンザシ飴を売っている小さな店を見つけた。
ーここでサンザシ飴が売ってるの久々に見た!
白洛因は目を輝かせ、レジで並んでいる顧海が聞いていたかは分からないが声をかけ、角を曲がって小さなお店に入った。
休日なので人が多く、地元の人や、観光客が集まっていた。サンザシ飴を買うために並ばなけばならないが、白洛因は並ぶのが嫌いで顧海に押し付けていたが、今日は仕方がない。長い間口にしていなかったため、どうしても食べたかった。
顧海がコンビニから出てくると、白洛因はいなかった。
見渡しても、白洛因の姿はない。
どちらも出かける前にスマホを置いてきてしまった為、連絡手段も無かった。
いつもであれば、離れてしまってもそのままだが、なにかある時はタクシーに乗っていた。しかし、今は特別な時期であり、少しの風が顧海を汗だくにさせた。
少し経つと、顧海は焦って白洛因を探して街を歩いた。きっと買い物しているわけでは無いだろうと思っていたのだ。顧海の考えでは白洛因は連れ去られている。だから誘拐をしそうな不審な人物のみを見ていて、店の方はちっとも見ていなかった。
白洛因が店から出た時、白洛因は顧海がどこにいるか知らなかった。
白洛因はコンビニが混雑していた為、まだ会計しているのだろうと外でサンザシ飴を食べながら待っていた。
顧海が戻ってきた時、白洛因が食べていたサンザシ飴はもう無くなっていた。