第180話 父と息子の交渉
「愛?」
顧威霆は凝視した。
「ここに恥も知らずに愛について語る二人の男がいるのか?」
言った後に顧海に向かって真っ直ぐと歩き、その襟を掴んで、ドアに投げつけようとした。顧海は咄嗟に対応して、足を安定させたので、顧威霆は顧海に怒りをぶつけることに失敗した。
「一緒に軍に戻って話をするぞ。」
「行かない!」
顧海は鋭い目をしている。
「俺はここにいる。絶対に行かない。」
「来たくなくても来い!」
顧威霆は再び顧海を引きずり、三、四年前のように顧海を連れて行こうとした。しかし顧威霆は年老いており、息子は成長していた為、全く動かなかった。顧威霆は息子が自分の権威に屈することがないほど強くなる日は来ないと思っていた。しかしその日は来てしまい、顧威霆は自分に失望していた。
彼は顧海がまだテーブルの脚と同じ身長であることを望んだが、見る限りそんなことは無かった。
「私に逆らうつもりか!」
顧威霆は顧海の脹脛を蹴りあげた。
革靴は顧威霆が力を入れすぎたため、顧海の膝に落ちた。そうであっても、ただ睨みつけ、顧威霆に対してなにも発しなかった。
顧威霆が腰に手を添えると、白洛因は息を飲んだ。
直ぐに、銃は顧海のこめかみに当たった。
「来い!」
それは命令であり、拒否権は無い。
顧海は一切恐れずに動かず、顧威霆のその刃の様な顔をじっと見つめていた。
顧威霆が指を動かすのを見ると、白洛因の心臓は止まり、表情は一変した。
「おじさんと一緒に行け」
白洛因が口を開いた。
顧海は顔を向けることなく「行かない!」と叫んだ。
顧威霆の指は、既にトリガーに触れている。
虎も子どもを食べないということは理解していても、顧威霆の瞳を見る限り、まだその指を引く可能性がある。
「早く!」
白洛因は顧海を急かした。
顧海は白洛因を見て、穏やかな口調で言った。
「俺はお前を絶対に一人家に置いていかないって言った。」
「そんなの聞いてない。」
「聞いてなくたって言ったんだ!」
顧威霆が口角を上げた瞬間、白洛因はこの世で最も恐ろしい笑顔を見た。
本当に引き金を引いた瞬間、顧海は全く動じなかった。脳に向かって玉が真っ直ぐに強い力で突き刺さり、頭の中で痛みが爆発し、耳鳴りがするのを明確に感じた。
白洛因は自分を責め、その瞬間に顔は灰のようになった。
顧威霆は銃口に血がつかないように手を引くと、その冷たい顔が一瞬緩んだ。
「私の息子はまだ少しは有能だったみたいだな!」
顧威霆は降伏ではなく死を選ぶ人を沢山見てきた。彼らに銃を渡すと、恐れることなく手に取る。しかし、発砲のコンマ一秒前になると、ほとんどの人は死を恐れ降伏する。それは弱さではなく、生き残る本能だ。最初から最後まで怯まず、動かないでいることのできる人はほんの僅かで、その中の一人が顧威霆の息子だった。
実際、顧海だって怖かったが、彼以上に顧威霆が恐れていることを分かっていた。
銃の中に玉は込められてなかった。
白洛因がこれに気づいた時、汗が吹き出し、この親子のことを怒鳴ってしまいたかった。
次に演習する時が来れば事前に言え!人を怖がらせるな!!
顧威霆は生きている顧海を手放したが、直ぐにそれを後悔した。
「お前に二つの選択肢を与える。一つ目は私と一緒に来ること。二つ目は迎えを待つこと。一つ目を選択すればまだここに戻って来れる可能性はあるだろうが、二つ目を選んだらここには一生戻って来れないと思え。今すぐに売却する!」
「あなたはこの家を売却出来ない」
顧威霆は少し目を細めた。
「出来ないって?私に出来ない事があるとでも言うのか?」
「ここの今の所有者は白洛因だ!」
白洛因の顔が変わり、顧海を見た。
「お前、いつ変えたんだ……?」
顧海は淡々と答えた。
「言わなかっただけで、ずっと前から変えていた。」
顧威霆の顔は冷たくなり、より不機嫌になった。
「ここの所有者が誰だろうが関係ない。行くか、行かないか。自分で決めろ!」
白洛因の心は徐々に黒くなっていった。顧海が本当に行ってしまえば、きっとこれが顧海と会える最後の夜になる。行かなければ、もう一生会うことは出来ない。白洛因にとって、後者の方が辛かった。
「わかった、行く。」
顧海が突然口を開いた。
白洛因は密かに同意した。
「けど、俺はこいつも連れてく!」
顧海は突然白洛因の腕を掴んだ。
白洛因は驚いた。
これはありなのか?
二人は粘り強く顧威霆を見つめた。
「わかった、連れて来い。」
こう言うと、顧威霆は振り返って出て行った。
顧海はようやく段階的な勝利をおさめたから大丈夫だと、安堵のため息をついた。白洛因は客観視することが出来なくなっていて、エレベーターに入った瞬間、言いようのない不安に駆られた。
以前二人が基地に一歩踏み込むと、そこは一掃されたように感じていた。
車の中は重い雰囲気で、前に顧威霆が座り、後ろに顧海と白洛因が座っていた。
車は軍用施設に止まり、駐車すると、そこには孫警備兵と数人の兵士が待っていた。
「長官、子供を連れてどうしたんですか?」
顧威霆は白洛因を指さして「彼の部屋を手配しろ。一定期間ここに住ませる。」と伝えた。
顧海はこれを聞いた時、何がおかしいと感じた。
彼の部屋を用意しろとはどういう意味だ?
「俺の部屋は?」
顧威霆は顧海の肩に手を置いて、「もちろんお前は私と一緒に行くんだ」と言った。
顧海の顔は暗い夜に包まれた。
「私は連れて来てもいいとは言ったが、いつ一緒に住んでもいいと言ったんだ?しかも、お前はその条件を交渉するだけの価値があるのか?」
そんなに俺たちのことを壊したいのか?
顧威霆が孫警備兵に目を配り、白洛因を連れていくように指示した。しかし、顧夫人の事件以降、孫警備兵は白洛因と不溶性の絆を築いていた。しぶしぶ白洛因の顔を見ると、話さずには居られなかった。
「二人を一緒に暮らせて見ませんか?」
顧威霆は警告無しに怒鳴りつけた。
「私は連れて行けと言ったんだ!」
孫警備兵は直ぐに敬礼をした。
「はい!長官!」
顧海は白洛因を見ても、追うことはしなかった。この軍事大国において、力ずくで解決することは出来ない。したがってこの老人を納得させるまで交渉を続けなければならなかった。
顧威霆と歩いている間、顧海は作戦を練っていた。
しかし、家に着き話しかけようとしたが、顧威霆が時計を見るともう朝の二時だった。
「寝ろ、明日話す。」
「明日は休みか?」
「お前が今一番重大な仕事だ!!」
顧海は心の中で文句を言い、顔で敵意を示したが、顧威霆は怒っている様子ではなかった。
父と息子は生まれて初めて同じベッドに横になっていた。
顧海も顧威霆も全く眠れず、まるで大きなベッドに横たわる冷たい体のように、喋らず、動かなかった。
ただ隣に並んで約二時間経つと、遂にいびきが鳴った。
顧海は静かにベッドから出て、別の部屋に飛び込んだ。
全ての引き出しを開けてものを探していると、いびきが聞こえなくなった。やっと、顧海があざを治す軟膏を見つけると、寝室には向かわず、コートを着て外に出ようとした。
「彼を探しに行くのか?」
顧海の足は呪われたように動けなくなった。
部屋の灯りはつき、顧威霆の体はベッドから起き上がっていて、その冷たい視線はそう遠くない顧海を見つめていた。
「何持ってるんだ。」
「軟膏。」
「なにに使うんだ。」
「あいつの手を打っただろ。」
顧威霆は顧海の口から不満を感じ取り、品定めするようなその視線はもはや息子では無いかのようだった。
「私がどれだけ怪我したって、お前が気にかける姿は見たことないけどな。」
顧海はぎこちく笑った。
「俺と因子のことに干渉しなきゃ、気にかけるって約束するよ。」
顧威霆は眉を上げて、静かに話し出した。
「お前は病気にかかってるみたいだな。」
「ずっと前からだよ。もう治すには遅い。」
「あんなに貧しいのにか?」
顧海は警告無しに挑発した。
「父さん、もう俺は十八歳だからもうあなたに煽られて反応するような年齢じゃ無いんです。俺はもう自分の人生観を持ってて、善悪を判断できるが、あなたは自分の暴力をコントロールすることも出来ない。あなたも一言一言に注意を払って、息子だけでなく、一般市民の意見も尊重することを学んでください。」
顧威霆はベッドからソファに移動して、タバコに火をつけると、笑顔で顧海を見つめた。
「善悪の判断の基準を教えてくれないか?」
顧海の体は一歩一歩顧威霆に近づき、その顔は暗かったが後ろから光が差していた。
「俺が正しいと思えば正しいし、間違っていると思えばまちがってる。勝てば俺に利益が出て、負ければ損失が出るのと同じだ。」
顧威霆の顔は捻れおり、口角は上がっていた。
「ナンセンスだな!」
「俺はただ雰囲気を盛り上げようとしただけじゃないか」
顧海は突然微笑んで、顧威霆に近づいて行った。
実際、顧威霆が顧海を連れてきたのは監禁するためではなく、教育するために連れてきいた。今は顧海も厳しい言葉を発しているが、明日の朝、顧海の様子が改められていれば、顧威霆はなにもしないと決めていた。
父と息子は対面に座り、人生で最も平和な会話を始めた。
「父さん、因子はどこにいるんだ?」
顧威霆は冷たい目で顧海を見た。
「まだ私と遊びたいのか?」
「いや、誤解してる。」
顧海はリラックスしていた。
「部屋の状況を聞きたいだけだ。」
「それがお前になんの関係があるんだ?」
顧海はまだ話し続けた。
「部屋が何室かないとダメだろ。」
穏やかになっていた顧威霆の顔が再び引き締まった。
「四部屋?三部屋?もしかして二部屋か?少なくとも独立したバスルームがないと。公衆トイレや銭湯に行かせられる訳じゃないだろうな?誤解しないでくれ、俺はあいつの事を考えてる訳じゃなくて、父さんの為を思ってるんだ。今あいつは父さんの息子だから、あんまり公開されるようだと良くないだろ。」
顧威霆は耐えた。
「心配するな、私が手配したんだ。」
顧海は頷いた。
「そうか、なら話そう。」
顧威霆は喉をすっきりさせた。
「いつこんな感情を持ち始めたんだ?」
顧海は眉を寄せて、顧威霆の言葉が止まると、瞼を持ち上げた。
「父さん、別の話をしないか?そんなの聞いたってつまらないだろ。」
「言え!」
「因子の部屋の布団は羽毛布団か?シルクか。今のやつは偽物が多くって、全然暖かくないんだ。」
「……そうか。暴力を使わなきゃわからないんだな?」