第187話 心配

たっぷり笑った後、白漢旗は3人が冷たい顔をしながら口角を上げて自分を見ていることに気づいた。邹叔母さんも白漢旗と一緒に笑っていたかったが、二人の顔を見た瞬間、口角を下げた。

やっと姜圆が反応して、白漢旗の頭を叩き、顔を覆い隠した。

「白漢旗、頭大丈夫なの?子供がとても深刻な問題を抱えてるって言うのに、よく笑えるわね!!あなたはとっても優しいけど、私は馬鹿だと思うわ!息子達は愛し合っていて、女の子を騙したの。性的指向に問題があるって言うのに、それがどれだけ重大なのか分からないの?」

姜圆の深刻そうな顔を見ても、白漢旗は穏やかに振舞った。

「なぜ息子が女の子を好きじゃないのか、自分で考えたらどうだ?」

姜圆は目を赤くして、白漢旗を指さしながら尋ねた。
「どういう意味よ?」

顧威霆は突然テーブルを叩いて怒鳴った。
「やめなさい!」

顧威霆が話すと、誰も声をあげようとしなかった。

「白兄弟、はっきり言って、あなたの考えには同意しかねる!今日は問題を解決するために2人を呼んだが、認めるも何も、既に事は怒ってるんだ。善か悪か、あなたと私の判断は逆のようだな。」

姜圆はティッシュを取って涙を拭き、誰よりも悲しそうな表情をしていた。

料理はテーブルに並んでいたが、誰も箸を動かさず、4人は黙っていた。

顧威霆がワイングラスを手に取ると、白漢旗の目の前で揺らした。

「白兄弟、このワインを飲んで、具体的な解決策を考えよう。」

二人はワイングラスを鳴らし、一口で飲んだ。

ことわざにあるように、ワインは強くて勇気がある。ワインを飲んだあとの白漢旗は、顔を赤くして、目は虚ろだった。

「この問題についての私の考えは、何もしないことです。」

顧威霆は黙った。

姜圆の涙は乾き、邹叔母さんを真っ直ぐ見つめていた。

「因子はあなたが彼の母親に相応しいと言っていましたか?彼のお母さんであるあなたの意見を聞かせてください……」

邹叔母さんは緊張して、無意識に白漢旗をちらりと見たが、すぐに姜圆を見て、恥ずかしそうに笑った。

「彼と同じです。」

姜圆は息が詰まりそうだった。

顧威霆は今日招待したのが味方ではなく敵だと理解していた。
彼らは武装していなかったが、完璧に意見が対立している!
2人の息子の関係が急速に発展したのも、こんな2人の悪役がいれば不思議ではない!

「あなた方がどんな教育をしたのか知りませんが、私の息子は私が管理する必要があるようですね!」

これを言い終えると、顧威霆は悲観的な顔で部屋から出て行った。姜圆も彼女のバックを持って、2人を睨みつけると、出て行った。




週末、顧海は早く起きてシャワーを浴び、髪を直して服を着て、ベッドまで歩くと、眠っている白洛因に優しく声をかけた。
「因子、朝食を買ってくるから、帰ってくるまでに着替えてろよ。」

白洛因は再び毛布に頭を突っ込んだ。

顧海は白洛因の耳にキスをした。
「行ってきます。」




足音が消えて、しばらくして白洛因が目を開けると、外は明るく、いつものご飯の香りがキッチンからしないし、強くて背の高い男の姿は見えなかった。

白洛因は顧海を毎朝見ていた為、できる限りの人に連絡をしたが、顧海からは何も連絡がなかった。

心配そうに白漢旗が駆けつけてきた。

「大海を探してるのか?2日前、彼のお父さんと私たちで話したよ。大海の言うことだけを聞いて、くれぐれも2人には従うなよ。」

白洛因は探しに行こうとしたが、白漢旗に捕まった。

「顧海のお父さんのところに行くのはやめなさい。。軍の基地はいい所ではない。誰かを挑発して、殴ったり殺されたりしても、彼らが刑務所に行く必要はないんだ。」

白洛因は白漢旗の手を握り、安心させるように言った。
「大丈夫。母さんと同じように、彼らは俺をそんなふうに扱わないよ。」

そういうと、白漢旗の仕事場の方向へと走って行った。

白漢旗はため息をついた。
この子は全然変わらないな。





一方、顧海に顧威霆が最初に言った一言は「入隊」だった。

顧海は顧威霆の突然の態度の変化に戸惑った。父と息子の関係は顧威霆のアプローチにより、数日で熱くなった。しかし、もう顧威霆は顧海の関係を気にしなかった。顧海を上手く扱っても、彼自身を封じ込めるための道具にされてしまう。

「先に言ったろ。死んでも入隊しない。」

顧海は鋭い目をしていた。
「俺の人生は、俺が決める。」

「ハハッ」
顧威霆は冷たく笑った。
「お前の決心とやらを見せてくれよ!トンネルを掘ったことか?今後お前が理解しないのなら、あそこから永遠に出てくるな!」


ほんの数時間で、顧海は暖かい小さな寝室から、暗いトンネルへと落とされた。



できるだけ早く完成させるために、人が一人通れる狭さにしか広げていなかった。だからトンネルに入れば、人々は立ち上がれないし、座るか横になるしかなく、動きたいのであれば、這うように動くしかない。

顧海は目を閉じて、白洛因の部屋を想像した。
ベッドに横たわりながら、傲慢で厄介な顔が俺を待っている。
彼は、このトンネルをスムーズに透れれば、白洛因の部屋に繋がっていて、彼と一緒に眠れると、暗闇の中で考えていた。




「長官」
孫警備兵はドアに立ち、入るのを躊躇っていた。

新聞を読んでいるフリをしている顧威霆は、静かに言った。

「来なさい。」

孫警備兵は悲しそうな顔で部屋に入った。

顧威霆は新聞に向かった話した。
「なにかあるか?」

孫警備兵はなにも話さなかった。

「何も無いなら早く休めるんだが。」
顧威霆は軽く言った。

孫警備兵の顔は躊躇っている。

顧威霆が彼をちらりと見た。
「まだいるのか?」

孫警備兵は重い足を上げて、ドアに向かってゆっくりと歩いた。


顧威霆はその背中に向かって言った。
「あいつに報告する必要はもうない。トンネルは私の部屋にあるから中で死んでてもこいつを引き上げる必要はないぞ。」

孫警備兵の足音が止まり、ドアを開けて出て行った。



顧威霆は新聞を投げ捨て、床をちらりと見た。10時間以上だ。顧海は10時間以上、食べたり飲んだりせずそこにいる。悲鳴を上げることも、呻き声も出さず、彼はとても頑固に、ただ静かに反抗していた。




孫警備兵は密かに床を開けて、トンネルに毛布を詰めた。

実は正午と夕方にはご飯を詰めていたが、顧海が食べたのかはわからない。



白洛因は電話で、軍事地区の複合施設の門にいると伝えたが、止められてしまった。

孫警備兵は説得した。
「因子、帰りなさい。小海は元気だよ。彼は長官の部屋で寝てる。長官2日後に出張に出て2ヶ月帰って来れないから、去る前に息子と時間を過ごしたいだけなんだ。」

白洛因は他にも言いたいことはありそうだったが、孫警備兵が電話を切った。




夜中、孫警備兵は眠れなかった。
それも当然で、ベッドの下に誰かが横たわっているというのに、ぐっすりと眠れるわけが無い!

家の外に出ると、顧威霆の部屋も灯りがついていた。
結局の所、自分の息子が下で凍っているかもしれないのに、彼が眠れるはずがない。




タバコを吸いながら散歩していると、門で知っている姿を見た。

白洛因は服だけが薄い見張り番のように、まだ門に立っていて、立ち去って居なかった。

孫警備兵は急いで向かった。

「因子、まだ帰ってなかったのか!?」

白洛因の声は少し掠れていた。
「顧海を待ってるんです。」

孫警備兵の顔が、怒っているのか不安なのかわからない表情に変わった。

「言わなかったか?長官は2日間小海を滞在させるだけだから、素直に家で待ってればいいのに、お前はここでなにしてるんだ?」

話すと、自分の服を白洛因に着せた。

白洛因は服を孫警備兵に返した。
「孫おじさん、まだ俺を騙せると思ってるんですか?」

孫警備兵は黙っていて、彼の表情は少し無力だった。

「小海は長官に監禁されてるが、お前は永遠にここに立っているのか?それで何ができるって言うんだ?長官が出てきて、門でお前を見つけたら、間違いなく怒るだろう。私の言った事を聞いても、明日の朝まで立っているのか。」

孫警備兵がそういうと、白洛因は素直に去っていった。

孫警備兵は息を吐いたが、白洛因は暗い角を見つけると、そこで顧海を待って、二度と動かなかった。

「なぁ……」

孫警備兵はなんと言ったらいいのか分からなくなった。
この2人の子供が、本当に心配で仕方がない。