第12話 情熱的な背の高い美女

三日後、白洛因は忙しい時間を割いて、お見合いへと向かった。それは白隊長がどれほどこのお見合いを重視しているかが見て取れる。

女の子は少し早くカフェに着き、窓側の席に座って時々外を眺めて緊張を和らげていた。軍用車両がゆっくりと視界に入り、女の子の心臓は飛び跳ねた。彼女は白洛因が軍人であることは事前に知っていたが、どんな人かまでは知らなかった……

運転手が車から降りるのに気づき、彼女が急いで目を向けると、至って普通の顔の人だった。少しがっかりしたが、別にイケメンだからと言って良い訳では無い。中身が重要なのであって、それを徐々に知っていけばいいだけの話だ。

女の子は外を見るのをやめた。

白洛因はカフェに入ると、座っている場所を事前に教えられていたので、すぐに見つけることが出来た。

「こんにちは、白洛因です。」

女の子は顔を上げたまま、しばらく固まった。

イケメンな軍人が突然目の前に現れたのだ。背は高く、申し分のないスタイル。男らしい顔で口角を僅かに上げる姿は、タフな優しさが溢れていた。さらにさっきまでは普通の人が来るのだとばかり思っていた為、それと比べて突然のイケメンの登場は、その魅力ん強調させていた。

女の子の心の中には体当たりされていると錯覚するほど、嬉しかった。

「こんにちは、狄双です。」
女の子は手を差し伸べた。

白洛因が女の子と丁寧に握手すると、その手は少し濡れていた。

二人はしばらく会話を弾ませたので、白洛因にとっての狄双の印象はとても良かった。全てを受け止めて、自分の意見もしっかり話す彼女の姿は、とても賢く見えた。狄双にとっての白洛因はそれ以上に良く、イケメンなだけではなく、しっかりと話してくれる。簡潔に話しているうちに出ている手振りは、たまらない魅力を放っていた。

「お見合いするの初めてなんです。」
狄双は笑顔でそう言った。
「本当は来るのを拒んでたんですけど、今日は来て良かったです。」

自分への好意を露骨に表現する狄双の姿を見ても、白洛因は動か無かった。狄双に事情を話さなければならないからだ。

「自分は軍から出ることは出来ないので、本当に交際したとすれば、辛い思いを沢山させてしまうかも知れません。」

狄双は笑顔で頷いた。彼女はずっと前から白洛因に夢中になっているので、何を話しているのかなんて理解出来ていない。

「仕事が忙しいから、少なくとも数週間、長ければ数ヶ月会うことも出来ないかも知れませんよ?」

狄双は笑顔のままだ。
「大丈夫ですよ。いつまででも待てますから。」

「危ない仕事をしていますし、任務によっては命を落とすかも知れません。」

「分かってます。口は挟まず、応援していますから。」

白洛因は額を抑えた。
「私たちは合ってないかもしれない……」

狄双の笑顔が遂に消えた。
「どうしてです?」

「率直に言って、あなたが優しすぎるから、我慢をさせられないんです。もし結婚したとしても、自分は家に帰ることも無く働いて、あなたに家庭の暖かさを与えることも出来ないし……」

「あなたが思ってるほど、私はいい人じゃないですよ。」
狄双が白洛因の言葉を遮った。

「あなたに出会うまで、社長に片思いしていたんです。」

「え?」
白洛因が僅かに眉をひそめると、狄双は慌てて説明した。
「違います!ただ、あなたが思ってるよりもいい人じゃないと言いたいだけなんです。私にだって悪い条件はあります。あなたに自由が無いように、私にも無いんです。あなたが軍から出られないように、私もデートは会社で禁止されてるんです。」

「そんな規則が?」
白洛因は疑問に思った。
「……どのようなお仕事を?」

「科学会社の財務部で会計士をしています。」

「会計士だから恋愛が禁止されてるんですか?」

狄双の赤い唇が、丸く弧を描いた。
「会計士だから恋愛が禁止な訳ではなく、社員全員が禁止されてるんです。どうしても恋愛がしたいなら、上の承認を得なければならいんです。結婚するなら取引先とだけで……恋愛がバレれば解雇されます。」

「そんな……厳しすぎませんか?」
白洛因がこんな規則について聞いたのはこれが初めてだった。

狄双は頷いた。
「お互いに問題を抱えているのであれば、上手く行くと思うんです。」

それでも白洛因は厳しく言った。
「あなたが本当に彼女になってくれるのなら真剣に考えます。あなたとならどんな短い時間でも、楽しく会話出来ると思う。でも、申し訳ないけど彼女には出来ません。」

狄双は悲しそうか顔で外を眺めていたが、突然何かを思いついた。

「上司にお願いしてみます!私は軍事企業で働いていて、あなたは軍人だから、条件は満たしてます!私たちが付き合えばそれはお互いの利益になりますし、社長も絶対許可してくれるはずです。」

白洛因は目を細めて、恐る恐る尋ねた。
「会社の名前を伺ってもいいですか?」

「北京海因科学株式会社です!」
狄双は誇らしげにそう答えた。

狄双は白洛因が何も答えず、突然顔色が変わったのを見て、自分の会社に偏見を持っているのだと勘違いし、急いで説明した。
「当社はちゃんと経営されていますし、確かに社長は女性社員しか雇いませんが、それでも変な仕事を受け持っている訳ではないですよ。」

説明しなくたって分かってるよ……。

白洛因の顔が暗くなっていくのを見て、狄双の心が冷たくなった。

「白洛因さん、変なことを言っていると思うかもしれませんが、私にとってあなたは条件が揃ってるんです。でも条件が合っているから彼女になりたい訳じゃないんです。北京の中で条件が合う女性がいるのは、私たちの会社だけだと思うんです。あなたのような人が沢山いて、しかももっといい条件だったとしても、若くて美しく、文化的で、家事の出来る女性を選ぶと思います。私の会社に一歩入れば、そんな女性なんて沢山居ます。」

白洛因は複雑そうに笑った。
「あなたの話を聞いていると、あなたの会社は玉の輿に乗れる女性を育てているように聞こえますよ?」

「そうかも知れませんけど!」
狄双は何がなんでも白洛因の偏見を取り除きたかった。
「でも、私たちの会社の女性はちゃんと結婚してますし、しかも長男としか結婚しません!」

白洛因は狄双を面白がっていた。

狄双は白洛因の笑顔を見て、気分が戻り、声も柔らかくなった。

「もしかしたら、私と一緒になるよりも、他の女性と一緒になる方があなたには合ってるかも知れませんね。見た目が違うだけで、中身はほとんど一緒ですし、良ければうちの社員に会ってみませんか?」

白洛因はもう何も言えなかった。


初対面にしては、二人は楽しげに会話を弾ませることが出来た。狄双は午後の仕事に戻らなければいけない為、白洛因は運転手に狄双を会社まで送るように頼んだ。会社について狄双が車から降りた時、狄双は花のような笑顔を咲かせていた。

二人の姿をたまたま小陶が目撃していた。

小陶は噂を広めようと目を凝らしてみると、男が白洛因である事が分かった。彼女は白洛因の事を覚えていたのに加え、年次総会の時に魅了されていた。それに交渉もしていた為、白洛因の印象は冷たく、近寄り難い人だった。そんな印象を持っていたので、白洛因が狄双をエスコートしている姿を見て、とてもショックを受けていた。

小陶は急いで狄双の事を追って、一緒のエレベーターに乗り込んだ。

「ねぇ、あの男の人は?」
小陶が故意に尋ねると、狄双は頬を赤く染めて答えた。
「私の彼氏なの。」

小陶はそれを聞いて不快に感じた。彼に興味があった訳では無いが、何故か嫉妬している。
この子と私になんの違いがあるの?
どうやってあのイケメンを落としたの?


その後、この話は会社中に広まった。


この時期はとても忙しく、それに加えて闫雅静が居ないこともあり、顧海は周りを気にする余裕がなかった。

しかし、小陶は狄双の嬉しそうな姿を見て我慢ならず、仕事の報告をする機会を利用して顧海に話した。

「顧社長、小陶が恋をしているのを聞きましたか?」

顧海は無表情で頷いた。
「少しな。」

「それならなんでなにも言わないんですか?彼女は会社の規則を破っているのに罰則が無いだなんて、今後規則を誰も守らなくなりますよ?」

顧海は小陶をちらっと見た。
「ちゃんと証拠が見つかれば対処する。」

「この目で見たんです!」

小陶がそう口走ると、顧海は冷たく鼻を鳴らした。

「お前が見たところでそれが証拠になるのか?」

小陶は恥ずかしそうに何も言わなかった。

「会社の為にも目を使うんじゃなく、口を使ってくれ。」

そう言われると、小陶には反論する勇気も無くなった。

小陶が去った後、顧海は社長室の椅子に寄りかかり、目を細めた。天井の模様を見て、どういう訳か白洛因の口元を思い出した。数日前に会社の前で話してから、何日も連絡がない。

他にも、顧海の心を揺らす原因はあった。

顧海は自分の胸に手を当てて、大丈夫だと自分に言い聞かせた。

狄双に関する噂は金曜日にもなると消えた。

白洛因は刘冲の見舞いに病院に行った帰り、彼女に会うために顧海の会社へと向かった。

白洛因はたまたま仕事が終わったから来たのであって、わざと合わせた訳ではなかったが、顧海の会社もちょうど仕事が終わる時間だった。

狄双は会社から出てくる社員の視線に晒されながら、白洛因の腕の中へと飛び込んだ。

特に白洛因は周りから見られているのに、このような光景を見せた為、より注目を集めた。

その瞬間、会社の前がざわついた。