第17話 激しい戦い

空域に侵入してきたのは、国籍不明の偵察機だった。白洛因の戦闘機が離陸した後、この偵察機を探したが、偵察機は機体が小さく、赤外線も弱い為、レーダーによる検出と追跡が難しい。白洛因は肉眼で捜索し、優れた加速性能を駆使し、迅速に目標へ接近した。

やっと、白洛因は偵察機を見つけ、ミサイルを発射したが、予期せず敵機も爆弾を投下し、白洛因の攻撃から逃れた。白洛因は状況を理解し、空中給油を行うと、中国全土を横断し、敵機は西へ向かった。最初、敵機は回避を選んでいたが、意外にも白洛因が追いかけて来た。敵機は圧倒され、やむ無く攻撃を始めた。二つの戦闘機は空中戦へとなだれ込んだ。

低速飛行していた戦闘機が急激に加速し、射程に入ったらミサイルを発射した。しかし白洛因はすぐに回避し、柔軟に戦闘機の瞬時な角度変更をした。白洛因への過負荷は彼の身体の限界に近づき、血が下がり、脳に十分な血液供給をすることが出来なかった為、目の前がぼやけた。

しかし恐怖は無かった。

突然、白洛因は別の空中警告を受けた。二機が交差し激突しようとしている。白洛因は無意識に大きくオーバーロード操作を行い、敵機の後ろについた。それに気づいた敵機は急いで攻撃を仕掛けようとしたが、間に合わず、不利な状況へと持ち込まれた。

白洛因は状況を利用し、ミサイルを敵機の左翼に向けて発射した後、すぐに二発目を撃った。

白洛因の"死ね!"の声と共に、敵機が空中で分裂しし、破片が至る所で爆発した為、白洛因の前は煙で何も見えなくなった。

白洛因が帰還しようとした時、突然機体の不規則な揺れを感じた。

白洛因は原因解決しようとしたが、戦闘機の操縦自体が既に出来なくなっており、戦闘機が倒立状態に陥った。この時、白洛因は既に頭を下げ、重度の脳の鬱血に加え、足がぶら下がりペダルに届かず、激突を防御することは困難だった。

すぐに、白洛因は身体が落ちていくのを感じ、下には沼地が見えた。

パラシュートで逃げた瞬間、白洛因の目の前で戦闘機が爆発した。

突然、八年前の事故を思い出した。

何年間も心に埋もれていた恐怖が、この瞬間ようやく顔を出した。

初めて死が怖く感じた。



美しい衣装を着た司会者が顧海に近づき、小声で尋ねた。
「もうすぐ時間ですが、始めて宜しいですか?」

顧海は招待客のリストを見て、そして式場に集まった招待客を見て、ただ一人だけがやはり欠けていた。

「すみません。もう少し待ってもらってもいいですか。」

闫雅静は母の側にいた。母は闫雅静よりも緊張していて、聞き続けた。
「まだ始まらないの?いつ始まるの?」

闫雅静はせっかちに聞かれるのに耐えられず、顧海の元へ向かった。

「誰が来てないの?」

顧海は光の無い目で闫雅静を見て、静かに三文字だけを吐き出した。
「白洛因。」

「あっ……。」
闫雅静の顔が突然変わった。
「そしたらもう少し待ちましょう。」

式場には招待客もスタッフも揃っているのに、顧海だけがホールに立っていた。ドアの前に立つその顔には、微かな不安が滲み出ており、理由もなく胸が苦しくなった。

顧威霆は立ち上がって顧海の元へ歩いた。

「なんで始めないんだ?」
顧威霆が尋ねると、顧海は彼をちらっと見て、小さい声で言った。
「白洛因が来ないんだ。」

顧海からその名前を聞いて、顧威霆はまだ受け止め切れなかったので、口調が固くなった。
「彼一人じゃないか。闫雅静のご両親も待ってるんだぞ?」

顧海が闫雅静の母をちらっと見ると、体調が万全ではないのに加えて、長時間騒がしい環境で座っていたので、彼女の顔色は既に悪かった。

「……わかった。」

顧海が中へ入ろうとしていると、突然入口に影をみつけたが、彼が求めていた人物ではない、軍服を着た別の人物だった。

兵士は顧威霆の近くへ寄ると、小声で何かをささやき、それを聞いた顧威霆の顔色が変わった。

それから顧海に目を向けたが、すぐに目を逸らした。

その目だけでも、顧海は心に強い打撃を与えた。

彼は二人に一歩近づき、静かに尋ねた。
「どうしたんだ?」

「なんでもない。」
顧威霆の顔は鈍っていた。
「少し軍で問題が生じた為行くが、式はそのまま開きなさい。私は……」

「因子に何かあったのか?」
顧海が顧威霆の言葉を遮った。

それを聞いた顧威霆の顔が突然変わり、声に怒りが滲んだ。
「これは軍の問題だ。お前には関係ない。」

顧海が突然声を荒らげた。
「因子に何かあったのかって聞いてんだよ!!!」

顧威霆は固まったまま、何も言わなかった。

騒々しかった式場は途端に静かになり、全ての招待客がこっちを見て何が起こったのを探っている。闫雅静はそう遠くに居ない顧海を見て、すぐに何かが起こったのだと理解した。

顧海は顧威霆の横を通り過ぎて、ドアに向かって歩いた。

「戻って来なさい!」
顧威霆が叫んだ。

顧海はそれを無視して、警備員の驚いた視線を浴びながら歩いた。

「あいつを止めろ!」

命令が下ると、三、四人の警備員と数人のスタッフが顧海の後を追った。顧海は会場の通路を歩き、会場にいる誰もに見られながら、三階の窓から飛び降りた。

顧威霆も後を追うと、階段で止まっている七、八人の警備員の誰もが、恐ろしいものを見たかのような表情をしていた。

「あいつは?」

警備員の一人が答えた。
「とっ……飛び降りました。」

顧威霆は顔を青くして窓へ走り見下ろすと、彼の息子は既に走っていた。

闫雅静も出てきて、絶望している顧威霆の顔を見た。

「おじさん、一体何があったんですか?」

顧威霆は落ち着いて、声を下げて言った。
「軍で問題が起きて、小海は兄を心配してるんだ。私もすぐに軍に行かなければならない。ご両親にどう説明すれば……恥ずかしくて仕方ないよ。問題が解決したら、なにか償いをさせてくれ。」

闫雅静は寛大に受け止めた。
「おじさん、大丈夫ですから早く行ってください。人の命は何よりも大切ですよ。」

顧威霆は頷いて、すぐに他の軍人と去った。

闫雅静は人を騙すのは上手くいかないとため息をついた。



顧海が軍に着く頃にはもう夜だった。

監視と調査を行った一部の将校と兵士を除いて、その場には殆ど誰もいなかった。

冷たい風が何度も吹き、顧海の心は重たく苦しかった。軍人が彼の方へ向かって来て、悲しい表情で説明をした。

「白洛因の操縦する戦闘機が敵機との戦闘後……」

「詳細はいい。」
顧海の目はビー玉の様だった。
「結果だけを教えてくれ。」

軍人は唾を飲み込み、小さな声で答えた。
「……戦闘機は墜落し、パイロットは失踪しています。」

失踪?こいつは本当にそう言ったのか……?

時代を超えて、様々な事故で行方不明になった戦士は、音信不通のままだった。

軍人は慎重に言葉を付け足した。
「戦闘機が爆発する前の瞬間に、白洛因はパラシュートで脱出しています。安全な高さからでしたので、生存確率は高いです。」

「どこに飛び降りたんだ?」

顧海が静かに尋ねると、軍人は顔を伏せた。
「……まだ分からないんです。」

「あいつはどこに落ちたんだ!?」

顧海の目の冷たさは、周りに吹雪く風をも押し戻す力があった。

軍人の声は落ち込んでいた。
「……恐らく沼地に。」

顧海の身体が固まり、胸へと血が急ぎ、握りしめた拳はミシリと悲しい音を立てた。

「なんであいつにそんな危険な任務をさせたんだ?他にもパイロットがいるのに、なんであいつを死なせたんだ!?」

顧海は野生のライオンのように手に負えず、誰かが捕まえれば狂ったように噛み付いた。

軍人は急いで説明した。
「私は知りません!これについてはなんの責任を負うことも出来ません!私はただ捜索と救助をするのであって……私は……私は関係ありません……。」

顧海の血に飢えた瞳は、彼の無気力な顔を見つめた。責任を負おうとしない人を、この世で一番嫌っていた。

「軍は大規模な捜索と救助を行うために兵士を送ってます。二日以内には見つかるかと……。」

冷たい風の中、顧海は走り去った。

沼に沈んでたって、俺が絶対助けてやるからな!


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白洛因は着陸する寸前でも、自分がどれほど深く沈むのかを計算していた。胸より下の場合、生き残れる可能性がある。胸より上で首より下だったら、運次第だろう。
頭までも沈んだら、後は死を待つだけだ!

次の瞬間、彼は身体に何かにぶつかった痛みを感じ、身体の半分が麻痺した。白洛因が息を逃し、痛みが引くと、何かがおかしい事に気がついた。

なんだ?沼じゃないのか?

白洛因は座り、地面を押すと硬かった。