第24話 夫を追いかける小白
その後、社長と隊長は家の中で追いかけっこをしたが、結果は隊長の勝利だった。顧海にとって負けることは屈辱的だった。追いかけっこで体力が尽き、まるでソファと一体化したように動けなかった。
奇襲をかけようと白洛因の股に手を伸ばしたが、もう力が出ず、倒せなかった。
白洛因は怒りを込めて顧海の上に跨り、手には鞭を持っている。
「どうした?顧社長、負けを認めるか?」
顧海は目を細めて微笑んだ。
「そうだなぁ。もっとちゃんと座ってくれれば認めてやるよ。」
白洛因が見下ろし、従って体重をかけて押さえつけたが、ただじゃれているだけになってしまった。
白洛因は優しい目をしている顧海を睨みつけたが、その目を見れば怒りが吹き飛んでしまった。
白洛因はゆっくりと上半身を下ろして、顧海の上に乗っかった。
顧海の心は溶け、その大きな手は白洛因の頭を押さえ、強く引き下げると、唇まであと少しという所で止めた。吐息だけが、白洛因の顔にぶつかった。
「8年間、お前と抱き合いたくてたまらなかった。」
「……俺も。」
強い電流が2人を通して下腹部に流れた。顧海の呼吸は重くなり、獲物を捉えた獣のような視線を白洛因にぶつけた。白洛因の背中に置かれた手がゆっくりと下がっていると、突然翻されて白洛因を押し倒した。
白洛因は怖くなって逃げようと顧海の手を叩いたが、顧海はただ微笑むだけだった。
顧海の心の中で、無数のアリが這っているようだった。
抑えきれない欲望が顧海の中で膨らんだが、8年前とは変わった白洛因の姿を見れば思いとどまる他なかった。この毒を飲んでしまえば、再び死の危険に晒されてしまうかもしれない。
「……腹減った。」
白洛因はじゃれるのを止めるようにそう言うと、顧海は深呼吸を繰り返してから答えた。
「座って待ってろ。」
前とは違って、顧海は忍耐力を鍛えていた。
白洛因は部屋の中をうろついていたが、つまらなくなってキッチンのドアの前に立つと、衝撃な姿を目にした。顧海は包丁で遊ぶように肉を切っていた。その目はさっき白洛因に向けたものと同じだったので、白洛因は悲しくなった。
俺は肉と同じなのか?
やっと、食事の準備が整った。
白洛因は料理でいっぱいになったテーブルを見て、幸せそうに冗談を言った。
「俺の好きな物ばっかじゃん!俺が来るの知ってて準備してたのか?」
顧海は冷たく鼻を鳴らした。
「誰がお前のためにだって?来なくても元々これを食べる予定だったんだ。お前を幸せにさせるためじゃねぇよ。」
そう言うと料理を全てを自分の周りに寄せた。
以外にも白洛因はそれを取り返そうとせず、残っていた野菜ばかりを口にした。
顧海は軍で美味しい料理を食べられていない白洛因のことを考えると我慢できなくなった。
「もうダメだ。可哀想に見えてきた。周りのヤツに顧社長から虐待されたとか言うなよ。」
そう言うと手元に置いていた肉料理を全てを白洛因の前に出した。
それでも、白洛因は遠くへ行ってしまった野菜を食べようとした。
顧海は暗い顔をしながら白洛因の手を叩いた。
「わざとやってんのか?」
白洛因は何も言わず顧海を睨みつけると、手元の肉料理を食べるために口を開いた。
顧海の気分は不安定で、硬い声で白洛因に話した。
「白洛因、お前悪い子になったんだな。」
白洛因は心の中で呻いた。
悪い子だって?
お前が緊張してると思ってやってやったのに?
そう思うぐらいなら変なフリをやめろよ!
「……お前に同情するよ。」
顧海がため息をつくと、白洛因は冷笑した。
「同情?俺は同情する程じゃねぇよ。」
「目の前の顔を見てもそう思ってんのか?もしお前の恋人だったら心配でたまらねぇよ。」
言外に他のやつは誘惑せずに俺だけにしろと伝えたが、伝わるわけがなかった。
白洛因はさりげなく答えた。
「お前を恋人にする気はないけどな。」
この時、顧海の今すぐその口を抑えてしまいたかったし、白洛因を犯したくてたまらないだけだった。
食べ終わると、白洛因は口を拭いて立ち上がった。「帰る。」
「え、もう帰るのか?」
顧海が縋るように尋ねても、白洛因は目を細めただけだった。
「そうだけど?」
顧海の顔が変わり、静かに心の中で会議をした。どうすれば白洛因を引き止めることが出来るのか、それからどう犯して屈服させることが出来るのか。
しかし、白洛因は顧海から引き止めさせる機会を奪った。
「自分に厳しくしなきゃいけないからここには居られないんだ。未来の恋人を安心させなきゃいけないからな。……なぁ顧海。分かるだろ?」
タバコを咥えると、軍服を羽織って出ていってしまった。
夜になり、顧海は風呂に入っていたがもう耐えきれなかった。どんな毒よりも中毒性がある白洛因のことで頭がいっぱいだった。冷たくて魅力的な瞳、2本のまっすぐな脚、ふとした時に突き出る唇、軍服に包まれた小さな尻……
顧海は8年間も溜めに溜まっていたので、想像だけでは満足出来なかった。
あいつを守るためだ。一晩ぐらいの我慢くらい容易い!
顧海はベッドヘッドに寄りかかると、タバコを吸いながら自己暗示させ落ち着かせようとした。どうしたって白洛因と繋がりたかったが、想像上の白洛因で妥協してやった。罪深い習慣を消すためにも白洛因の体に教えこんで、他の人へと逃げないようにしなければならない。
そのまま、顧海は無理やり眠りについた。
翌朝早く、顧海は"息子"を抱えて出社した。
2、3日白洛因は会社の前まで車で来て、そのまま顧海の家でご飯を食べた。顧海は毎日白洛因が来るように習慣付けさせて、時間通りに会社の前で車に寄りかかる白洛因の姿を見て自分のことを褒めた。
同時に、愛されるという喜びも味わっていた。
闫雅静は家の事を終えて出社すると、社長室に何かが置いてあるのを見つけたが、最初は誰かのいたずらだと思っていた。しかし何度行っても顧海のそばにそのロバは置いてあり、しかも愛おしそうにそれを眺めている。誰かがロバをバカにすれば、顧海は間違いなく彼女をクビにしただろう。
今日も同様に、闫雅静は出社と共に社長室へと向かった。
すると、彼が外に目を向けていることに気がついた。
闫雅静がこの光景を見るのは2度目だった。
顧海が何故そんなに外を見ているかが気になった。
「顧社長。」
闫雅静がドアをノックすると、顧海は振り返り、目の温度が急速に落ちた。
「そこにファイルを置いとけ!」
闫雅静は置くと顧海に目を向けたが、顧海はまた外を見ていた。
「何を見てるの?」
闫雅静は我慢ならなくなって聞くと、顧海は静かに微笑んで手招きし、白洛因のことを指さした。
「ずっと立ってるんだ。バカみたいだろ?」
目には隠しきれない幸せが浮かんでいた。
闫雅静は理解出来ず、驚いた顔で顧海を見た。
顧海はあんな幸せそうにお兄さんを見ていたの?
その上、彼女は白洛因はバカには見えず、彼よりも顧海の方がよっぽど愚かに見えた。
「2日間ずっと立ってるけど、誰を待ってるのかしらね。」
それを聞いた顧海は自慢げに口角を上げたが、闫雅静もわかっていてこれを言っていた。
「でも彼が来てから社員がみんな会社の前にいるのよ。昨日なんて外に出たら社員が彼の電話番号を聞いてたわ。」
顧海の目が冷たく引き締まった。
「教えてたか?」
「えぇ!」
闫雅静は嬉しそうに微笑んだ。
「その子は何度も彼と話してたわ。あんなにかっこいい人がずっと立ってるんだもの。声をかけられるに決まってるわよね。」
そう話しながら闫雅静は頬を赤く染めた。
顧海は会社の下に目を向けると、たまらなくなって立ち上がり、社長室を出て行った。